第32-13話 負けず嫌い
食事を済ませ、宿に戻ろうとした所
外にとある男の姿が目に入った
壁に背を預け腕を組むただならぬ雰囲気を纏うその姿…
「バルドー…」
マーテンのギルドでいつもただならぬ雰囲気で居る姿が印象的だった
そう言えばここ数週間バルドーの姿をマーテンで見ていなかった
俺達はバルドーに近付く
「マーテンの新星、ヨウヘイとルシュか」
バルドーは俺達に視線を向けて話す
その姿は変わらず腕組みをして壁に背を預けたままだが
「その様子を見ると、ロウザンには敵わなかった様だな…」
バルドーが話す
俺達は無言だが、それを肯定と受け取られただろう
「アンタもロウザンに挑戦を?」
俺はバルドーに尋ねる
「そうしても良かったんだが、生憎と忙しい身でな…
野暮用でここに訪れている」
姿勢を変えることなくバルドーが答える
「グライエムを倒した君達でも敵わんとはな、伝説の魔将と言われるだけはある」
俺達から視線を外し、バルドーが続ける
「正直、別次元と思える程強かった」
俺は正直な感想を告げる
俺の言葉にバルドーは少し沈黙し
「伝説の魔将であっても、どれだけの強さがあろうとも、完璧なものなど存在しない」
と言った
そうしてバルドーは俺達の後ろに視線を向け
「では俺は用事があるのでな、静養するといい」
そう言って立ち去ってしまった
……
その後俺達は口数も少ないまま宿にとった部屋に入った
「今日は流石に疲れたな…
少しゆっくり休もう」
俺の言葉にルシュは頷く
口数の少ない彼女だが、機嫌が悪い様には見えない
そして布団に入り、横になる
「あんなに強いやつがいるなんてな…
正直想像もしてなかった」
俺は今日の感想を述べる
少しの沈黙
「私、悔しい」
ルシュが呟く、はっきりとした口調で
「ルシュ…」
俺は上半身を起こし、ルシュに向く
ルシュは上を向いたままだ
「勝ちたい…私達で」
ルシュの言葉は静かだが、力強かった
……
俺は沈黙する
ルシュはまだ諦めきれてない、彼女はそうだった
とても負けず嫌いだった、青ルッタの時もそうだった
俺は正直諦めていたのに、ルシュは諦められない
だがロウザン相手にまともに戦って勝ち目はない
一朝一夕の修練でどうにかなるレベルの話じゃない
素手で俺達をいなし、ルシュの渾身の魔法?も切り裂いた
どうする事も出来ないのではないか、ヤツは最強では…
…
さっきのバルドーとの言葉を思いだす
「完璧なものなど存在しない…」
不意に口をついてでる
俺の言葉にルシュが俺を見る
……!
もしかすると
「ルシュ、もしかすると、可能性があるかもしれない」
俺の言葉に、ルシュは上半身を起こし、俺を見た