第33-5話 ルシュの魔力
俺とルシュは再びこの石造りの建物の前に来た
魔導協会のルガンド支部
前回は依頼完了の報告に訪れた場所だが、今回は目的が違う
「ごめんください」
俺は頑丈に作られたドアノッカーを使ってドアを叩く
……
暫くしてからゆっくりと扉が開かれた
そこには茶色のストレートな長髪の女性が現れた
「あなた方は…」
女性が口を開く
……
この女性は前回訪れた時に対応してくれたアルシェさんだった
前回はポニーテールだったので、髪型が変わると印象も大きく変わる
「すみません、突然尋ねてしまって」
俺の言葉にアルシェさんは特に気にする様子もなく
「お客様がいらっしゃる事は珍しいので、少し驚きましたけれど、気にしていません」
と言った
少しツンとした言い方に感じるが、アルシェさんは以前もこんな感じで冷静沈着な言動だったので
本当に気にしていないのだろうと思った
「どうぞ」
アルシェさんに通され、俺達は前回通された部屋に通される
応接室の兼ねているのだろうか
……
アルシェさんがお茶を持って俺達の前に置く
「ありがとうございます」
「ありがとう」
俺達は口々に礼を述べる
「いえ、ところで、本日はどのようなご用件で?」
椅子に座ったアルシェさんが尋ねてくる
「実は…」
俺はアルシェさんにロウザンに挑んだ事、
その中でルシュが魔法と思われるものを使用したが、これを今後使用出来るかどうか分からない事を述べた
もちろんルシュが竜族である事は伏せた上で
俺達の説明を聞いていたアルシェさんが驚きの表情を見せていた
「挑んでいたのですね、ロウザン…いえ、ガリュエヌの賊に…」
アルシェさんも内心あの賊が本物のロウザンであると考えているのだろう
「ルガンドの実力者達でも敵わなかったと聞いていたので、本人である信憑性は高いと思っていますが…
グライエムを倒したあなた方でも敵いませんでしたか…」
俺達が負けた事自体にはそこまで驚いている様子はないが、挑んだ事そのものが意外だった、そういう反応だ
「そして、ルシュさんがその最中で使用した魔法…それを安定して使用したいと言う事で…
やはりリベンジを?」
アルシェさんの問いにルシュが頷く
「お話の限りではかなりの威力を持った魔法だった様ですね、使いこなせれば大きな戦力になると思います」
そう言ってからアルシェさんは口をつぐむ
……
「私達は魔道具のみならず、魔族の魔法についても研究を行ってきました。
魔族の使用する魔法は根源的な魔力の発露、人族が主に使用する詠唱魔法とは少し違います。」
この話は以前イルミニに説明を受けた内容と同じだ
「聞く限りではルシュさんの魔法は純粋な魔力の放出の様にも思えます。
制御している…とも少し違う様な気がしますね。」
考える素振りをみせながらアルシェさんが続ける
「感情の昂ぶりによって発露した魔法であるのなら、同じ状況を作るのが一番手っ取り早いとは思いますが、
中々そういう訳にも行きませんね」
アルシェさんの言葉に俺達は黙って頷く
実際そこまでは俺達も考えていた、トリガーが感情であるかも知れないという所だ
「それを安定して使用する、となると、これはやはりイメージになってくると思います。
その時の感覚、気持ちだけではなく、全身の感覚をイメージするんです。」
そして少し置いてから
「もちろんこれは人族である私には行えない事なので、これまで調べた魔族の魔法の発露のケースになります。
恐らく自然にいつかは使用できるようになるとは思いますが、それをより早めたいのならば、自らの内に魔力を溜め、掌から放出する…
実際に魔法が出ずともそれを何度も行う事かと思います。」
「それで出来るようになる?」
ルシュがアルシェさんに尋ねる
「正直に申し上げますと、保証は出来ません。ですがこういった魔力のコントロールのトレーニングは魔族のみならず人族も行うものなので、
きっと意味はあると思います。賊に再度挑むまでにその魔法を使えるようになるかどうかまでは流石に分かりませんが…」
アルシェさんは正直に見解を述べてくれた
「なるほど…
ルシュ、取り敢えずやってみようか」
「うん」
俺の言葉にルシュが頷く
「その、わざわざありがとうございます、アルシェさん」
俺の言葉にアルシェさんは
「微力ながらもお力になれたなら光栄です、賊討伐の吉報お待ちしていますね。」
そう言って微笑んだ