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山で迷った。
唯一の生きがいである広大な自然、なかでも野鳥を写真に収めるという週末のイベントを行っていたのだが、より深い大自然を求めた結果がこれだ。
――まいったなあ。
清武は心底困り果てていた。
こういう場合はもと来た道を戻ればいいのだが、それがどの方向なのか皆目わからなくなっていた。
おまけに頼りになるべきコンパスは先ほどから何故かおかしくなり、左右に大きく振れたり一回転したりとまるで役に立たなくなっていた。
――とにかく下を向かって歩くか。
今のところそれしかなさそうだ。
ふと時計を見た。午後三時。
迷ったと気づいてから四時間近くも山中をさ迷っていることになる。
――いくらなんでもまずいぞ。
このまま迷い続ければ、生命の危機さえある。
清武は焦りはじめていた。
唐突に何かが聞こえてきた。
どうやら人の声のようだ。
声のする方向に足を向けると、そこに誰かがいた。
山の木々の間。
背を向けているために顔は見えないが、その格好は見るからに奇妙であった。