第29-6話 休息と抜け目ない彼女と
食事を摂った後、すっかり日が暮れ
平原は野鳥と虫たちの鳴き声があたり一帯に響き渡っていた
俺達は小屋の中に入り、床に就く
小屋はそこまで広くないので、
俺達のすぐ近くに他の乗客達が居る
乗客たちは既に寝ようとしたり、小さな灯りを頼りに何かを書き記して居たりと
各々の時間を過ごしていた
俺とルシュは隣同士で横になり、俺は天井を見上げていた
屋根は決して綺麗ではないが、度重なる使用に耐えられるように頑丈な造りになっている事が分かる
…床は堅いが外じゃないだけマシだな
等と考えながら天井の梁を眺めていると
「ヨウヘイ」
ルシュが俺に呼びかけてくる
「どうした、ルシュ」
俺はルシュの方向を見る
ルシュは俺の瞳を見て話しかけていた
彼女の赤い瞳が室内の小さな灯りに照らされている
俺は吸い込まれそうな感覚を覚えた
「お昼の事を話したくて」
ルシュが口を開く
「シャグの事か?
あんなにあっさり倒すとは思わなかった、流石だよ」
俺は正直な感想を述べた
何か気の利いた事を言えたら良いが、思いつかない
俺の言葉を聞いて、少し間を置いてからルシュが話す
「ヨウヘイは、弱くないよ」
思わぬルシュの言葉に俺は言葉を失う
アイラム達とのやりとりの事か
ルシュが俺の言葉に割り込む様にして話したから記憶に残っていた
「でも俺は引き付けるくらいしか出来ないからな…
ルシュにはいつも助けられてるよ。
君は強いよ」
俺の言葉を聞いて、ルシュは少し黙る
「それは私が竜族だから。
でも私が全力で戦えるのはヨウヘイがいるからだよ」
「ちょ、ルシュ…!?」
この場には他の乗客やアイラム達もいる
竜族と言うワードを出すのはマズイ
大きな声ではないが、聞き耳を立てたら聞こえてもおかしくない声量だ
狼狽する俺の表情を見て、ルシュが口を開いた
「大丈夫、今は竜族の言葉を使ってるから」
そう言っていたずらっぽく笑う
「メラニーから聞いてる、竜族の言葉を知ってる魔族は特殊なケースだから大丈夫だって」
「…」
なるほど…
「俺が言葉に気を付けたらいいだけの話か…」
「そう」
俺の言葉にルシュが頷く
織り込み済みで話していたのか
この娘は抜け目が無いな…
「それで、さっきの話だけど」
ルシュが改めて話す
「私、確かに力もあるし、足だって他の人達より速い。きっと竜族だから。
でも全力で戦えるのはヨウヘイが居てくれるから」
「俺が…?」
俺の困惑する表情を見てルシュが頷く
「一人なら私はこんなに頑張れないと思う」
ルシュは一拍置く
「アステノから出る時、メラニーが話してた。
ヨウヘイと二人で力を合わせなさいって、私とヨウヘイは『イッシンドウタイ』、『イチレンタクショウ』だからって。
私達は、二人で一つ」
「一心同体…一蓮托生…」
この世界にそんな言葉が…と考えるよりも
ルシュの言葉の意味を飲み込む
俺はルシュの足を引っ張っているだけだと思っていたが
ルシュは俺の存在を必要としていると言う事か
「ありがとう、ルシュ、そうだな。
俺達は一心同体、一蓮托生だ。
これからもよろしく」
俺の言葉にルシュは微笑む
こうして夜は更けていった