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 丘から街道へ道なき道を歩き、街道に出てから町へと向かった。

 町が近づくにつれ、街道を歩く人も増えていった。商人や羊飼い、それに冒険者っぽいのとかだ。

 周囲の会話に耳を澄ませながら歩いていた結果、この町の名前はランドバーンということが分かった。

 この地方の中核都市らしい。


 町の城壁に到着する。

 入り口の門には、列が出来ている。

 何人かいる門番が対応していた。

 自分も列に並ぶ。

 すぐに俺の番が来て、門番に声を掛けられた。


「名前と職業、ここに来た目的、それに身分を証明できるものを」


 名前、本名でいいだろうか。

 いや、町の名前からして西洋風ファンタジー世界だ。佐藤太郎では浮くだろう。

 それに、聞く人が聞けば一発で日本人だと分かる。他に転移者がいないとも限らない。ここは別の名前にしよう。


「タウロと申します。職業は薬師の真似事をしております。町には薬を売りに来ました。身分証は持っておりません」


「薬師なのに身分証がないのか?」


「・・・ええ、薬師といっても自己流の真似事でして」


「薬を売りに来たと言ったが、商人ギルドに入ってなければ商売できないことぐらい分かっているだろう?」


 えっそうなの?知らなかった。まずい。

 だが、ここは正直に行こう。

 俺は今までの経験から、自分が嘘をつき続けられるほど頭は良くないことを、知っていた。


「その・・・、申し訳ありません。知りませんでした」


 しょんぼりと、俺は頭を下げる。


 門番は片眉を上げ、胡散臭そうに俺をジロジロ見る。


「お前本当に薬師か?売りに来たっていう薬、見せてみろ」


 返事をすると、俺はバックパックから、怪我治療薬(F)3本(E)1本、病気治療薬(F)3本(E)1本、状態異常治療薬(F)3本(E)1本の計12本を取り出して、門番の前にある木の机に並べた。

 全部俺がつくったものであり、旅人装備一式に入ったものは出してない。

 並べられた薬を見て、門番は、ホゥ、と小さく声をあげた。


「・・・珍しいな、病気治療薬と状態異常回復薬があるのか。しかもEまで」


 ぶつぶつと独り言を言っている。

 怪我治療薬の方にはあまり関心がないようだ。

 独り言の内容から考えると、病気治療薬と状態異常回復薬は、怪我治療薬より希少価値があるようだ。作っておいてよかった。


「薬師というのは認めよう。しかし、ギルド員にならずに、今までどうやって商売してきたんだ?」


「あっ、あの、・・・物々交換とか、です。はい」


 苦し紛れの言い訳しか出てこない。

 だが、この言い訳が結構効いたようだ。

 門番は、ったく、どこの田舎者だ、と小さくと呟くと、言葉を続けた。


「町には入っていい。身分証がないから入場税は銀貨5枚だ。あと町に入ったらすぐに商人ギルドへ行って登録しろ」


 ほっとした俺の様子を見て、門番は声を大きくした。


「無登録で商いをしたら重罪だからな。ここはお前の田舎とは違うってことを、頭に叩き込んでおけ!」


 おう、さっきの言い訳、信じてくれたんですね。助かった。

 俺は銀貨を払い、ペコペコと頭を下げながら薬を回収して、町へと入った。


 町へ入っり、すぐに商人ギルドへと向かう。

 場所は一緒に門をくぐった人が教えてくれた。

 さっきの一幕を見ていたらしい。頑張って、と言われた。いい人だ。

 商人ギルドの建物は町中央にある広場に面して建っており、商人っぽい人が多く出入りしているので、すぐに分かった。

 建物に入るとそこは広いホールになっており、結構人がいた。

 入ってすぐのところに、案内役らしい若い兄さんがいた。

 登録したい旨を伝えると、一番右のカウンターに行くよう、笑顔で言われた。

 さすが商人ギルド、笑顔で挨拶、笑顔で受け答え、商売の基本ですね。

 こちらも笑顔で礼を述べ、カウンターへ。こちらでも愛想よく対応してくれた。

 それによると、登録料は金貨3枚。

 さらに来月から、ギルド費として、毎月金貨3枚納めないといけないそうだ。

 商人にもランクがあるそうで、ランクはSからFまでの7段階。

 Fが一番下。俺は勿論、Fランクだ。

 このランクはその商人の「信用」なのだそうで、まじめに商売を続けていくと徐々に上がり、信用を失うようなことをしたり財政状態が悪くなったりすると、下げられるのだそうだ。

 大商いをするには、高いランクが資格として必要。

 また、その他にもランクが高ければ、低利で大きな金額を借りられたり、各種審査が通りやすくなったり、いろいろと商売し易くなるんだそうだ。

 その代わり、ギルド費も格段に高くなるそうだが。


 書類に必要事項を記入し、金貨3枚を払う。

 身分証、商人ギルドカードと言うらしい、が出来るまで少し時間がかかるそうなので、ポーションの売却について相談する。

 ここで買い取ってくれるらしいので、そのまま査定コーナーへ連れて行ってもらう。

 ここでは、言葉は丁寧だが目に愛想のないおっさんが、対応してくれた。

 先ほど門番に見せたポーションを、机の上に全部出す。


「こちらが、ポーション関係、一本当たりの買い取り価格になります」


 そう言って出してきたのが木の板。机の上にトンと置いて、こちらに見せる。

 ポーションの名前とランクが書かれており、値段の部分は数字が入れ替えられるようになっている。

 ポーションは俺の作れる治療・回復系以外にもいろいろあるようだ。

 火だと毒だとか、明らかに攻撃系のものや、避妊薬なんかもある。


「怪我治療薬(F)が銀貨1枚、(E)が銀貨5枚。病気治療薬(F)が銀貨3枚、(E)が金貨1枚銀貨5枚。状態異常回復薬(F)が銀貨2枚、(E)が金貨1枚。」


 おっさんが説明してくれるが、怪我治療薬(F)の欄は「0.1」となっている。

 ふむ、 金貨1枚=銀貨10枚のレートなのだろう。

 おそらく銅貨もあるはずだ。


「分かりました。その価格でお願いします」


 相場も分からないのに、ここでゴネるつもりはない。

 商売のテクニックとして、最初の数字には交渉の余地を持たせている可能性もあるが、まあいいだろう。

 有難うございます、とおっさんは一礼して、早速計算に入った。


「では、合計で金貨4枚銀貨8枚になります」


 お金を受け取っていると、ギルドカードが出来たそうで渡された。

 こちらもお礼を言って、忘れずにお勧めの宿屋を聞いて、商人ギルドを出た。


 お勧めされた宿へ、早速向かう。

 商人ギルドから歩いてすぐだった。

 通りに面した部分が食堂になっており、宿と兼ねて営業しているようだ。

 扉を押し開け、中に入る。

 何人かが遅い昼食を取っていた。


「いらっしゃーい。食事ですかお泊りですか?」


 かっぷくのいいおばちゃんが、声を掛けて来る。


「宿泊をお願いできますか?商人ギルドから、こちらがいいと紹介されまして」


 商人ギルドの名前も出しておく。当然だ。

 空いているというので値段を聞くと、一泊一人部屋だと、朝晩の食事付きで銀貨4枚とのこだった。

 前金制との事なので、その場で払う。

 案内された部屋を見ると、新しくも立派でもないが、それなりに清潔だ。

 荷物らしい荷物はないので、部屋に置くことなく、そのまま宿を出る。

 夕食までに、町で情報収集をしておきたい。


 商人ギルドのあった広場まで戻り、そこを中心にあちこちの店屋をのぞいて見る。

 ポーションを取り扱っている店があれば、ぜひ売値を確認したい。

 ぶらぶら歩いていると、それらしい店があるので入ってみる。

 ポーションの他に、漢方薬の材料みたいなもの、空のポーション瓶、化学実験の道具みたいなのが並んでいる。

 おそらくポーション作製の材料や道具なのだろう。

 怪我治療薬(F)があったので値段を見てみる。・・・銀貨2枚だ。

 病気治療薬(F)が銀貨6枚、状態異常回復薬(F)が銀貨4枚。

 店頭にはFクラスのポーションしかなかったので、見せの人にE以上は置いてないのかと聞いたら、怪我治療薬(E)は在庫があるが、他は薬師から取り寄せないとないらしい。

 一応、値段を聞いてみると、在庫している怪我治療薬(E)は金貨1枚、他は取り寄せ後に値段を決めるとの事だった。

 この店に関して言えば、商人ギルドの買い取り価格は、売値のきっちり半額だ。

 俺の判断基準で行けば、悪くない。

 買取なんて三分の一、四分の一くらいのものだと考えていたからだ。

 まあもしかしたら、ポーションは需要が高くて片っ端から売れるから、買い取り価格は本来もっと高い、ことも考えられる。

 が、俺の場合、原価がゼロなので、売値の半額なら十分だ。


 店先にバックパックやポーチを並べている店があったので、入ってみる。

 見せの主人らしきおっさんに、アイテムボックスみたいのはないか聞いてみる。

 なんとあるらしい。

 あるらしいが、とても高価で、普通の店では扱ってないそうだ。

 詳しく話を聞きたかったので、ポーションを大量に収納できる袋があれば購入したいと伝える。

 布袋に瓶を裸で入れてカチャカチャさせるているのは、いかにもまずい。


「ポーション運搬用のがある。これなんかどうだい?」


 皮製の箱で、中には厚手の布でたくさんの仕切りがしてある。100本は入りそうだ。肩掛け用のベルトと、箱に鍵も付いている。

 俺が冷やかしから客に変身したので、おっさんの愛想もいい。

 他にも大きさ違いがあるらしく、倍ぐらいでかいのを持って来ようとしたので、止める。あんまり重くなるのは避けたい。

 値段を聞くと、なんと金貨4枚、予想よりずいぶん高い。


「これはね、中の仕切りにジャイアントモールの毛皮を使ってるんですよ。だから、ちょっとやそっとの衝撃じゃ、瓶は割れません。万一割れても、内張りにスケルレスリザードの皮を使っているから、外に浸み出したりはしないし、当然、雨にも強いです」


 俺が断わるでもなく商品を前に悩んでいるのを見て、おっさんが営業トークをしてくる。

 俺にはジャイアントモールがなんなのか分からないが、おそらくでっかいモグラかなんかなのだろう。

 確かに毛皮は柔らかそうだ。

 スケルレスリザードの皮は防水性がいいのだろう。


「それにね、この鍵。機械式じゃなくて魔法式になってる。個人認証だから、登録した人しか開けられない」


 それはいい。魔法の鍵が決定打となって購入することにした。

 せっかく異世界に来たんだ、魔法の鍵、使ってみたいです。

 少し交渉したら、銀貨5枚ほどまけてくれた。

 現金で金を払おうとしたら、おっさんがちょっと驚いている。

 どうかしたかと聞くと、金貨4枚近い支払いを現金で行うのが、珍しいらしい。

 こっちも驚いた。

 じゃあこの中世な世界で、どうやって決済しているというのか。


「お客さん、こういったのお求めということは、商人ギルドか冒険者ギルドに入っているんでしょ?」


「ええ、商人ギルドに」


「ギルドカードで決済するんですよ」


「えっ?」


 おっさんの話によると、商人ギルドでも冒険者ギルドでも、登録すると口座が作られ、お金を預けられるのだそうだ。

 それでギルドカード取扱店でギルドカードを提示すると、その場で口座から支払いが行われるとのこと。

 逆に売った場合も、望めば口座に入金できる。

 デビットカードです、異世界すげえ!

 お店としても手元に大金を置かなくて済む上、誰が買ってくれたか、誰が売りに来たのかが明確に分かるため、その後のクレーム対応とかで助かるのだそうだ。

 くっ、商人ギルドでもっと根堀り葉堀聞いておけばよかった。

 商人ギルドは不親切だと、心の中で軽く八つ当たりした後、鍵の登録をすることになった。


「じゃあ、鍵の部分が光ってる間に触れてくださいね」


 おっさんがなにやら呪文を唱えると、鍵の部分が光りだした。

 ちなみに鍵穴はない。

 俺がそこに触れると、冬場にドアノブ触った時のような電撃が走った。


「はい、完了です」


 試してみると、確かに鍵をかけられる。

 鍵に触れて、『施錠』、と念じると、コトリと鍵がかかった感触が伝わる。

 開錠も簡単だ。


「すごいもんですね。あー、だけどこれ、俺が死んだら誰も開けられないんじゃないですか?」


「いえ、鍵以外の部分を壊して開けられますから」


 あっさりと返答され、妙に納得する。

 確かにこれは『魔法の鍵』のついたポーション鞄、であって、『魔法の鞄』ではない。

 登録の時、呪文を唱えていたので、魔術師なのかと質問すると、おっさんは苦笑しながら答えた。


「残念ながら違います。鍵を作ったのが魔術師で、使用者登録時はこの呪文を唱えるようにって、決まっているんですよ。この呪文は誰でも唱えられます」


「じゃあ、俺でも大丈夫なんですか?」


「ええ、大丈夫ですが・・・」


 何やら言いづらそうにしているので、気にせずどうぞ、と先を促がす。


「お客さんはあんまり慣れてないようだったので、ここでした方が安全かな、と。登録に失敗すると鍵ごと交換しないといけなくなるので」


 なるほど納得した。

 返品だとか返金だとか追加料金だとか、面倒なことになるのだろうな。

 一服どうぞ、とお茶を出してくれた。

 ほうじ茶みたいなものをいただきながら、聞こうと思っていたアイテムボックスについてたずねる。


「あれはねえ、一般には流通してないんですよ」


 おっさんいわく、取り扱ってるのは、商人ギルドと冒険者ギルドだけらしい。

 便利かつ数が少ないため、ギルドでも上位ランカーにしか売らないそうだ。


「他に入手方法はないんですか?」


 おっさんは腕を組んで、うーんと唸る。


「新品は、国、貴族、ギルドが結託して職人から買い上げているから、流通していません。新品でなければ、個人的に譲って貰う、とかしかないでしょうね」


 どうしても欲しければランクを上げた上で大金を準備する。

 そうでなければ、さらに大金を積んで個人的に譲らせる。

 どちらにせよ難しそうだ。

 まあ俺的には、あったら便利、という程度で、どうしても必要なものではないから、あきらめることにした。

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