第34-3話 亡国の蔵書
殆ど開かれる事がないであろう扉
その先にある空間はこれまでとはまた違う雰囲気を帯びている様に感じた
俺達は本棚を見ながら奥へ歩を進める
少し埃っぽい空間で、人が入る事が殆どない空間である事が分かる
エドリガの本がどのような経緯でこの国に入ってきたのかは分からないが、
戦利品や略奪もあったかもしれない
また戦争相手の国であろうとも、物流自体が互いに全く無いという訳ではないだろう
本のタイトルを横目に進んでいる内にふと思った
「ジャンル毎に整理されてない…?」
そして、それらしきタイトルの本が目に入った
俺がその本の前に立つと、隣にルシュも立つ
「ヨウヘイ…」
うつむき加減で少々困惑しているような様子だ、何かおかしい
「どうした?」
俺はルシュに尋ねた
少しの沈黙
そして
「私、文字が読めないかも」
といった
「えっ!?」
俺は驚きで手に取ろうとした本に手をぶつける所だった
……
俺とルシュは近くにある古いテーブルの埃を払い、椅子の埃も払ってから座る
本を広げると、ルシュが本を覗き込む
開いたページにはエドリガが行った戦の結果が載っているページだった
エドリガがデュコウの部隊を打ち破ったそうだ
「どうだ…?」
俺の言葉に、ルシュは覗き混むのをやめ、俺を見て首を横に振る
「多分、魔族の文字じゃない、全然分からない」
彼女は既に答えを得ていた様で、それを率直に言った
魔族の文字、と言ったが、俺がこの世界に来て得た情報としては
人族の国レインウィリスやそれ以外の近隣の国も同じ文字だと言う事だ
これは完全にエドリガ特有の文字と言う事だ、エドリガ語と言えば良いか…
「ヨウヘイは、読める?」
ルシュが俺に尋ねる
その様子に俺は少し困惑したが、頷く
俺がいつの間にか持っていた翻訳能力がこんな所で生きた様だ
「ごめんね…」
ルシュが申し訳なさそうに謝る
「ルシュは何も悪くないよ、アバリオさんの言ってたのはこの事だったんだ」
そう、アバリオが俺達に言った、理解する術が無かった、と言うのはエドリガ語が分からなかったんだ
さっきのクラエの様子からして、滅多にエドリガ蔵書の部屋に入る者はいない
識字率だってそこまで高くないのに他国の本は学者でも無ければ知ろうとも思わないのは当然か
「わたし、どうしよう…」
すっかり困った様子でルシュが呟く
読める俺がエドリガ語を教えるのは…無理だ
時間が掛かり過ぎるし、俺は『読めるだけで知ってるわけじゃない』
その違いは余りにも大きかった
言葉の意味の解釈についてはこれまでの歴史書の中でも手分けしながらも時折二人で相談しながら読み進めてきた
だから途中で俺が気になる事があればルシュに解釈を求める、と言う手もあるが…
だめだ、ルシュの時間が勿体ない
「どうするか…」
俺は考える
そうしていると、ルシュが顔を上げ、俺に向き直る
「何か思いついたか?」
俺の言葉にルシュは頷く
「私、あの魔法を使えるようになる、だからヨウヘイは調べてて欲しい」
と言った
あの魔法とはルシュがロウザンに大して放ったアレの事だ
本当にモノにできるかはきっとルシュにも分からない筈だ、だが『使えるようになる』と言った
これはルシュの覚悟だ
俺は頷き
「分かった、ロウザンを倒すためだ、ここはその為の手分けだ」
俺の言葉を聞いたルシュは
ルシュは両手を胸の前でぎゅっと締め、決意を見せた