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異世界で俺が棍棒を使って無双する話  作者: くるっくる
第2章 棍棒の冒険者
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第36-7話 領主の館にて その3

領主バリュー、そして娘のエディと歓談しながら俺達の夕食は終わり


館の客室へと通された

俺とルシュは別の部屋に…という事になったが、ルシュが二人用の部屋が良いと言い、

同室となった


客室は過度な装飾が施されていない、落ち着いた部屋だった

ベッドが二つに椅子が2つ、小さなテーブルが一つにクローゼットがあり、まとまった内装である

だが置かれている家具は決して安物ではなく、真鍮の様な装飾があり

決してキズなんてつけられない…と思った


俺とルシュはいつも通り荷物を床に置き、ルシュは床に傷を付けない様に厚手の布で包んだ剣をベッドの横に置く


この剣に関してはバリュー、エディ、そしてアネイルも興味津々で、

三人ともまじまじと眺めていた


アネイル曰くとても豪快ながらも丁寧に磨き上げられた剣で、

彼女自身が使っている剣と打ち合う事はとても出来ない程の強度と重さがある、

と言っていた



と、思い返しながら俺達はそれぞれのベッドに腰掛け、想いにふけっていると


トントンと音がした


「少し良いかしら?」

扉の向こうからする声はアネイルのものだった


……


アネイルを部屋に招き入れた


俺とルシュはそれぞれのベッドに、アネイルは椅子に腰かけた状態になる

彼女は所謂寝間着に着替えており、こう見ると淑女と言った印象を受ける落ち着きがある


「どうしたの?」

ルシュがアネイルに尋ねた


ルシュの言葉にアネイルは少し考える素振りを見せた後、口を開いた


「おじい様の事、あなた達にお礼を言いたくてね。

私が言えた様な立場じゃないんだけど、ありがとう」

そう言ってアネイルは俺達に頭を下げる


彼女の言動にルシュはきょとんとした様子、俺は少し焦る

「いえいえ、これは俺達の意地だったから」

その言葉にアネイルは顔を上げ、微笑む


今の服装も相まってとても品がある

将軍の孫、要するに貴族にもあたるのだろう

そうであることにも納得が行く

少し見とれてしまった


「少しだけ、話して良いかしら…?」

アネイルの言葉に俺達は頷く


その様子を見て、彼女は再び口を開く

「レーゼンダルの名を継ぐもの、血を引くものとして、私がおじい様を討つつもりだったの。

けれど、すぐに動くことが出来なかった」

アネイルの視線は少し下を向く


「そんな事は、多分いけない事だと思う」

俺はついつい口を次いで出る

なぜいけないのか、それはアネイルがロウザンの孫で、尊敬する人物だからだ

でも、それは俺のエゴでしかない、分かってる事だ


アネイルは、俺の言葉に対しては何も言わなかった

肯定も否定もしないという感じだった


「『ガリュエヌの古城に巣食う賊』がおじい様の名を騙る賊だとしても、本当のおじい様だとしても、

私は討伐に行くべきだと、思っていたの。

おじい様の名を騙るのであれば、レーゼンダルの名を穢すものとして、本物のおじい様なら…」

そこでアネイルは少し黙る


「本物のおじい様なら、孫である自分自身がその責任を果たさないと、と思ったの。

シュラスタを持って」

シュラスタ、初代魔王アンティロからロウザンが授かったと言う青白い剣


「けれど、私は中々踏み出せなかった。

もちろん賊がとてつもない実力者だから勝ち目が薄い事もあったのだけど、

本物のおじい様であるなら、おじい様が国に牙をむく逆賊であるその事実を認める事が、

私が剣を向けることが怖かった」

アネイルの言葉は少し弱々しく感じた


ルシュは少し心配そうな表情をする


「結局、覚悟するのに時間が掛かってしまったこうなったのだけれど…

あなた達がおじい様を打ち負かしたから、何と言うか、胸のつかえが降りたと言うか…

もちろん、おじい様のこれからの事を考えると私は」

そこでアネイルは言葉を詰まらせる


俺達は黙って彼女の次の言葉を待つ

空気を読むっていうのはこういうことだ、なんて場違いな事を考えてしまった

ルシュも黙っている、彼女は空気を読む能力がとても高いと思う


数十秒後、アネイルが口を開く

「さっき、おじい様と少しだけ話をしてきたの。

おじい様に頭を下げられてしまったわ、迷惑を掛けた、と」

アネイルは少し微笑んだ


「なんだかおかしく感じてしまって。

そして、おじい様に頼まれたの、ガリュエヌの復興を手伝ってやってくれって。

強制はされなかった、あくまで頼まれただけ、なんだけどね」


「ガリュエヌ城や山道の復興を…つまりロウザン将軍みたいに代表になって?」

俺の言葉に彼女は軽く首を振る


「私にそんな能力は無いわ。

トゥスさんって方が万事やってくれてるから、おじい様は彼に一任してると言ってた。

だから私は現場仕事かな。

その方が性に合ってるわ」

トゥス、ロウザンに従っていた身なりの良かったコボルトの男だ


ロウザンはこうなる事は想定済みだと言っていた、

ガリュエヌの扱いについても元よりそう言う事にするつもりだったと言う事か


「でも、その前に王都まで行って、おじい様の末を見届けるわ。

おじい様を打ち負かしたのがあなた達で良かった、ありがとう」

彼女は再び俺達に礼を言う


……


アネイルは自分の寝室へと戻っていった


俺とルシュは軽く会話してから互いのベッドの中に入る


彼女の中にはまだまだ葛藤がある、そんな気がした

俺にとってはただ勝ちたい相手だった、ただそれだけだったけれど、

それに対して起こる出来事は俺達の想像を大きく超えていた


そんな風にきっと世界は広いのだろう

まどろみの中で俺はそんな事を考えていた

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