第34-8話 ウアルの村の聖女 その3
「申し訳ありません…」
アリエラさんが頭を下げる
「いえ、アリエラさんのせいではないので、頭をあげてください」
俺も申し訳ない気持ちになる
突然押しかけてしまったのだから、こういう可能性がある事も考慮すべきだった
しかし…
これで聖水を入手する事が出来なくなってしまった
「デュコウの王都バラオムなら、レダ教の教会がありますが、必ずあるとは言い難く時間も…」
そう言ってからアリエラさんは俯く
そうして少しの間俺達が黙り込んだ直後
「聖女様~、良い果実酒ができましたのでどうですか?」
と言いながらニコニコとした表情でこの村の村長が入ってきた
「村長様、こんにち…
そうだ…!」
村長に挨拶しかけたアリエラさんの表情が変わった
……
「聖酒、ですか?」
俺の言葉にアリエラさんは頷く
今、俺達はウアルの村の村長の家に招かれ、果実酒を振舞われていた
ルシュは発酵前のジュースを貰っている
「はい、聖水の代用…という程では無いのですが、
レダ様の祝福を得た果実酒です。
アンデッドを祓う事は出来ませんが、その力によって寄せ付けないとされています」
と説明してくれた。
「されています、という事は…」
俺がアリエラさんに尋ねる
「実際にそういう目的で使用されていたのは大昔で、今では祝い事で振る舞われるだけなので…」
少し自信が無さそうだ
だが
「その聖酒は、どうやったら手に入るの?」
ルシュが尋ねる
俺達は少しでも可能性があるならそれに賭けたい
「実は、この村で少量ながら作って頂いたのです。
それをお譲りしたいと思っているのですが、村長様、どうでしょうか?」
アリエラさんが村長に尋ねる
「もちろん構いませんよ、聖女様とヨウヘイさんとルシュさんたっての願いならば喜んで」
村長は嬉しそうに返事をした
「ありがとうございます」
俺とルシュ、アリエラさんは村長に頭を下げると、村長は少し慌てた様に
「いえいえ、聖酒についてはこちらで用意しますから、今日はこの村でゆっくり休んでください」
と言った
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この日の夜は、アリエラさんの計らいで教会の客室を使わせてもらった
簡素な部屋だが、ベッドが二つあり、居心地が良かった
少しゆっくりしていると、アリエラさんが部屋に入ってきた。
その手には大きな革袋の水筒が2つあった
「村長様から頂いて来ました。
これが聖酒です、どうぞ」
と言って俺達に手渡してくれる
「ありがとうございます」
「ありがとう」
俺達は口々に礼を言う
その言葉にアリエラさんは微笑む
「以前お力になると言ったので、聖水はありませんでしたが、これがお役に立てたらと思います」
と言った
「そういえば聖酒ってどんなお酒なの?」
とルシュが質問する
俺は勝手に聖水の様に清められた酒だと思っていたので気にしていなかった
ルシュの質問にアリエラさんは
「レダ様の祝福の果実とされるレダニの果実と、幾つかの果物を発酵させたお酒に、レダ教の神官が祈りの魔力を込めたものが聖酒となります。
幸い、この村は果実酒の生産が盛んでしたので、材料は全て揃っておりました」
と答えた
なるほど、根本的に聖水とは異なる物だったのか、これをロウザンへの切り札…とするには
正直不安が無いとは言わないが…
「そうだったんだ、ありがとう、アリエラ。
私達、アリエラやみんなが作った聖酒で絶対にロウザンに勝つから」
そう言ってアリエラにふんすと気合いを見せるルシュ
その言葉にアリエラさんも微笑む
そうだ、やれることはやった、これでロウザンに勝つ、勝ってみせる
俺は心の中で強く思った