第32-11話 挑戦の後
「大丈夫ですか、宿まで歩けますか?」
広間から出て通路でコボルトの男が俺達に問いかけてきた
身なりの良い男で、
元挑戦者が多数を占めるロウザンに従っている者たちとしては雰囲気が違っていた
「ええ、何とか…」
俺はルシュを支えた状態で話をする
ルシュは疲れ切っているが、全く動けない訳ではないのが救いだった
「…少しだけ、ここで休んでいくと良いでしょう」
そう言ってコボルトの男が傍らに置かれた腰掛けを指した
一人くらいなら横になる事が出来る少し広めの腰かけだ
俺達は彼の言葉に従い、腰掛けで休憩する事にした
少しの間の沈黙
俺達が戦っていた広間には今、次の挑戦者が入っている事だろう
…
「あの姿を見て、私にはあの御方はロウザン様に違いない、そう確信しました」
男が広間の方角を見て話す
「だから彼の手伝いを?」
一応賊と言う事になっているので、仕官と言う言葉は的確ではないと思った
「はい、私は他の方々の様に直接戦った訳ではないのですがね…」
服装が戦士には見えなかったから、やはりロウザンの噂を聞き付けて従う為に訪れたのだろうか
「しかし、これまで滅多に剣を振るう事の無かったロウザン様に剣を抜かせたこと、驚きました」
そして一拍置き
「それも、その剣を折ってしまうとは…」
恐らくルシュが投げた光弾を目にもとまらぬ速さで抜いた剣で両断し、その時に剣が折れたのだろう
一瞬の出来事だったので最初俺は理解出来てなかったが、今ではそう言う事だと認識出来た
彼は俺達の戦いを何処かから見ていた様だ
気付かなかったが覗き窓でもあったのかもしれない
「では、私は仕事に移りますので、落ち着いたらあちらから外に出て今日はゆっくり療養してください」
そう言ってコボルトの男は去っていった
「ルシュ、歩けそうか?」
「…うん」
沈んだ声のルシュを支え、俺達は城から出た
…外はすっかり黄昏が降りてきていた
挑戦者の締め切りは終わったようで、入り口に並んでいた者たちは誰も居なくなっていた
そして城下に出来た小さな町には所々松明が灯り、
あちこちの宿や酒場から喧騒が伝わってきた