表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末タンク  作者: 壱名
7/37

アンタッチャブル

互助同盟はこの世界が終末世界と呼ばれる時代に突入した後に、港町周辺のライフラインの維持に必要な物資を生産し融通し合う目的で作られた。現在は事実上の世界政府として治安維持も担う多目的な組織に成長している。ベギンタウン・港エリア。そこに互助同盟が運営するいくつもの組織の現地オフィスが所在する。治安維持部隊の現地オフィス、その応接室にジャービス5等仕官とプライムス・ソルジャー・ファームの幹部ウェットの姿があった。


「色々調整はしてはみたが、やはりグリズリーミュータント戦で失われたファームのタンクについては補填できないという結論に至った。散布剤の制限事項はサテンの村の資産を最大限に保護しようと配慮した結果であるし、契約書にも約款として盛り込んであったことだ。契約上問題がないのであれば私ではどうにもできん」

「緊急事態とあるからそれで引き受けたんですが、これでは今後はファームへの指名依頼であっても緊急案件はお引き受けいたしかねますな」

「待て待て性急だ。私はもっと全体で帳尻を合わせて行こうという話をしたいんだ」

「それは他より優先して仕事を回してもらえるってことですかい?」

「そうではない。経緯がどうであれそんな不自然な状況を作れば癒着と見なされるだろう。他の競合組織に潰れてもらっても困るしな。私としては共同開発の名目でお前たちの興味のあることに投資するというやり方を考えている。あと怪我人への補償は見舞金としてすぐにでも出す。英雄への人道支援だからこれはすんなり通るだろう」

「まぁそういうことなら」

「私としてはプライムス・ソルジャー・ファームとの良好な関係はこれからも維持したいと考えている」

「それはこちらもです」

「あと研究・開発内容があまりに酷いものであればこれもなかったことになる。こちらの足元は見るなよ」

「伝えましょう」


コンコンッ、応接室のドアがノックされる。


「例の青年をお連れしました」

「入れ」


ドアが開かれ、軍人がひとりと灰色髪をぼさぼさにした青年が応接室に入ってくる。青年の目はうつろである。


「これから何か?それでは俺はここでおいとまさせて貰います」

「いや居てくれ、お前に会わせたかったんだ」


ジャービスはソファーから腰を上げて、青年にその場を譲ると、ウェットの側のソファーへと腰を掛け足を組む。


「どうぞ、座ってくれ」


軍人にせかされ青年は返事もなく譲られた席に腰を掛ける。それを見届けるなり軍人は応接室を後にする。ウェットは状況を飲み込めずに青年を見やる。


「こちらは?」

「彼の名はセイル、例のアンタッチャブルだ」

「アンタッチャブル……ああ、あの亜人種のことですか」

「彼らは歴とした人間だよ。デザイナーベビーではあるがね」

「はぁ」

「尤も二世が何の変哲もない人間として産まれるからそう考えられているだけで、確かでもないのだが」


ウェットは言葉を発しないセイルと呼ばれた青年を観察するがセイルはウェットをじっと見つめるだけで何も話さない。


「やあ、俺はプライムス・ソルジャー・ファームのウェットだ。挨拶は貰えるか?」

「……セイルです……」

「よろしく」

「……」


それ以上は何もなく、セイルの視線もウェットから外されてしまった。小さくため息をつくウェット。


「それで彼が何か?」

「セイルにはかなり長い間の軟禁生活を強いてしまっててね。そろそろ彼が自活できるように解放しようと考えていた」

「うちを職業訓練校として選ぶのはちいとヘビィすぎやしませんかね」

「メカニックとして育てるのもいい。彼は大変賢いからな」

「でしたらうちじゃなくても」

「おいおい、分かれよウェット。解放するといっても目の届くところには置きたいんだ」

「うーん、俺らはアンタッチャブルのことについて良くは知りませんぜ」

「アンタッチャブルについて互助同盟が知っていることは実はそう多く無い。分かっているのは彼らが何か特殊な力を持つこと、彼らが赤子の状態で互助同盟の関連施設に捨てられていること、そしてどうやら彼らはメッセンジャーとしてアンタッチャブルの組織から送られてくること、このくらいだ」

「メッセンジャー、ですか?」

「彼は今19になるが、メッセージを口にしたのは4年前、内容は公開できないが少なくとも戦争を始めようといった話ではない」

「それは内通されているんじゃないですかい?」

「当然それを考慮した調査は行ったが今までにそのような痕跡は確認されていない。また送られてきたメッセージを聞く限り、どれもデザイナーベビーを作った時点でメッセージを吹き込んでいるようだ。15年経つと開封されるって感じでね」

「何とも珍妙な話ですな」

「こちらとしては直接コンタクトして貰いたいものだが、中々に難しい性格の連中のようだな。捨て子のその後の面倒も見なければならないし何とも扱いに困る」

「なるほど、事情は分かりました」


ウェットが膝をぽんと打つ。


「しかしコミュニケーションが取れないのは厄介だな」

「……」


――ボルツ・リペアズ・アンド・クリエイションズ宿舎内。タイガはリビングのソファーに腰を掛け、テレビ画面を眺めている。ベギンタウン周辺ではテレビ番組などは放映されていない。今見ているのはビデオ映像である。ディスプレイの中には昔のタイガの姿があった。傍らにタイガと同じ黒髪を持つ青年が居る。髪をセンターで分けており、如何にも利発そうな顔をしている。映像の中の彼はタンクのシャシーを弄っていた。


「なあ兄貴、それ俺にくれんの?タンクだろそれ」

「何でだよ、やらねーよ」

「だって兄貴メカニックじゃん。俺はモンスターハンターになりたいんだよ」

「知らねーよ。というかこれでモンスター退治とか普通に死ぬから」

「何で?タンク作ってるんじゃないの?」

「作ってるけど市場に出回ってるものと比べるなよ。これは半分趣味みたいなもんだから」

「戦いに使えないなら何でそんなの作ってるんだよ」

「ロマンだよ、ロマン」

「はぁ?」


映像を眺めるタイガの横にレンが座る。


「また見てるの?」

「決意が鈍らないようにな」

「まあ飽きる飽きないの問題ではないのでしょうけど」

「俺は何とかしてモンスターハンターになる。世界を巡ってその修行をする。誘拐された兄貴も探す。もう死んでるかも知れないけど、世界一周して探せば気持ちにも整理が付く。俺と兄貴は両親にこの街に捨てられてそれでも兄貴は俺をここまで育ててくれたんだ。俺が兄貴のロマンを引き継いでもっと大きなものにするんだ」

「……私はこの工場を再建するわ。世界を巡って色んなビジネスも学びたい。あとついでにタイガの世話もしてあげたい。だけどより良い土地があればここは売り払って、そこに新工場を建てても良いと思ってる。工場ではない別の会社になってるかもしれないけど」

「もしそこに修理工場があるなら俺が世界を股にかけるための前線基地にして欲しいな」

「じゃあそれも検討してあげる」

「……もうすっかり調子は戻ったみたいだな」


タイガがレンに微笑みかける。


「ああ、うん。ごめんなさいね、みっともない姿を見せて」

「あれは誰だってショックを受けるさ。それに最良の結果を求めて賭けに負けるだなんてことは、これから先も出くわすことじゃないか?」

「そうね、覚悟はしとく」


だが仮にジャクソン隊に死者が出ていたらレンもこうは立ち直れなかっただろう。最悪の状況でも死者が出なかったという運にレンは救われたともいえる。レンは己の覚悟の準備不足を感じた。こういうビデオを眺めながら覚悟を刷り込んでいく作業も、実は重要なトレーニングなのではないかとレンは思う。


「そうそう、さっきホミィがここまで来て旅の支援の話で治安維持部隊のオフィスに顔を出すように言われたわ」

「向こうから?まだ何も思いついてないぞ」

「私の方はある程度。まあ突然の事だし内容を聞かれても即ダメってことにはならないと思わ」

「そうだな」


――ベギンタウン治安維持部隊オフィス。そこにタイガとレン、ジャービスの姿がある。ジャービスはレンに提出された資料に目を通していた。


「街間の空白地域のマップ更新、および生態系の変動調査、世界の生活向上のための地域毎の取り組み等調査、幸福度向上のための嗜好品等調査と。なるほど、世界全体を多項目に渡り少しずつ改善していこうという考えか」

「はい、この世界はモンスターが跋扈するようになって以来、皆何かと街に閉じこもりがちのため、これらの情報収集が上手く進んでないと考えました。また生活の知恵が行き届いてない土地に他の土地の知恵を持ち寄ることで生活の質を底上げできるのではないかとも考えました」

「なるほどね。これにはタイガの案も含まれてる感じかな」

「はい、マップの更新や生態系の変動調査などはそうです。地上円環ルートを中心に街間で40年以上調査されていない空白地域の再調査を行います」

「確か一斉調査を行ったのが40年前だったかな。俺もぎりぎり産まれてないな。とりあえず確認だけのつもりだったが、中々期待に応えた提案だと思う」

「ありがとうございます」

「ただ申し訳ないんだが諸事情でぽんと支援してやることは難しくなった。別のちょっとした仕事付きで西大陸に居る間までの支援となりそうだが、それで構わないかな?」

「元々は支援なしで周ろうとしていたことですので支援を頂けるならそれだけで歓迎です」

「分かった。ではこの草案を元に双方のメリットが最大化するようプランを立てさせることにする」

「ありがとうございます」


――ジャービスとの面談から2週間ほどして、タイガとレンはようやくベギンタウンを旅立った。ベギンタウンは西大陸の北東にあり、大陸の東端にあたる。そこから大陸に居る間の支援となるため西回りの旅ということになる。タイガのタンクが荒野を走る。それはバギーを牽引する。タンクの車内にはタイガとレン、ホミィにそして灰色髪の青年セイルの姿があった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ