第25-10話 賊
現れた人影は体躯の大きなオーガが一人、
俺と同じくらいの背丈のコボルトが二人だった
オーガは黒い肌に非常に厳つい顔をした如何にもと言った風貌
コボルトは一人は濃い茶色い体毛で片耳に傷が入っている
もう一人は薄灰色で目つきが悪い
「どうやら賊で間違いないないみたいね」
アネイルの言葉に俺は頷く
この世界に来て初めての犯罪者との対峙…
いや、元の世界でも犯罪者と対峙した事は無いんだが…
慣れない状況に汗が伝い、ごくりと唾をのむ
にらみ合いになるかと思ったその時、
コボルトの一人が口を開いた
茶色いコボルトだ
「面倒な事になっちまったな」
「どうする、カドロ?」
オーガが茶色いコボルトに問いかける
問われた茶色いコボルト、カドロは少し黙ってから、口を開いた
「なあアンタらはユネンの連中じゃないよな?
見逃してくれねえか?」
思いもよらない提案だ
アネイルは考える事も無く告げた
「そういう提案は聞き入れられないわね」
そう言って剣を相手に向ける
アネイルの言葉を受け、カドロはやれやれと肩をすくめた
「お互い怪我をせずにすむ、悪い提案じゃないとおもったんだがなあ」
「悪人を前にして放っておく事は出来ないわね。
あなた達を逃がすと色んな人に迷惑が掛かるもの、ここでお縄についてもらうわ」
アネイルは譲らない、勿論俺達も同じだ
ルシュもぐっと力を入れた様に相手を見据えている
カドロは腰からナイフを抜き、アネイルの前に立つ
「やれやれ、じゃあ痛い目を見てもらうぜ、死んでも文句は言うなよ。
俺はこの女の相手をする、コイツが一番厄介そうだ。
ガキはザンダ、人族はユジが相手をしろ!」
カドロの言葉に俺の前に薄灰色のコボルト、恐らくユジと呼ばれた男が前に立つ
そしてルシュの前にはオーガのザンダが立ちふさがる
「カドロ、俺がこのガキを相手でいいのか?
たかだか子供だぞ」
ザンダがカドロに話しかける
カドロは即座に返事をする
「俺達の事を知っててただのガキがここに来る訳が無いだろ、
魔術師の可能性がある、油断するなよ!」
ザンダはハッとした表情で頷く
そしてルシュに向かって
「悪いな、魔法を使われる訳にはいかねえ、おねんねしろよ!」
ザンダはそういいながらルシュに駆け寄る
「ルシュ!」
アネイルが叫ぶ
直後、アネイルは剣でカドロのナイフを受け止める
「よそ見してて良いのか?」
アネイルとカドロは鍔迫り合いになっている
その間にザンダがルシュの前に立つ
体格ではオーガであるザンダの方がルシュの倍以上の体躯
「おらっ!」
ザンダが拳を振り下ろす
そして
ルシュはその拳を右手で掴み
そのままザンダを地面に叩き付けた
「ふぎゃっ!」
ザンダが悲鳴を上げた
その様子に場に居た全員が釘付けになる
「ええぇぇ!」
俺とルシュ以外の全員が驚きの声を挙げた