第32-9話 強敵
「まだっ!」
ルシュの声と共に俺達は再度ロウザンに攻撃を仕掛ける
ルシュが俺の動きに合わせ、同時に左右から攻撃を仕掛ける
が
またも投げ飛ばされた
一人相手なら片腕だけで十分なのか…!
その後も何度か攻撃を仕掛けるが、ロウザンによっていなされるばかりで攻撃を当てる事すら適わなかった
「ぐあっ!」
何度目かの投げ飛ばし
冒険者の服とチェインメイルを着ているお陰で大きなダメージは無い
それでも投げられた衝撃は受ける
どんな攻撃も躱され、いなされ、投げられ、時には蹴りなどで吹き飛ばされる
投げはもちろん、蹴りなどもこれほど吹き飛ばす事が出来るなら、
それ以上の力で攻撃する事も出来るだろう
…明らかに手加減されている
俺は大きな怪我は無い物の擦り傷はあちこちに出来ている、
ルシュは非常に頑丈なので何とも無さそうだが、動きに精彩が欠いている様子が見えてきた
その状態では猶更の事、ロウザンに当てる事は難しい
「それで終わりか?」
肩で息をする俺達の前に立ち、ロウザンが言い放つ
俺達の前にも挑戦者たちと戦っているはずだ、それでいて
未だに息を切らしてすらいない
…強い、余りにも
これが伝説の魔将なのか、本人かどうかははっきりしていないが、
これで偽物とは最早思えなかった
棍棒を構えたまま踏み出せない俺の横目に、ルシュが屈む
彼女は置いていた剣を手に持った
「ルシュ…!」
俺の言葉にルシュは前を向いたまま
「まだ負けてない…!」
と言った
ルシュの力で振るう剣が当たればどうなるか、考えなくても分かる
だが、この状況で俺が言える言葉は何も無かった
ルシュは剣を手にロウザンに飛び掛かる
普段と違い、彼女は剣の峰を前にして殴りかかる
当たればタダでは済まない事は同じだが、彼女なりの意思を示したみねうちだろう
それをロウザンは最小限の動きで躱す
ルシュの剣は床を抉り、破砕音と共に小石が舞う
そのまま強引にロウザンに向かって横なぎに振る
それをロウザンは後ろに下がり剣の当たらないギリギリの距離で躱す
この一瞬で剣での攻撃範囲まで見極めているのか…
ルシュは剣を何度も振るが、ロウザンにかする事すらない
空振った剣が床を破壊し、破壊跡が所々に出来ている
俺は、この中に入る事は出来ない、ルシュの剣に巻き込まれてしまうからだ
「高い身体能力、それにとても良い剣だ」
ルシュの攻撃を受け流しながらロウザンが喋る
「だが」
その瞬間ルシュの動きが止まる
「!?」
硬直したルシュの手から剣が落ちる
「振り回しているだけでは意味がない」
ロウザンが話す
何をしたのか分からない、ルシュの手から剣を叩き落したのか?
そしてルシュの剣を事も無げに片手で持ち、俺達の後方に滑るように投げる
「これ以上この部屋を壊されては敵わんからな」
と続けた
「くうっ!」
ルシュは剣で攻撃するのを諦め、再び格闘戦を挑む
ルシュはがむしゃらに攻撃を繰り出すが、全く当たらない
疲れで動きが緩慢になり、ロウザンに投げられた後、膝を着き肩を上下に揺らしていた
「…」
どうする事も出来ない
ロウザンはこちらを見据えている、相変わらず仕掛けてくる様子はない
横目にルシュを見る
ルシュは膝を着いたまま、俯いている
その表情は伺えない
「ルシュ…」
そこで俺は気付く、ルシュが震えている事に
「まだ…」
ルシュが呟く
「まだ…」
「まだ…」
「まだ…負けてない!」
そう言って立ち上がったルシュが振りかぶる
「!?」
彼女は掌から光を放ち、それをロウザンに向かって投げつけた