第33-6話 歴史は勝者が作る
魔導協会の入り口までアルシェさんが見送りに来てくれていた
俺達は別れの挨拶をする前、
不意にアルシェさんが尋ねてきた
「ところで何故ルガンドへ?ルシュさんの魔力のお話を聞く為だけ…と言った感じには見えませんが…」
俺達は図書館が目的であった事をアルシェさんには告げていなかった
アルシェさんは誰彼構わず言いふらす様な人ではないだろうし、
別に隠すような事ではないと思ったので俺は理由を話した
「なるほど、ロウザン・レーゼンダル将軍が何故敗れたのか、弱点、ですか…」
アルシェさんは納得した様子だ
「ただ、ここに来てから数日、ずっと図書館に籠ってて色々調べてるんですが、全然情報が無くて…」
俺はロウザンに関する情報の少なさ、敗れた理由についての記載が今の所見つかっていない旨を話した
そうするとアルシェさんは少し考えこむ
そして
「デュコウにはその記録はないかもしれませんね」
と言った
その言葉に俺とルシュは顔を見合わせる
「どういう事?」
ルシュがすぐに尋ね返す
アルシェさんは少し言い辛そうに口を開いた
「ロウザン将軍がどのように敗れたのかが載っていない事には理由がある可能性があります」
そこで一拍置く
「一つは、敗れた戦の記録を残す者が居なかった」
…なるほど
その戦での大将はロウザンで、敗れたのだから周囲の者たちも命を落とした可能性がある
そしてアルシェさんは少し斜め下に顔を向ける、先ほどよりも言い辛そうな感じだ
「もう一つは、敢えて残さなかった、です」
「どういう事です?」
俺は即座に返答した
「……」
アルシェさんは少し黙り、そして喋り出した
「歴史は勝者のものです、デュコウとレインウィリスについては和解と言った形で終わりましたので、
双方の記録を照らし合わせればある程度正確な情報が得られるでしょう」
そして一拍置く
「ですが、初代魔王アンティロの時代に争っていた国、エドリガは滅びました。
直接的にデュコウが滅ぼした訳ではないですが、実質敗れたと言って良いでしょう」
「…?」
ルシュが少し不思議そうな顔をしてアルシェさんを見る、次の言葉を待つ
「…要するに『国の要でもあったロウザン将軍が敗れた理由を敢えて残さなかった、勝ち残った国の弱点、脆弱な点としての記録が残ってしまうから』等…
都合の悪い記録になってしまっていた可能性があります」
…なるほど、何となく理解した
勝者によって歴史が歪曲する、それは別に俺の居た世界でも起こっていた事だ、勝者が歴史を作る、と言った言葉を聞いた事がある
「となると…」
俺の言葉にアルシェさんは頷く
「図書館でも目的の情報を得る事は難しいかも知れません」
と言った