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飛燕が手で肉をひっくり返す。
熱いと思うのだが、飛燕の顔はあくまでも涼しげだ。
「そろそろ焼けたかしら」
「まだだよ。野生動物の肉は、中になにがいるかわからないからよく焼かないとね」
「そのうち炭になっちゃうんじゃない」
「炭になる前に食べればいい」
「おお、いい匂いだな。俺が帰る前に始めてやがる。もうちょっとくらい待てよな」
声が増えた。見れば魁斗が立っている。
そして魁斗は大きな猪を抱えていた。
その猪は。目と目の間がぱっくりと割れていた。
どうやって殺したのか、考えなくてもすぐにわかった。
「あら、大漁じゃない」
「そうだろう、そうだろう。で、こういうことは量が多い方が勝ちだぜ。だからこの勝負、俺の勝ちだ。残念だったな、紫苑」
「いつ勝負なんかしたのよ」
「たった今だ」
どこかで聞いたような会話だ。
飛燕が言った。
「そろそろ焼けたぞ。さあ手を出して。清武さんも」
二人が速攻で手を出し、清武が遅れて出した。
飛燕が三つの手のひらの上に、焼けた肉をのせてゆく。




