第29-5話 旅路での休息
再度歩みを進める馬車
山間を抜け暫く進むと、草原が広がってきた
草原の中にポツンと何か建物が建っている
その建物の傍まで馬車は移動し、そこに停まった
「着いたよ」
運転手の言葉に俺達は馬車を降りる
その建物は石造りで、屋根は木で出来ていた
かなり年季が入っていて、あまり綺麗ではない
野営地でもあるみたいで、周囲には焚火の跡が幾つか見える
少し離れた場所には水場もある
俺達は荷物を降ろし、小屋の中に入る
小屋は二部屋あり、寝泊まりすることは出来ると言った程度の簡素なものだった
部屋同士の材質が異なっているので、後から増設されたのかも知れない
建物内にベッドはないが幾つか椅子がある
運転手曰く、都市間を行き来する際に寝泊まりする場所として、
昔に建造された建物らしい
この辺りは魔獣も少なく、野営にはうってつけの場所との事だ
今日はシャグとの戦い、俺は殆ど何もしてなかったが、
解体で疲れていたので、ここでゆっくり腰を下ろせるのは有難かった
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日が暮れ始めた頃
小屋の近くで焚火が起こされた
俺達は焚火を囲って夕食にした
各々が持ち寄った食事を摂る
有料だが馬車にある食料を買う事も出来る
俺達乗客や運転手が持つ食材をごった煮にしたスープが良い感じに煮えてきている
干し肉にかぶりつきながら、よそったスープを飲む
「…美味い」
「美味しい」
俺とルシュは舌鼓を打つ
「昼は助かったよ」
「アイラム」
昼間一緒に戦ったエルフの冒険者のアイラムが話しかけてきた
「まだ俺達にはシャグの相手は荷が重かったな」
「もっと魔法使えるようにならないとね」
コボルトのサードとダークエルフのフィラフィが口を開く
「シャグをものともしないなんてね」
フィラフィが続ける
「以前は苦戦する相手だったんだけどね」
俺の返事にルシュは頷く
シャグとは何かと縁がある、嬉しい縁ではないが
「君達ならガリュエヌ古城の賊にも勝てるかも知れないな」
アイラムが話す
ガリュエヌ古城…聞いた事があるような気がするが思い出せない
「ガリュエヌ古城?」
ルシュが聞き返す
「ガリュエヌ山道先にある古城に賊が住み着いてるらしいわ。
何度かギルドから冒険者が派遣されてるけど
ずっと失敗してるみたい」
「俺達じゃ全然無理だなって話をしてたんだ」
フィラフィとサードが補足してくれた
「そうだったのか、でも俺達はまだまだ駆け出しだからね…」
実際俺達がその依頼を受けるよりも前にギルドから実力者が派遣されて
解決してしまうだろうなと思った
そうして彼らと話をしていると、俺達の元にリザードマンの男が来た
「あ、昼の…」
彼の手には串があった、その先には白い何かが焙られ、すこし茶色に焦げがついていた
「お昼はどうも。
これ、シャグの身なんだけど、どうかな?」
彼は串を差し出してくる
虫の身…
俺達は少々戸惑う
どうしようかと思ったら
「ありがとう、もらうね」
と言ってルシュが串を受け取り、シャグの身にかじりついた
俺は呆気に取られてちょっと言葉を失っている隣で、無言で咀嚼するルシュ
そして
「美味しい…!」
ルシュが目を輝かせた
「ええ、本当に…!?」
俺だけじゃなくアイラムたちも驚いている
「ヨウヘイも、皆も食べてみて」
ルシュが串を俺に渡す
「うっ…」
俺は一瞬たじろぐが、ルシュが差し出してくれたものを断るわけにはいかない
思い切って齧りついてみる
……
「エビだ!」
身はプリプリして、エビの味がする
これは美味い
何よりなんだか懐かしい
「エビ?」
そう言いながらも皆の分の串を持ってくるリザードマンの男
俺の反応にアイラム達も串をとり、シャグの身に齧りつく
「これはイケる」
サードの言葉に彼等も頷く
…こうして馬車の乗客、運転手を皆巻き込んでシャグの身を堪能したのだった