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するとなにかがいた。
一見そいつは、犬、だった。
しかし明らかに、犬、ではなかった。
下半身は犬だが、上半身はほぼ人間だった。
犬の後ろ足と黒い毛で覆われた人間の手を持つもの。
そして顔は完全に犬だった。
そんなやつが二本足で立ってこちらを見ているのだ。
その身長は、清武よりも高かった。
――ひっ!
清武は逃げようとした。
しかしなぜか身体が思うように動かなかった。
見ればそいつは、すぐ目の前まで迫って来ている。
清武は思わず目をつぶった。
――……。
なにかが起こると思ったが、なにも起こらなかった。
「危なかったですね」
予想外の人の声。
目を開けるとそこには先ほどの陰陽師が立っていた。