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終末タンク  作者: 壱名
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ブレイクダウン

ボルツ・リペアズ・アンド・クリエイションズ宿舎。タイガは8人掛けの食卓に腰を掛けあーでもないこーでもないとひとり悩む。


「人探し……内偵……スパイ……うーん、こういうんじゃないんだろうなぁ」

「ひとりで悩んでないで洗濯物を干すから手伝ってよ」

「えぇ」

「えぇ、じゃない」


洗濯籠を抱えたレンがあきれた表情をしている。


「俺はジャービスへの提案内容を考えるので忙しいのだけど」

「そんなやり方じゃ全然ダメだと思うけど。それに洗濯物を干しながらでもものは考えられるでしょ」

「ああ」


タイガは重い腰を上げる。――宿舎前、タイガとレンは数本の物干し竿に洗濯物を干している。


「私の見立てでは時間より内容の方を重視すべきで、20日くらいは結論を引っ張ってもいいと思う」

「ずいぶん間隔があるような……ジャービスが俺たちに興味があるまでが期限で20日は長すぎないか」

「提出時期によっていくらか印象が変化するくらいよ。あの言葉はいつまでも贔屓目で見てはやらないという意味であって、急いで考えろって意味ではないわ」

「なんでそう思うんだよ」

「良い提案であればいつでも考慮くらいはされるわよ、期限を切る意味はない。あと何が出来るかを私たちの旅の目的の中から見出せって条件が付いたことも大きい。この言葉の意味は恐らくだけど私たちがやらなければ他では効率が悪いような内容で提案しろってこと」

「好意というよりハードルを上げたって感じだな」

「実際そういうことよ。私たちが互助同盟に何かを提案したとして、それが現地の人間にできることなら私たちを支援する価値がないもの。だから旅をする私たちだから出来ることを提案すべき」

「うーん……」

「それにジャービスは互助同盟全体に影響を与えられるような立場ではないでしょ。資金提供をするより根回しの方が面倒とか言ってるくらいだし」

「5等仕官ってどのくらいの立場なんだ?」

「まずはそういうことを調べていきましょうってこと。ちなみにその質問の答えは私も知らないわ」

「分かった」


――ベギンタウンは終末世界にあっても根強くライフラインを維持しつづける街のひとつである。だが賑わうのは街の中心部だけであり、そこから少し外れると廃ビルやシャッターの降りた店舗ばかりが建ち並ぶ。タイガとレンはそんな街並みをバギーで抜け、ハンターズギルドまでたどり着く。


ふたりがロビーに入るなり、レンは書棚に目をやり何かを探す。視線の先にはモンスター料理本。ギルドから支給されたものとは別のものだ。モンスター料理本はグルメなハンターの拘りのレシピ集としていくつか発行されている。


「そういえばロックウルフのスープってあんまりおいしくなかったわね。スープ石は4日くらい使えたけど」

「街で食うものじゃなかったな。サバイバルで調味料を確保する分にはあれで貴重かも知れないが」

「嗜好品よね」

「サバイバル気分が味わえますみたいな?」

「旅の道具として調味料は必要かもね」


そんなところへホミィが後ろから声を掛けてきた。彼女も今しがた来たばかりのようだ。


「やあ、おふたりさん」

「やあ、ホミィ、今日は君に会いに来たんだ」

「ん?なんの御用で?」

「仕事の斡旋をお願いできないかなと思ってさ、タンクの練習になる奴を」

「練習で仕事は斡旋できないなぁ」

「悪い。だけど俺がモノになれば長い目で見てそっちにもメリットはあるんじゃないか、プライムス・ソルジャー・ファームの営業圏は世界の3分の1にも及ぶみたいだし、協力できると思うぜ」

「うちの活動範囲はせいぜい世界の5分の1くらいだと思うけど、どこで調べたの?」

「お前のとこのパンフレットだけど」


タイガがギルドの書棚を指差す。そこにはプライムス・ソルジャー・ファームの求人パンフレットがある。


「見栄を張ってるだけだよ。うちはモンスターハントのために遠征なんてしないし効率重視」

「やっぱり割に合わないのか」

「うちのタンクは戦争向けだからって理由もあるわね。近隣のモンスター退治くらいはするけど探しにいったりはしない」

「ふーん」

「モンスターハントに興味ある?そういやあなたそれで食べてくつもりだったのよね」

「それでやっていけたらとは思ってる。だけど傭兵は稼げるみたいだしやはり兼業になるのかな」

「傭兵もそんなには稼げないと思うけど……ああ、あなたの場合はタンク乗りだから特別単価が高いのよ。小規模チームに支払われる額としては確かに破格かもね」

「そういうことか、口座を確認してちょっと驚いた」

「でさ、モンスター退治がしたいならひとつ斡旋できるのがあったわ」

「ほんとか、助かる」


ホミィは自分の鞄を開けて1枚の資料を取り出すと、それをタイガに手渡す。レンが覗きこむのでタイガはレンに資料を渡すとレンが概要を読み上げる。


「緊急、グリズリーミュータント、危険度ランクB、農村のサテンにグリズリーミュータントが2体出現。これが殺人蜂の巣を乱獲し大量の殺人蜂が村に発生、深刻な被害が有り、グリズリーミュータント2体および殺人蜂の群れの駆除を求める」

「大事だな」

「緊急性が高いからうちに回って来たって感じね。報告ではグリズリーミュータントの特徴は早い話がでかくて固い熊なんだそうでタンクが大活躍ってわけ。グリズリーミュータントを狩るだけなら殺人蜂の方は防護服でも着てれば無視できるけど、被害のあった村からすれば殺人蜂の方が深刻なのでどちらも速やかな駆除が求められるわ」


ホミィのそんな説明を聞きながらレンは資料を精査する。そしてタイガに確認を取る。


「危険度ランクBというのは?」

「退治に必要な装備の目安だな。ランクDなら人間装備だけで狩れるが、ランクCは支援車両、ランクBともなると戦闘車両が必要とされる」

「危険度、装備……なるほど。支援車両ってのは?」

「直接攻撃力を持たない車両全般のことだな。割とおおざっぱな括りだからバギーとかワゴンとかでもいい。規定上専用装備があれば車は必須じゃないらしいが現実的でもないらしい」

「輸送とプラスアルファってところか」

「ああ、今回はランクBだから推奨火力基準以上の兵器が必要とされる。推奨火力ってのはギルドが定めた既知のモンスターの大半の防御を超えることのできる火力の事で、俺たちの場合はタンクの主砲は対大型モンスターの基準を満たしている」

「そういうことはちゃんと調べるのね」

「まあ、そのくらいは……」


レンのじと目を貰ってタイガが視線をそらす。タイガからすれば詳しいことを責められるのは釈然としないことではあるが。

ついでに説明すると、とホミィが助け船を出す。


「ハンターの側の評価はランクじゃなくてもっと細分化されたスコアが採用されているわ」

「スコア?」

「どんなミッションを受けてるのかだとか適性を測れる仕組みになってる。んで依頼主側がそれを元に足きりしたりしなかったりする。依頼主が個人の場合だとラインが分かんない場合もあるから、ギルドに決めてもらうこともできるみたいね」

「ふーん、タイガが持ってくる資料にスコアなんて載ってなかったからそういうのは足きりなしってことね」

「そう。なんでぶっちゃけていうとレンタルタイガーはこのミッションでは全然スコア不足なんだけど、タンク乗りは貴重だし、受注してるのはうちだからねじ込めるかもってとこね」

「ねじ込めるかもということは、確実に参加できるわけではないのね」

「そこは悪いけど。そこらへんはこの街のうちのオフィスのトレインって人に審査してもらって。案内はするから」

「ホミィは参加しないの?」

「私は戦闘犬トレーナーなんで殺人蜂の群れの中ではちょっとね。あとウェットも別口で参加しないと思うからトレインとよろしくやって」

「わかったわ」

「トレインはうちの主任メカニックでもあるから顔を売って損はないよ」


――この世界はふたつの大きな大陸の間に南側に小さな大陸がひとつという形をしている。みっつの大陸は円環に近い形状をしており、この物流ルートを円環ルートと呼ぶ。ベギンタウンは円環ルートを中心として真北の位置にあり、その港エリアは街の中心部から倉庫エリアを挟む位置に所在した。プライムス・ソルジャー・ファームのベギンタウン・オフィスは倉庫エリアにあり、ガレージをいくつも借りてオフィスの他に修理ドックを設けていた。そのドックの中にタイガとレン、彼らのタンク、そしてファームのメカニック・トレインの姿がある。トレインは白衣に白髪にメガネといった特徴の老人である。


「んんん、このタンクではミッションへの参加はちょっと認められないな」

「えっと……できれば理由を教えてもらえますか」

「このタンクはお兄さんのハンドメイドだそうだね。ちゃんとキメラ・タンクにもなってるし良く出来ては居るんだが……」

「キメラ・タンク?」

「キメラ・タンクは古い呼び方だったかな?パーツの換装が容易なユニバーサル仕様の多目的タンクのことだね。大昔は特定の国や企業のファミリー製品しか互換性が無いものが多かったが、今はどこでパーツを買っても換装できる」

「キメラ・タンクという言葉は初めて聞きました」

「今はどれもそうなってるから言葉が廃れたのかもね」

「はぁ」

「でだ、このタンク装甲は標準のものよりずっと薄いし、電気系統もかなり貧弱だから、このミッションへの実戦投入には難色を示さずにおけない」

「そんなに酷いものですか」

「潜望鏡を実戦で操作するってのもちょっとないな。知ってる?熊って普通の熊でも50キロくらいは出るんだよ。視認性が悪いし装甲も貧弱というのでは何かの拍子でグリズリーミュータントを見失えば一撃でお陀仏だよ。あんたはこれで野盗討伐ミッションに参加したそうだが、ウェットの奴はなんで参加を許可してしまったのか、まあ無事でよかった」

「それでも、なにか後方支援でもいいので経験を積ませて頂くわけにはいけませんか」

「んんん、仮に今回が無事でも下手にスコアを提供したことで死なせてしまってもねえ。この先もスコアが不釣合いな状態を作ってしまうわけで」

「そうですか」


タイガが肩を落とす。その様子を見てレンがフォローに入る。


「トレイン博士、よろしいですか」

「んんん、どうぞ」

「うちのタンクはシャシーやエンジンはそれなりに良いものを使っていますし、軽装ですので重量にかなり余裕があります。追加兵装の取り付け口もいくつかありますので、これらの特徴を活かして何かお役に立てませんか」

「うちから装備を提供しろって?んんん……うん、とりあえずこれをわしに預けなさい。一晩考えて何か改修できそうなら参加させてやっていい」

「ありがとうございます。私も正規のメカニックですのでお手伝いできます」

「そうしてもらおうか」


――修理工場のドックにはタイガとレン、ファームのメカニックたちが夜通しタンクに改修を施す姿があった。レンにはファームのメカニックと対等に仕事が出来るだけの能力があった。タイガには余りできることがなかったため、代わりに途中で洗濯物を取り込みに戻るとか、買出しにいくとか、陣中見舞いにやってきたホミィからいくらか情報を集めるなどをした。


ジャービスがベギンタウン周辺の治安維持責任者であること、5等仕官が平常時における現場の最高責任者であること、プライムスが南西に向けて街を3つ行った場所にあること、またその座標などの情報がホミィによってもたらされた。

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