第29-9話 不思議な司書さん
図書館の中へと踏み入れる
「おお…」
俺達の前に広がるのは本、本、本…
一面に広がる多くの本棚
数千、いや数万はあるかも知れない本の山だった
俺もルシュもその光景に立ち尽くしている
「こんにちは」
俺達の左側から声を掛けられた
そちらの方向を見ると…
カウンターの向こうに花が咲いたような女性が立っていた
「こ、こんにちは」
「こんにちは」
司書さんだろうか、しかし…
花が咲いたようなというのは比喩ではなく、そのままの表現だ
頭に花が咲き、足元もつぼみの様になっている
花に包まれた女の人、花の人と言う感じだ
葉や花びらを服の様に纏っている
活発そうな瞳で、華やかな外見とは少しイメージがずれるが元気がありそうな印象を受ける
「図書館をご利用ですか?」
花のお姉さんが話しかけてくる
「あ、いえ、本の返却にきました」
そう言いながら俺達はカウンターに近付く
魔法の袋から借りていた本4冊と、用紙を一枚取り出してカウンターの上に出す
「あら、そうでしたか。
お預かりしますね」
そう言って花の人が本を2冊手に取る
そして
「こっちお願いね」
と言って残りの2冊をツル?の様な物で掴み、隣のもう一人の司書さんにツルを伸ばして渡す
隣の人は…
こっちは木のお姉さんだ…
身体は人みたいだけど、髪の部分が葉になっていて、やや木っぽい肌になっている
足の部分も同様に木っぽくなっている
少し眠たそうな表情をしている
花の人と木の人は本を開き、中を確認している
傷みが無いかチェックしているようだ
その間、俺は司書さんのいるカウンター付近に貼られている貼り紙を見る
図書館の利用は静かに
飲食物の持ち込み禁止
等の注意書きの他
朝から夕方まで開館している事
利用料は1日1人30ラントである事が記載されていた
た、高い…
俺が元居た世界では図書館を利用するのにお金は必要なかった
そういう面でも違いがあるのか
そういえばこの世界では活版印刷は無く、本は手書きされていて、
非常に貴重なものだ
だからこその利用料か
等と考えていると、チェックが終わったようだ
花の人がこちらに向きなおし
「確認しました、問題ないです」
その言葉に隣の木の人も頷く
そう言ってからしゅるしゅると足元からツルを伸ばす
ツルはカウンターを越えた所で止まり
「?」
何が起こるのだろうかと見る俺達が見ていると
ツルからポンっとつぼみが出てきた
つぼみが開くと、そこから小さな花のお姉さんが出てくる
いや、小さいのだから花の少女と言うのが正しいか
身長は60cmくらいだろうか
そして、いつの間にか花の少女の隣に芽が出てくる
その芽も育ち、花の少女と同じくらいの大きさの小木になり、その姿は見るみる少女の様になる
こちらはさしずめ木の少女だ
その光景に視線を奪われる俺とルシュ
ルシュは二人?の少女の近くに歩いていき、座り込んで様子を見ている
「お願いね」
花のお姉さんはそう言って花の少女に
木のお姉さんも同じように木の少女に
それぞれ持っていた本を渡す
本を受け取る二人?の少女
近くでじっと見つめるルシュに対し、
木の少女は眠そうな瞳で見つめ返し、
花の少女は少し驚いた表情を見せてから、ルシュに向かってお辞儀をする
そして図書館の奥へと向かっていった
ルシュは手を振って見送る
「すごいね」
俺の元に来たルシュが話す
花のお姉さんが俺の渡した用紙にサラサラとサインを書き込み
それを渡してくる
「アルラウネとドライアドを見るのは初めてですか?」
花のお姉さんに話しかけられる
「はい」
「うん」
用紙を受け取り、俺達は返事をする
「そうでしたか、私の種族はアルラウネ、名前はクラエです。
こっちの子はドライアドのメニル。
この図書館で司書しています。
ここはデュコウの初代魔王様の時代から今に至るまでの書物、
近隣の国の書物も集めているデュコウ最大の規模の図書館です。
またご入用でしたら是非ご利用くださいね」
そう言ってクラエはニコっと笑う
……
本を返却し、俺達は図書館を後にする
「いろんな種族がいるんだね」
ルシュが俺に話しかけてくる
「そうだな、まだまだ知らない事が沢山あって、楽しいな」
俺の言葉に頷くルシュ
「さあ、今日はもう一か所あるぞ、行こうか」
俺とルシュはルガンドの市街地を進んだ