第31-2話 奇妙な邂逅 その2
日が傾き始めた頃、マーテン南門
「おう、来たな」
大通りの脇にムーグの姿があった
そしてその傍に馬車がある
「これで揃ったのかね?」
馬車の運転手のゴブリンの男が話しかけてきた
「ああ、出発してくれ」
そう言ってムーグが馬車に乗り込む
俺もそれに続いて馬車に乗り込んだ
……
馬車は出発し、マーテンの南門から街道を南進し始めた
馬車の中は誰もおらず、俺とムーグの二人だけが乗車していた
「これで現場まで向かうのか?
何の仕事なんだ?」
乗り込んだ後で聞くのもおかしいが、俺はムーグに尋ねた
「そういや言ってなかったな、荷物の積み込みの警備さ。
そんな難しい仕事じゃねえ」
ムーグはそう言いながら水筒の水を飲む
「二人は心もとなくないか?」
俺の質問を聞いてムーグは笑う
「別に金目の物じゃねえみたいだし、
依頼主としてはぞろぞろと大人数で警備する必要はないとさ。
流石に一人じゃ手が回らない可能性もあるからお前さんが無理なら他の連中を誰か連れて行ってたけどな」
「なるほどな…」
コストの問題もあるんだろうか
「もう少し行った先にある遺跡から出てきた調度品らしいが、
金目の物は先行調査の連中が持ち帰って既に回収済みだから、後は大したもん残ってないらしいぜ」
このムーグの言葉が何か引っかかった
「遺跡の調度品?」
俺の質問にムーグは不思議そうな顔をする
「ちょっと前に街でも話題にならなかったか?
いや、その時はお前さん達はルガンドに行ってたのか」
ムーグは納得した表情をしてから、再び口を開いた
「少し前に開いた洞窟の奥にある遺跡で見つかったらしい。
その遺跡がまた随分昔のものらしくてな。
ゴッズの遺産なんじゃないかとか吹いてる奴らも居たくらいだ」
そんな訳ないのにな、と付け足して笑いながらムーグが話す
洞窟の奥にある遺跡…
もしかしてアロン達と一緒に探索したあの洞窟か?
それより気になる言葉が
「ゴッズって?」
俺は聞いた事のない単語をムーグに尋ねる
「なんだ、まさか人族なのにゴッズを知らないのか?
魔族でも知らない奴いないと思うけどな」
ムーグは意外そうな顔をする
「まあ、いいか、余計な詮索は必要ねえ」
ここで再びムーグは水を飲み、一息つく
馬車は開けた草原から、やや木々の多い並木道の中に入った
そして間を空けてからムーグは口を開いた
「ゴッズは魔族と人族の争いを終わらせた英雄。
それをたった一人でやり遂げた伝説の人族だ」
「争いを終わらせた英雄…人族…?」
突然の偉人の出現に俺は戸惑う
「ああ、偉大な人物だ。
レインウィリス出身なのに、王都バラオムに記念館もあるくらいだからな」
バラオム…デュコウの首都に当たる都市だと聞いた事がある
戦争相手だった敵国のレインウィリス出身の人族なのに、魔族の国デュコウに記念館と考えると
魔族達からも敬われている事が分かる
「ま、遺跡から見つかったものはゴッズとは無関係な物だって事だ。
本当にゴッズ由来の物品ならもっと大勢で護衛する事になるさ」
ムーグは膝を立て、そこに腕を置いてくつろぎながら話す
「お、そろそろ到着みたいだな」
ムーグが馬車の前方に目をやる
すっかり日が落ちて暗くなった視界の先に、小さな灯りが見えてきた