第32-3話 宣戦布告 その2
石造りの建物の中、広さは四方50メートルはあろうかと言う広い空間
そこに三人の冒険者が立っていた
向かい合うは一人の影
「信じらんねぇ…どうなってやがる!?
俺達の攻撃が効かねえだと…?」
冒険者の一人のオークが口を開く
「アタシの魔法も全然当たらないよ」
冒険者の一人のハーピィの言葉
「もう一度だ、三人で息を合わせて仕掛けるぞ」
冒険者のリーダーのミノタウルスの言葉に三人は影に向かって突撃する
---------------------
賊の国に対する宣戦布告より1週間が経った
俺達の暮らすマーテンに置いては旅人の往来が目に見えて増えたものの、
実際の生活においては大きな変化は無かった
話題に置いては相変わらず古の魔将ロウザンを名乗る賊が中心になっていたが、
ギルドも軍もこれと言って大きな動きを見せる事も無く、日々が過ぎていた
マーテンのギルドにて
俺とルシュはいつもの通り軽い仕事が無いかギルドを訪れ、取り敢えずは腹ごなしと食事をとっていた
食事をとり終わり、ギルドのカウンターに向かった所
受付のモアさんが話しかけてきた
「ヨウヘイさん、ルシュさん」
少し声を潜めている
普段と少し様子の違うモアさんに俺は違和感を覚える
ルシュもやや怪訝な表情をしている
「どうしました?」
俺の言葉に、モアさんは少し顔を近づけてきて
「奥に、来てくれませんか?」
と言った
……
俺とルシュはモアさんにギルドの奥の部屋に通された
ここは俺とルシュが冒険者登録をした時に使用した部屋で、あれ以来入る事は無かった
そこで椅子に座らされ、少し待っていると更に奥の扉が開かれた
そこからはガタイの良い筋骨隆々の壮年のコボルトの姿があった
「ヨアキムさん」
彼は俺とルシュが冒険者登録した時にモアさんと共に担当したギルドの職員だ
元冒険者らしく、このガタイと顔つきからもかなりの猛者だったと思われる
あまり表に出てくることが無いため、会話する機会は少ない人物であった
「藪から棒にすまんな」
俺達の正面の椅子に座りながらヨアキムさんが話す
続いてモアさんもその隣に座る
「いえ、どうしたんですか?」
「何かあったの?」
俺とルシュはヨアキムさんに尋ねる
「お前さん達は、ガリュエヌ古城の賊の事については知ってるな?」
ヨアキムさんはそう問いかけてきた
「はい」
「うん」
俺達は思い思いの返事をする
「ならば前置きは無しだ、その賊を討伐しに行って欲しい。
これはマーテンギルド及び領主からの指名依頼だ」
と言った
「ええっ!?」
驚く俺、平然としたルシュ
「既に耳にしてると思いますが、件の賊について、
ルガンド、アドザの有力冒険者でも討伐する事が叶いませんでした」
モアさんが話す
「だから次は近隣都市のマーテンにも、と言う事ですか」
俺の言葉にモアさんとヨアキムさんが頷く
最初は宣戦布告をしたと言う話だけが独り歩きしていたが、
この一週間でその詳細が徐々に伝わってきていた
賊の宣戦布告の理由、それは
『魔族の国であるデュコウが妖精族はおろか、人族すらも容認した堕落した国になってしまった
今一度魔族の国を取り戻す、初代魔王アンティロの時の様に』
と言ったものだった
何よりもこのロウザン・レーゼンダルと言う人物、
かつて人族の戦いに敗れたのだが、死亡したとも封印されたとも伝わっていたそうだ
だから復活した本人である可能性がある
「あの…その賊がロウザン・レーゼンダルと名乗っていると聞きましたけど、本人なんですか?」
俺は気になっていたこの点について質問してみた。
俺の言葉にヨアキムさんは少し顔をしかめる
「無論ギルド、国としては偽物と判断している…」
含みのある言い方だ、もしかするともしかするのか…?
仮に本物だとして、それを認める訳にはいかないか
「…宣戦布告が行われ、事が大きくなった為に国から賊に対して懸賞金が掛けられました。
デュコウだけにとどまらず、レインウィリスやルドセルドなどの他国の者であったとしても構わないと言う形で」
その話も聞いた事があった、賞金は1万ラントにも及び、
既に各地より冒険者や腕利きの戦士がガリュエヌ古城に向かっているらしい
「それなら、マーテンで対応する必要性は薄いのでは…?
それにマーテンにはレゾル達や他にも居るはず」
俺達が関りが深いのがレゾル達なのでこういう時に真っ先に名前が出るが、
マーテンには他にも有力な冒険者は何組も居る
直接関わった訳ではないがレゾル達に勝るとも劣らない連中だ
「マーテンで実績のあるレゾルさん達を含む冒険者7組、先日向かって頂き、全員敗れたと連絡を受けました」
モアさんが少し消沈した様子で話す
「なっ…!本当に…!?」
ルガンドやアドザで対応出来ないのならマーテンでも対応出来ない事は何の不思議ではないが
それでも実力を知っている者が負けると言う事が信じ難かった
「彼らは大丈夫なんですか!?」
俺の言葉にモアさんは頷き
「皆軽症らしいです、療養したらこちらに戻って来るとの事でした」
モアさんの言葉に俺とルシュはホッと胸をなでおろした
「この状況でマーテンでも何とか解決したいのは、ギルドとしてのメンツと領主のメンツの為だ。
お前さん方に直接関係はないが、そこは目を瞑ってくれ」
ヨアキムさんが親切に裏事情を少し教えてくれた
「本来お前さん方は依頼の実績としてまだマーテンの代表の冒険者って訳じゃない…
だが、グライエム討伐の件でその実力をこちらとしても高く評価している」
そこでヨアキムさんは一拍置き
「マーテンで頼れる冒険者は後お前さん方しか居ない、賊を倒してきてくれ」
そう言って頭を下げた
モアさんも頭を下げる
そんな二人の様子を見て、俺とルシュは顔を見合わせた