第36話 護送
俺達がロウザンと戦った翌日
まだ早朝にも関わらず
古城の前には大勢の観衆が集まっていた
先日の戦いの事はこの狭い城下町にあっという間に広まり、
ロウザンに仕えていたもの、この地に滞在していた冒険者や商人たちも集まっていた
「ロウザン様、どうかお気をつけて」
トゥスはロウザンに頭を下げる
その様子を見てロウザンは苦笑いする
「ふふ、これから裁かれに行く者に掛ける言葉ではないな。
後の事はそなたに任せるぞ」
ロウザンの言葉にトゥスは頷く
「ではロウザン殿、こちらに」
ミノタウロスの男がロウザンに声をかけ、馬車にロウザンを促した
「ヨウヘイ殿、ルシュ殿もどうぞ」
続けて俺達も声を掛けられ、ロウザンと同じ馬車に乗る
「あなた方をまず領主様の館に護送し、恐らくそこからはロウザン殿は王都へ向かう事になると思います。
お分かりになっていると思いますが…」
ミノタウロスの男の言葉にロウザンは頷く
「分かっている、何もせんよ」
そうロウザンは返事をする
「はっ」
ミノタウロスの男が馬車を引くブロンに跨る
ざわつく冒険者達、ロウザンに対して敬礼をする者たち
それぞれの反応をする群衆を置いて俺達は城下町を出る
そうして数台の馬車、馬やブロンに乗った兵士たちに囲まれる形で俺達は山道を下る事になった
その中には馬に跨ったアネイルの姿もあった
俺達はロウザンを倒し、捕縛した冒険者として
ロウザンは捕まった逆賊として
それぞれ違う立場で領主の館へ向かう
そんな俺達が何故かロウザンと同じ馬車に乗り、
周囲には兵士たちがいる
手際が良すぎるし、状況が呑み込めない
ルシュも少し困惑している
「…どういう事?」
馬車に乗り込んで直ぐにルシュが口を開く
誰に対して言った言葉なのか、この場には俺とロウザンしかいない
俺もルシュと同じ心持なので何も言えない
…
ルシュの言葉を聞いたロウザンが口を開く
「俺が敗れた後の事についてはあらかじめ準備をしていた。
無論、軍が攻めて来る、といった状況にもならない様にな」
ロウザンはリラックスした様子だ
「お前達に同じ馬車に乗ってもらったのは、俺が暴れた時に取り押さえられるものが
お前達しかいないからだ」
…それは建前だと言う事は簡単に分かる
彼がその気になれば俺達を馬車から放り投げ、護送している兵士たちを蹴散らすなんて訳ない事だ
「本当の理由は?」
ルシュが尋ねる
俺なら何となくそれ以上突っ込もうと思わなかったが、ルシュは臆することなく聞いた
ルシュの言葉にロウザンは少し間を置き
「お前達とこの僅かな間、語り合いたくてな」
と微笑を浮かべながら話した