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手には棒を持っており、その棒が直立した黒い犬の胸の辺りを貫いていた。
陰陽師みたいなやつがそれを引き抜くと、黒い犬もどきが倒れてそのまま動かなくなった。
棒をよく見るとそれは槍であった。
通常よりも短めではあるが、先に付いた刃物の形状から槍としか言いようがない。
棒の反対側には黒光りする鉄の玉が付いていた。
男は倒れた犬の化け物を確認するように見ていたが、やがて清武のほうを見た。
女性と見間違うほどに中世的な顔立ちで、かなりの美形だった。
男が言った。
「うかつでした。まさか近くに人がいるとは思ってもみなかったので、そのまま“飛んで”しまいました」
「飛んで?」
「そう、この結界の中に飛んだのです。私が飛ぶ場合、近くに人がいるとその人も巻き込んでしまうのです。いつもならまわりを確認するのですが、まさかこんな山の中に人がいるとは思ってもみなかったので、確認せずにそのまま飛んでしまったのです。本当に申し訳ない」
「飛んで……結界?」
「そう、ここは結界の中です。通常であれば、誰も入ってくることはかないません」
清武はなにか言おうとした。
聞きたいことは山ほどあるのだが、頭がついていかずになにも言うことが出来なかった。