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終末タンク  作者: 壱名
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グリズリーミュータント戦 2

果樹園の奥へと侵入するタイガとダニエルのタンクが2台。ダニエルよりタイガへ無線で状況が知らされる。


「現在ジャクソンのタンクはグリズリーミュータントに捕獲されている。大変危険な状態だ」

「ジャクソン隊は俺たちが1体を倒すまでは注意を引きつけるだけのはずでは」

「カメラレンズが殺人蜂の毒によって視界不良に陥ったらしい」

「殺人蜂が何でカメラを狙うんですか」

「殺人蜂には毒を散布することで仲間を呼ぶ習性がある。ジャクソンからの報告では尋常ではない数の殺人蜂の群れがカメラレンズに毒の膜を貼ったとのことだ」


殺人蜂の群れは巣を捕食したグリズリーミュータントを報復のターゲットとしており、森にほど近い位置となる果樹園奥側は殺人蜂が集まりやすいポイントとなっていた。そのような場所でのグリズリーミュータントは一見すれば殺人蜂を身にまとった何か別のモンスターのようにも見える。大量の殺人蜂を身に纏ったグリズリーミュータントは、捕えたタンクを片手で持ち上げ、もう片方の腕を使ってタンク上面を何度も殴りつけた。ぐにゃりと曲がる主砲。


「殺人蜂の群れは火炎放射器で焼き払うんじゃなかったんですか」

「その群れの数がまったく違うということだろう。火炎放射器の燃料の残りを気にしたのが仇になったらしい」


タイガらは殺人蜂の群れを纏うグリズリーミュータントを目の当たりにする。ジャクソンのタンクは執拗に殴りつけられている。


「まずいな、このままハッチに隙間が開いて車内が暴露されたら中の搭乗員は殺人蜂の餌食となる」

「防護服は着てないんですか」

「基本車内で全ての火器を操作する仕様になってるからお前らのように上面ハッチから機銃掃射なんてのは想定されていない」

「主砲の砲身から紛れ込んで来たらどうするんですか」

「一応そういうケースのための送風機能が付いてる」


戦闘服は肌の露出が少ないとはいえ完全ではない。現状、殺人蜂向けの防護服を着ているのはホミィだけであった。タイガのタンクにおいて砲身から車内に紛れ込む殺人蜂はホミィが迅速に処分してくれていた。もっとも殺人蜂が紛れ込むのは砲弾の装填が終わっていない時くらいでひっきりなしというわけではない。


「ダニエル、あの雲のような蜂の群れの中では俺の主砲が使えない。砲弾で主砲に蓋をしておかないと殺人蜂が飛び込んできてしまう」

「何か考えよう」

「もっと強力な殺虫剤を散布して貰えませんか」

「人間装備としてなら煙霧機というものでもっと強力なのを撒くことはできる。当然防護服も持ち込んではいるがこの状況では外に人は出せん」


ジャクソンのタンクは今ではグリズリーミュータントの手にぶら下げられている。爪に引っかかっているといったほうが正しい。かなり危険な状態と言える。


「くそっ、どうする……」


ダニエルからも焦りの声が聞こえる。タイガにはどうすることもできない。


「車内が暴露されて一番危険なのは殺人蜂の群れを前に防護服を着てないことよね?」


レンがタイガに確認を取る。


「その筈だ」

「今のジャクソン隊は攻撃に参加することはできないのだから、まずはあの体勢でも防護服を着るべきじゃないかしら」

「ダニエル、今のうちにジャクソン隊には防護服を着せるべきでは?」

「それまではとにかくグリズリーミュータントは刺激しないように」

「あと、それまでは極力刺激しないように」


タイガはレンの意見をそのままダニエルに中継する。


「……よし、そうしよう」


ダニエルはジャクソン隊に防護服を着るよう指示をする。


「だけどレン、これではジャクソンのタンクが解放されても戦闘には参加できないぞ」

「それは仕方のないことだし、既に2台で1体を倒してるのだから戦力は問題にならないわ。それよりあのタンクが走行不能になってあの場に取り残される可能性の方が問題」


そんなレンの懸念の刹那、グリズリーミュータントは大きく腕を振り上げ、ジャクソンのタンクを地面に投げつける。タンクはグリズリーミュータントの後ろ手にうち捨てられた。


「ああっ」


タイガは思わず叫びを上げる。レンやホミィも目を見開き絶句する。ジャクソンのタンクは見事に横転している。そしてレンの様子がおかしい。


「あ、あ……」


いつにない動揺を見せるレン。それもそのはず、先ほど防護服に着替えるよう提案したのはレンである。もしも無防備な状態でタンクを地面に投げつけられていたとしたら搭乗員に死傷者が出ているだろう。


「レン、大丈夫だから落ち着け。お前の判断は間違っていない。たまたま悪いくじを引いてしまっただけだ」


タイガはそう言い聞かせるがレンの顔はみるみる青ざめていく。これでは逆効果だ。


「ダニエル、状況を教えてくれ」


返答はない。


「ダニエルっ、状況を教えてくれ!」

「ああ、ジャクソンのタンクの上面ハッチが半分開いている。ハッチの蝶番が逝かれてるらしい。また煙霧機を持つものが先ほどのショックで気絶し、搭乗員は殺人蜂に襲われている」

「くそっ」


ハンドルを叩きつけるタイガ。レンは嗚咽を上げている。ホミィは心配げに黙って見ているだけであった。


「ダニエルだ、ジャクソン隊はこのままにして奴を始末する」

「なんだって!?」

「奴を倒さなければどの道救助も出来ない。お前はもっと離れた位置から援護してくれ」

「……了解」


ドガンッ、ダニエルの砲撃はグリズリーミュータントの頭部を捕える。それも特殊砲弾である。グリズリーミュータントは大きく仰け反りこらえるも、踏ん張りが効かずに後ろに倒れる。巻き起こる殺人蜂の嵐。タイガはタンクの距離を取る。ちらりとレンを見やる。レンはどうしたらいいかも分からず嗚咽を上げるばかり。


「どうすればいい……」


ダニエルがグリズリーミュータントを引きつけてタイガは長距離から援護射撃を行うが、グリズリーミュータントはその砲弾を避けつつ叩き落とす。先に倒したグリズリーミュータントもそうであったが、このモンスターはそれなりに状況を理解しているようだ。


「考えろ……」


グリズリーミュータントは再び殺人蜂の群れに覆われる。直後ダニエルの砲撃がグリズリーミュータントに届き、再び殺人蜂の嵐が巻き起こる。それを確認し、タイガはある決意をする。


「ダニエル、殺人蜂がグリズリーミュータントの顔を覆った時なら、砲弾も確実に届く。任せてもいいか」

「何をする気だ」

「それとジャクソンのポイントに散水弾を撃ち込んでくれ。救助に向かう」

「正気か!?」

「頼む、散水弾だ」

「……何を考えついたか察しはついたが、それは無茶だ」

「大丈夫、シミュレーションは出来ている。俺はみんなで帰りたい」

「よし、分かった」


タイガのタンクはジャクソンのタンクへ向かう。しばしの間の後、散水弾がジャクソン機の上で爆ぜる。


「いくぞっ、ホミィ、合図したらジャクソン機のとこまで駆けてくれ」

「はぁ!?なんで?」

「ジャクソン隊は何らかのトラブルで煙霧機をまだ使えていない。お前が代わりに使うんだ」

「分かった。こんなことなら付いてくるんじゃなかった……」

「ありがとう。レンもしっかり捕まってろ!」


タイガはジャクソンのタンクまで一気に掛ける。そして左右の樹木を確認し、確信を得る。


「よし、行けるっ」


タイガのタンクは90度ほどスピンをし、横滑りを始める。タンクからは火炎放射器の炎が放たれる。ボゴオオオッ、炎はうなりを上げてジャクソンのタンク周辺を薙ぎ払った。周辺の殺人蜂が一瞬で消滅する。樹木にも延焼するが散水弾がこれを最小限に留める。


「行け、ホミィ」

「はいよっ」


タンクが急停車されると保護服姿のホミィは急いで上面ハッチを抜け、ジャクソンのタンクまで走っていく。タイガはすぐにタンクを発進させる。ホミィはジャクソンのタンクの壊れた上面ハッチを完全に開き、中の状況を確認する。煙霧機は気を失ったひとりの搭乗員の下にあった。タンクが横転した影響で他の搭乗員は席からずり落ちないよう踏ん張り殺人蜂から肌を隠すことなどで精いっぱいという感じで軽いパニック状態にあった。ホミィはジャクソンのタンクの突入し、気絶した男と煙霧機を引きずり出す。


「ホミィです。殺虫剤を撒きますので呼吸に注意してください。何秒かしたら換気をお願いします」


ホミィは車内に向けて煙霧機の殺虫剤を撒き散らす。――タイガのタンクが駆ける。ドガンッ、主砲をグリズリータンクに一撃し、これを転倒させる。


「タイガです、援護に入ります」

「了解、って何故主砲を撃った。殺人蜂に襲われるぞ、離れろっ」

「大丈夫!とにかく大丈夫です」

「……?分かった、とにかく援護を頼む」


この時レンは装填手席に移動していた。ホミィが出る時に入れ替わったのだ。現在タイガはタンクを後退状態で疾走させている。話は簡単でバック走をしていれば砲塔が正面を向くことはなく、殺人蜂は入ってこれないというわけだ。タイガの様子を見やるレン、タイガの表情は何故だか笑みを浮かべているように見える。


タイガ達が相対するこの2体目のグリズリーミュータントの動きは実はやや緩慢であった。時折タイガらを猛追するが、大量の殺人蜂に視界を奪われ簡単にタイガらを見失うためだ。タイガらも殺人蜂の群れに捕まらないよう十分に距離を取り、特殊砲弾で狙い撃ちにする。グリズリーミュータントは間接的であれ殺人蜂の怒りに屈したのである。タイガとダニエルはグリズリーミュータントをジャクソンらの近くに近づけないように気を付け、ついには仕留めることに成功するのであった。


「トレイン博士、ダニエルだ、グリズリーミュータント2体の戦闘不能を確認。消火器とあれば煙霧機を持ってジャクション隊を救出してくれ。タイガ機は離脱させる」

「こちらトレイン、了解した」


こうしてグリズリーミュータント戦は成功裏に作戦を終了した。――


ベギンタウンにある現地ファーム・オフィスにタイガとトレイン博士の姿があった。ドックではタイガのタンクが改修を受けている。


「んんん、ミッションの追加ボーナスみたいなものだな。機銃をレンの使いやすいようにしたのと、今やってるのはバック時にハンドルが逆転しないように設定を弄っている。前後カメラを使うならこの方が簡単だろう」

「ありがとうございます」

「レンの調子はどうかね」

「まだ少しショックを引きづってるようです」

「わしもタイガの言う通り彼女の判断に誤りはなかったと思うがの。最終的にダニエルも支持したわけだし」

「そう言ってもらえると助かります」


ジャクソンらはグリズリーミュータントに地面に叩きつけられる前に対衝撃姿勢を取っていた。車体が横殴りされたために運悪く重傷を負ったものは居たが、幸い搭乗員に死者は出なかった。トレインにしろダニエルにしろ、レンを褒めることはあっても非難などはしなかった。


だぁかぁらぁ、ファームのオフィス内にひとり大声を上げる男が居る。ウェットである。


「だからこっちはタンクが1台おしゃかになったんだ!重傷者も出ている!そちらが散布剤に制限を掛けなかったら、こんな事にはならなかった!」


ファームと互助同盟との間に亀裂が入りつつあるようだ。

読者の皆様はじめまして、作者です。グリズリーミュータント戦は如何でしたでしょうか。

終末タンクでは大型モンスター戦をボス戦として今後とも力を入れていくつもりです。

またミリタリー色は薄く、ロボットものに近いテイストになると思います。


今後は更新速度がゆっくり目になると思いますが、どうぞお付き合いください。

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