第20-5話 マーテンでの休日 その5
「確かにちょっと感じが変わるな」
「そうなの?」
俺の言葉にルシュが疑問を返す
周囲の建物が次第に古びたものになり、
道にはガレキやゴミが目立ち始める
住民たちの身なりも少しみすぼらしくなり、
少しすえた匂いがし始める
マーテンの南西部分の一角はスラムだった
これまでのマーテンとは異なった顔がここでは見え始めていた
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…俺達はマーテンの広場を出て大通りに戻り、そのまま貴族街を西に進んでいた
以前イルミニの依頼で森に向かう時に街の南西側から外へ出たが、
今回はその道よりも更に南に向かう
ピウリがガラが悪いと言ってくれたが、わざわざその方向に進んでいた
いずれは仕事で来ることになるかも知れない
とは思ったが、興味本位が強かった
実際、冒険者としてまだまだ駆け出しとは言え、
ある程度は魔獣とも戦えるようになったし、
何よりも隣にいる少女、ルシュの存在が大きかった
少しくらい不良に絡まれた所でどうという事は無いだろうと思っていたのだ
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ただでさえマーテンでは目立つ人族だ
それに加え魔人とみられる少女の二人組
服装の違いもあるだろうが、視線をかなり集めている事が分かる
ただ、その視線が警戒を帯びていると感じ始めていた
思った以上に歓迎されていない様だ
そろそろ引き返すべきか
そう思った時、俺達の目の前に人影が立ちはだかった
「おい、この辺りじゃ見かけねえな」
俺達に声を掛けてきたのはオークの男だ
灰色の肌に筋肉質である事が分かる
背丈もかなり高く、俺よりも頭一つ分以上は高い
「こんにちわ」
ルシュが挨拶する
全く動じないルシュの様子にオークの男は舌打ちする
俺は視界の端に影が幾つか動くのに気付いた
…取り囲まれてる?
「マーテンで人族なんて珍しいじゃねえか、でも金を持ってるようには見えねえな」
オークが威圧的に話をしてくる
元の世界だと不良に絡まれると挙動不審になるであろう俺だが
この世界での経験が生きているのか、特に動じる事は無かった
取り囲まれていたとしても何とかなるだろう、そう思った
最悪ルシュが思いきり地面を殴れば牽制になるだろうし
(相手を殴ると流石に殺してしまいかねないので)
「残念ながら金は持ってないな、まだまだ冒険者としては駆け出しなんでね」
俺の言葉にオークが苦虫を噛み潰したような顔になる
「うへぇ、冒険者か、めんどくせえ…」
冒険者だと都合が悪いのか…?
「仕事で来たのか?そうじゃないならさっさと出て行ってくれ。
何かあっても俺達のせいにしないでくれよ」
まるで厄介者を相手にするかのような話し方で吐き捨てた後
オークの男は俺達の前から立ち去った
いつの間にか周囲の気配も無くなっていた
良く分からないが冒険者である事で助かった様だ
さっさとここから出て行ってしまおう
キョトンとした表情だったルシュに俺は声を掛ける
「今日はこれくらいにして帰ろうか」