第32-7話 古の将軍を名乗る賊
かつては領主の玉座があったであろうその空間
その奥に立っていたのは一人の男だった
青白い髪短髪に灰がかった白い肌
魔人だ
前髪がやや片目にかかっているものの、鋭い眼光である事がこの距離からでも分かる
服装はそこまで重武装とも言えない、普通の冒険者の鎧より少し上質な程度の鋼の軽鎧にマントを羽織っている
賊と言うには少し大仰な、将軍と言うには貧相な装備だと感じた
俺とルシュは自然と武器を握りしめ直した
俺達はゆっくり男に近付く
そして10メートルほどの距離のところまで歩き、立ち止まった
遠目には分からなかったが少しだけ顎髭がある事に気付く、若々しい印象を受けた
「お前達が次の挑戦者か」
男が口を開く
その言葉に俺は男を見つめ返し、ルシュは頷く
「本当に、アンタはロウザン・レーゼンダル将軍なのか?」
勝手なイメージだったが
本物ならば老人もしくは壮年の男ではないかと思っていたのだ
声も見た目も俺が思っていたよりも若かった
やはりその名を騙る賊なのか…?
それにしても我ながら馬鹿な質問だ
本物であるかどうかなど、これまでの挑戦者を含め、何百とされてきたものであろう
こちらもそれを分かっていながらも聞いてしまうのだ
俺の言葉に男は
「そうだ、俺は魔王、アンティロ様に仕えるデュコウの将、ロウザン・レーゼンダル本人だ。
尤も、それを証明しろと言われても、これくらいしかないが」
そう言い、彼は懐から何かを取りだしこちらに見せる
それはデュコウの国の印が刻まれた銀色に輝く手のひら大のプレートだった
恐らく勲章だ
彼はそれを大事そうに懐に収める
ここまでされたので、俺は一先ずこの男をロウザンだと認識する事にした
「さあ、俺を止める為に来たのだろう、遠慮する事はない」
そう言って両手を広げてこちらを挑発する
だが、俺は奴の腰に剣が納刀されたままである事に気付いていた
「その剣は使わないのか?」
俺の言葉に
「必要になれば抜こう」
と返してきた
つまり、素手で戦う言う事だ
「さあ、俺を殺す気で来い」
そう言うロウザン
殺す気で来いと言った者が剣を抜かない…とは
馬鹿にされたものだ
ルシュが小さくふぅん…と言ったのが聞こえた
声色で分かる、不満そうだ
「ルシュ、行くぞ!」
「うん!」
俺は棍棒を握り、ルシュは剣を地面に置く
もちろんルシュの剣で切れば真っ二つになる、
俺達は別にこの男を殺すつもりはない
剣を置いたのは何よりも武器を抜かず舐められている事に対するルシュの意趣返しだろう、俺はそれで良いと思った
まあ、俺は残念ながら徒手空拳で出来る事はないので棍棒を持つのは仕方ない、と思ってる
俺とルシュはロウザンに向かって駆けだした