第22-10話 疲労困憊 その3
俺とルシュは木の中にある空洞から抜け出す
ルシュの手を引き、迫るガーエイとは反対の方向に走る
いざとなれば背負ってでも、と思ったが
ルシュも多少走れるまでに体力が回復していた
俺はルシュの手を引き、走り続ける
森の中は草や木の根で足場も悪く、安定しない
出来るだけ平坦な道を選んで走り続ける
「ヨウヘイ、待って…」
ルシュのか細い声で俺は立ち止まる
ルシュを見ると、腰を折り曲げ、顔を下に向けて大きく呼吸している
流石に無茶だったか…
後ろを見ると、視界の遠くでガーエイが追ってきているのが見える
俺達の走る速度の方が速かったので距離は離せているが、ガーエイはしつこく追いかけてきている
このままではいずれ追いつかれる
「くそっ…!」
ルシュを支えながら、殆ど歩く速度で移動する
このままじゃ撒くどころか追いつかれる…
「こい、棍棒!」
俺は空いている片手に棍棒を呼び出し、ガーエイに備える
ガーエイはゆっくりだが次第にこちらに近付いてくる
ルシュが顔をあげて俺の方向を見る
そして
「ヨウヘイ、危ない!」
繋いだままの手をルシュに引っ張られ、俺は前につんのめって転びそうになる
そして、俺の居た場所を何かが通り過ぎた
後ろを振り向いて確認するとそこには
「シャグ…!」
緑色の大型の昆虫の姿をした魔獣、シャグの姿があった
「またか、くそっ…!」
汗が頬を伝う
ルシュが俺の持っている棍棒を持つ
強く握りしめていた訳ではないので、棍棒はあっさりルシュの手に渡る
「私が、戦うから…」
息も絶え絶えの状態でルシュが言う
くそっ、これならガーエイから逃げずに対応した方がマシだった
今更こんな後悔したって意味が無いのは分かっているのに
ルシュはシャグに向き合う
後ろから来るガーエイが追いつくまでの間にシャグを何とかしないと
俺に出来る事は…何か…
シャグが前脚をルシュに向かって振り上げる
直後
「ほらよっ!」
何者かの声がして
硬いものを打ち付ける音が鳴る
そしてシャグが体勢を崩す
シャグの側面から足に向かって打撃を加え、
足払いの様な状態になった様だ
「な、なんだ…!?」
「な、何…?」
俺とルシュは呆気にとられる
そこにはハンマーを持った肌色をしたオークの姿があった
「シャグは脚でもかてえなあ…、兄貴、頼むぜ!」
オークの声に呼応するように巨体が俺達の前に立ちふさがる
その巨体の主は濃い灰色の肌をしたミノタウロスだった
「そらっ!」
ミノタウロスの男の野太い声と共に巨大な斧が振り下ろされ、
シャグの前脚の節の間、関節が切断される
さらにミノタウロスはシャグの側面に回り込み、斧を振り下ろす
斧はシャグの甲殻に弾かれることなく、シャグの頭を落とす
「硬いなら関節を狙えば良い、それだけだ」
ミノタウロスが話す
そこで俺は彼らが何者かに気付いた
「青ルッタの時の…」
以前ルッタ退治をした時に俺とルシュが仕留められなかった青ルッタを仕留めた
魔族のパーティー
ミノタウロスのレゾル、オークのムーグ、そして
「そい、そい、そい!」
声と共に風の刃が俺達の脇を通り抜ける
そして、後ろにいるガーエイの内の近くに居た1匹を切り裂いていた
その声の主はハーピィのチティル
茶色い羽で金髪のウェーブの掛かった髪が特徴的な女性だ
「大丈夫~?」
チティルが俺達の傍にゆっくりと飛んでくる
「おい、もう一匹いるぞ!」
ムーグの声でチティルは空中をくるっと回るように横に動く
舞っているようにも見えるほど優雅に、滑らかに動いた
さっきまでチティルの居た場所にもう一匹のガーエイのつるが通り過ぎた
「分かってるって、まったくー」
チティルはガーエイに向き直り、翼を羽ばたかせる
放たれた二つの風の刃がガーエイをバツの形に切り裂く
「トドメっ!」
もうひと羽ばたきで更に風の刃が飛び、ガーエイを縦に切り裂き、ガーエイは動きを止めた
チティルは地上に降り、俺達の傍に来る
レゾルとムーグも俺達の方に歩いてきた
「改めて、新人クン、新人ちゃん、大丈夫?」
チティルが俺達の顔を覗き込みながら尋ねてきた