第28-6話 風変りな依頼 その4
「本の返却…ですか…?」
俺はエデリオさんに聞き返した
「ええ、そうです」
返事するエデリオさん
「うーん…?」
本の返却にわざわざ依頼…?
自分で返しに行けるのでは?と俺は思った
「ルガンドの図書館なんですがね」
「え?」
エデリオさんの言葉に俺は更に困惑する
ルガンド?
マーテンより遥か南にあるという大きな都市だと聞いた事がある
「報酬は250ラントですが、どうですか?」
困惑する俺に構わず言葉を続けるエデリオさん
ただ本を返却するだけで250ラント…かなり割が良いと思う
だが、ルガンドは相当遠い、それなりの期間遠征する事になるだろう
「ルシュ、ルガンドだと長い間マーテンから離れる事になると思うけど、どうする?」
俺はルシュに尋ねる
「ん…、私は知らない場所に行ってみたい」
ルシュは結構乗り気の様だ
新たな武器も手に入れ、折角指名もしてもらっての依頼だ、ここは遠征と行っても良さそうだ
「分かりました、引き受けさせてください」
俺はエデリオさんに返事をした
俺の言葉にエデリオさんは嬉しそうな表情をした
「いやー、ありがとうございます!」
そう言って立ち上がり、棚から4冊の本を取りだし、テーブルの上に置いた
「これがその本です。
図書館から借りている貴重なものです。
ところで、魔法の袋はお持ちですか?」
エデリオさんからの唐突な質問
「いえ、持ってないです」
…魔法の袋とは、普段俺達が使用している麻袋や革袋とは違い
魔力の篭った特殊な繊維で編み込まれた袋の事である
中に入れた物の鮮度を保つ、風化や傷みを防ぐなど、保存に優れた袋で
これも一種の魔道具と言って良い
基本的に1日で終了する依頼しか受けていない俺達にとっては
鮮度を保つ必要のあるものを採集する依頼は無く、
入手を急ぐ必要はないものだった
もっとも、魔法の袋は高価で
イルミニの店で見かけた時はそう簡単に手が出る値段では無かった
更に収入が増えて余裕が出来たら入手しておきたい、というものだった
…俺の返事を聞いたエデリオさんは、そうですか、と言い
再度後ろの棚をごそごそと探っている
そして、何かをテーブルの上に置いた
「これは魔法の袋です、これに本を入れて持って行ってください。
本が傷むと困りますからね」
エデリオさんはそう言い、魔法の袋に本を入れ、俺達の前に差し出した
「分かりました」
俺はそう返事した
「この袋は差し上げますので、ご自由にお使いください」
思いがけない言葉が出てきた
「え、いや、そういう訳には…」
いきなりの言葉に俺は戸惑う
「なに、使い古したものですからね、前金代わりだと思ってください」
そう言ってはっはっはと笑うエデリオさん
…羽振りが良すぎて正直ちょっと怖いのだが
不思議な人物だ
「そういう事なら、この袋ありがたく頂戴しますね」
…かくして俺達は本を返却しに遥か南のルガンドに向かう事となった