第35-3話 好機
俺達から距離をとったロウザン
その右手には棍棒
僅かな時間が流れる
「これは…毒…?」
ロウザンが呟く
そして棍棒を投げ捨てる
「いや…酒…か…?」
初めてロウザンの声色が変わったように思った
ロウザンは俺が投げた『聖酒を浸し染み込ませた棍棒』を取ったのだ
勿論俺は当てるつもりで投げた、取られたのは防がれたのだが、それでも問題ない
ロウザンは聖酒で右腕が濡れ、飛沫を顔や体に浴びた状態だ
しかしロウザンのこの反応は…
どっちだ…?
俺とルシュは固唾をのんで見守る
ロウザンは少し黙り込んだ後、不敵に笑う
「なるほど、調べて来たか、俺の事を…
あの時の聖水ではないが、ふむ」
そう言いながら前に足を踏み出す、その足取りにわずかなふらつきがある事が見て取れた
「ルシュ!」
俺はルシュに声をかける
「うん!」
ルシュは俺の言葉に嬉しそうに返事をする
聖酒は効果があった!
ロウザン・レーゼンダル、希望が見えてきた
俺は、次に使う『聖酒に浸した棍棒』を袋から取り出した
袋の中には大量の聖酒の棍棒がある
「機を伺っていたか、なるほど
こうなると、流石に抜かねばなるまい」
そう言ってロウザンは剣を鞘から抜いた
以前ヤツの使っていた剣はルシュの魔法によって折れた
今持っている剣は別物だ、以前よりも頑丈そうな剣に見える
「さあ、少女よ、剣を手に取れ。
素手のものに振るうつもりはない」
ロウザンはルシュに剣を取る事を促した
その逆の事をロウザンはさっきまでやっていたのに…
とんでもないな…
ルシュはその言葉に従い、剣を拾い、構えた
「ルシュ…大丈夫なのか?」
俺の言葉にルシュは力強く頷く
ロウザン程の実力の持ち主の振るう剣、ルシュであったとしてもどれだけ持ちこたえられるか
ルシュ…無事でいてくれ
彼女が傷つく前に決着を付けなければならない