第33-8話 実力者 その2
俺の前に立ったダークエルフの男はアバリオと名乗った
エルフやダークエルフは男女問わず長髪で髪を降ろしている者が多い
だが、この人物については髪が首周りまでしか伸びておらず、やや短めだ
髪色に関してはダークエルフに多い白髪だ
そして、何よりも目を引くのが左頬から顎にかけて大きな傷跡がある
その外見だけで歴戦の勇士を思わせるものがあった
アバリオ、その名前はガリュエヌの古城で小耳に挟み、
魔導協会へ行く前にここに訪れた時にもしきりに耳にした名前だ
ルガンドでのエースとも言える実力を持ち、この国においてもトップクラスの実力を持つ者
だが…
「突然お声がけして申し訳ない、マーテンの新星と言われるヨウヘイさんとルシュさんがルガンドに来ているとは思わなかったのでついつい」
いやぁ~と頭の後ろに手を置きながら微笑むアバリオ
頬の大きな傷跡を除けばダークエルフの好青年としか見えない
レゾル達に感じる様なオーラや猛者感があまりない
しかし
「おいおい、アバリオが話しかけてる相手は誰だ…?」
「人族と魔人の子供か、この辺りじゃ見ないな、他所の冒険者か?」
等と周囲からざわざわと声が聞こえてきた
どうにも目の前に立つダークエルフの男が有名人である事は間違いない様だ
「おっと、ここでは少々目立ちますね、良ければお時間頂けませんか?
場所を移してお話を伺いたいもので」
物腰柔らかなこの実力者の話は俺も興味が沸いた、ルシュも同じらしく、彼の提案を快諾した
……
俺達はギルドを後にして少し歩き、路地の中にある小さな飲食店の中に入った
店に入るなり、アバリオはコボルトの店主に
「何か適当なの頼みます」
と言い、俺達を席に誘導した
小さな酒場と言った感じだ
洒落っ気はないが、隠れ家的な雰囲気がある
「ここは私がルガンドに来てからずっと通ってる店でね、他の客が少なくて助かってるんです」
アバリオの言葉に
「他の客が少ないのは余計だ」
と店主が返した
そう言ってから俺達は小さなテーブルを挟んで向き合う
傷跡が目立つものの、端正な顔つきだ、
物腰も柔らかく、どことなく品を感じる
「マーテンに現れたグライエム、レゾルでも太刀打ち出来なかった魔獣を退けた冒険者に興味があったんです」
アバリオはそう言って俺達に目配せをした
「私達、ルガンドではそんな知られてないと思ってたんだけど…」
ルシュが不思議そうに返事をする
俺も同じことを思った
アバリオはルガンドと言う大都市で名を馳せる冒険者
それでもマーテンではその名を聞くことはほぼ無い
逆に俺達が活動しているマーテンは中規模の都市、そこでの名声が
ここに届いているとは思えなかった
実際ギルドに最初足を運んだ時、視線を集める事は全く無かったし、
アバリオが話しかけるまではただの冒険者としてしか周囲にも映っていなかったはずだ
俺達の反応を見てからアバリオは口を開く
「確かに、『マーテンにグライエムを倒した冒険者がいる』という話まではこの街でも耳にしましたが、
それ以上の話にはなりませんでした。
単純に私がその冒険者が誰なのか気になって調べただけの事です」
そう言って彼は笑った
なるほど、それなら合点がいく
容姿についても俺はまだしも、ルシュは俺が言うのもなんだが特徴的ではある
薄緑色の髪をした魔人の少女、そうそう居るものではない
「こんな機会は滅多にないと思いましてね、折角なのでお話をしてみたいなと思いまして」
そう言ってからアバリオは出された水を飲む
「ガリュエヌ古城には行かれましたか?」
と直球な質問をぶつけてきた
「ええ、まあ…」
俺とルシュの様子を見て、彼は察した様だ
「マーテンのギルドも実力者たちを送り込んだと噂は耳にしていましたが、やはりそうでしたか。
ご存じかも知れませんが、私達もロウザン将軍に敗れました」
とアバリオは話す
「私達?」
ルシュが聞き返した
その言葉にアバリオは微笑む
「ええ、どうにも名前だけ先行してしまっていますが、私達は基本的に4人でパーティを組んでいます。
頼れる仲間達ですよ。
どうにも手続きやらなんやらとやっている内に私の名前だけが槍玉に挙がる様になったんですよ」
そう言って苦笑気味に話をした
「私達はギルドからの依頼で4人でロウザン将軍に挑みました。」
そこで一旦口をつぐむ
「ですが、私達四人がかりで戦っても彼の鎧にキズを一つ付ける事が精いっぱいでした」
流石のアバリオも苦い顔をしている
鎧にキズをつけた、それだけでも彼等の実力が分かる
ロウザン相手にそこまで肉迫出来ていた事自体が驚きである
彼は俺達にどうだったかを促しては来なかったが、
言うべきだろうと思った
「俺達は、全く歯が立たなかった、ロウザンは剣を抜きすらしなかった」
実際は最後に抜いてルシュの光弾を切ったのだが、あれは別の話だ
ルシュもそう思ったのか特に口を挟んでこなかった
「そうでしたか…」
アバリオはそう言って黙る
「それでここへ腕を磨きに来た…と言う感じにも見えませんね」
アバリオは俺達の様子を見てそう言った
「まあ、色々と…」
ロウザンと戦うライバルになり得る存在に情報は出したくないので、俺は言葉を濁した
アバリオは特にそれ以上言及してくることも無く、口を開いた
「私達は、ロウザン将軍の討伐を既に諦めています」
と意外な言葉が飛び出した
俺はもちろん驚いたが、ルシュの方が驚いていた
「どうして?」
ルシュが尋ねる
「ロウザン将軍と我々の実力差は明白でした。
彼に勝つには一朝一夕ではどうにもなりません、彼に対しての徹底的な対策が必要です。
ですが恐らく、私達がどうこうするよりも前に事が動き、否が応でも解決するのではないかと思ってます」
アバリオはそう言った