第36-2話 想いと時代
「俺達と…話を?」
俺の言葉にロウザンは少し笑う
「うむ、俺を負かした相手だ、話してみたくもなるものだ」
そう言ってロウザンは俺達を見る
「聖酒はもう、大丈夫?」
ルシュが尋ねる
ルシュの言葉にロウザンは頷く
「うむ、もう何ともない。
しかし、あれは酒なのだろう?
聖水でもない、あのようなものがあるとはな…」
ロウザンは感心した様に話をした
そう言えば、なぜロウザンには聖水が『効いた』んだろう
かつてウアルの村でアンデッド退治をした時にはあの村の住民は聖水の影響を受けた様子はなく
聖酒についても普通に飲んでいた様だ
俺は、それを聞いてみる事にした
「何故、あなたには聖水が効いたんですか?
俺が知ってる人たちはそんな事は無かった」
俺の言葉に、ロウザンは少し間を置いてから返事をする
「それは、俺は始祖の血が濃いからだろうな」
と言った
「始祖?」
俺とルシュが口を揃えて尋ねる
「そうだ、魔族の始祖、ルーツとも言われる存在、
悪魔とも言われている伝説上の存在だ」
「悪魔…」
俺の中では何となく悪魔=魔族みたいな認識だったが
少なくともこの世界ではそうではない様だ
「魔が強すぎるが故に人族の信仰する神の祝福を受けた聖水によって力を奪われてしまうらしい。
だが、俺の様なものは当時でも珍しかった、今の時代にはその様な体質の者はほぼ居ないだろう…
始祖の血は俺の居た時代ですらかなり薄まっていたのだから」
「なるほど…」
俺は納得した
ルシュは要領を得ない表情をしているが、これはまたその内俺が説明をしたら良いだろう
僅かな間、俺達は黙る
山道を進む馬車は揺れるが、運転手の腕が良いのか、山道を進んでいるとは思えない程
その揺れは小さかった
「あなたは、どうして手加減していたの?」
ルシュがいきなり確信を突く質問をした
俺はルシュとロウザンを見る
ロウザンは少し笑った
俺が思っていた以上に気さくな性格をしている様だ
「手を抜いていたつもりはない、が
確かに殺さない様にしていたことを手加減と言われたらその通りだな」
そして一拍置く
「この時代に生きる者たちの命を、未来を、過去の亡霊が奪うなどと、
あまりにもおこがましい、俺はそう思ったのだ」
ロウザンはそう語った