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終末タンク  作者: 壱名
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野盗討伐

その日、タイガとレンは雑木林の中に居た。林を抜けるための道は幅3メートルほどのタンクも通れたが、さすがに獣道は通れそうもなかった。タンクの周りには赤髪の女と数頭の黒い犬が居る。その犬は戦闘犬であり、その大変スマートな体にはカメラやピストルがベルトで括られていた。タンクの上面ハッチが開くとレンの顔が覗く。


「ふぅ、ありがとうホミィ、上面ハッチの固定具はぴったりだったわ」

「それはよかった、まあ今回は頭を出しちゃいけないよ」

「ええ、でも良かったの?こんなの貰ってしまって」

「うちのタンクは全部電子制御なんで手動で機銃掃射なんてしないからね。宝の持ち腐れになるんで使ってやって」

「ありがとう、大事に使わせてもらうわ」

「それを大事に使うってのは酷使するってことだけどね」


そんな会話の中でもホミィの視線は先行する部隊の方にある。先行する別のタンクの周りを大型のシールドにアサルトライフルを持った男たちが囲む。傭兵のひとりが腕を振る。ホミィはレンの方を向き首を縦に振る。


「タイガ、作戦開始だって」

「分かった」


レンは車内に戻ると上面ハッチを閉め、砲撃手席に座る。このタンクの主砲は構造上、360度旋回はできないが、代わりに機銃の方はこれが可能となっている。この時代の廉価なタンクであればこれは珍しい仕様ではない。操縦士ひとりでもモンスターを掃討できるように工夫された結果である。また主砲は砲撃手席以外に操縦席からも操作が可能であり、このタンクは1人から4人までの間で役割を分担することが出来る。他に装填手席と副操縦席があるが、砲弾は3発まで連続で撃つことが可能で、砲撃手席からでも非効率ではあるが装填可能であることから、今回はこの配置となる。


「野盗にタンクはないだろうとは言ったけど、一応居たらあなた達にも頑張って貰うからそのつもりでね」

「ああ、覚悟はしてる」


ホミィとタイガの無線会話である。一団は歩行の速度で進軍している。


「野盗は洞窟を根城にしてるみたいだけどほとんど外に出てるみたいね。うちの子らが林の中を警戒してる」

「林の中だと俺は機銃しか撃てないがいいのか?」

「もちろんそれでいいけど木の間を通せるなら大砲を撃ちこんでもらってもいいわよ」

「そんな腕は無い」

「あらそう、ならうちのファームに来たら訓練してあげるわ」

「金がない」

「お金は取らないわ」

「気前がいいな」

「ウェット兄は傭兵稼業っていってたけどうちのメインは育成だからね。ひとり混じっても誰も気にしないわ。ほらうちってマーシナリー・ファームじゃなくてソルジャー・ファームでしょ」

「どういうこと?」

「表向きは研修施設ってことよ。あなた達が考えてるよりずっとお堅い組織よ、表向きはね」

「なるほど」

「おしゃべりはここまで、うちの子が反応してる。もうすぐ戦闘開始よ」

「了解」


バララララッ、機銃の掃射音が聞こえる。野盗の根城とされる洞窟は見えない。となれば敵は林の中。


ドガンッ、先行するタンクの主砲が火を噴いた。このタンクは砲塔を360度旋回可能な軍隊式のタンクである。その砲弾は見事目標地点らしき地面を抉り、タイガが確認した時にはトーチカらしき残骸が散らばっていた。


「洞窟から地下通路を作って塹壕っぽいものも作ってるみたいね。私はここまでだからあなたは先行部隊の後ろについて援護してあげて」

「了解」


ホミィは5体の戦闘犬に合図を送る。

「ほら、行って」


戦闘犬が林に離れると野盗と思われる武装集団があちこちから顔を出す。バララララッと銃撃戦の音が鳴り響く。2台のタンクは小走りの速度で併走し、傭兵部隊の邪魔にならないよう機銃を撃ち込む。先行するタンクは左、タイガたちは右である。結果的にタンクの機銃は壁のように敵を追い込み、野盗は傭兵と戦闘犬による十字砲火の餌食となっていった。


「ダニエルだ、これより断続的に歩行速度で移動を開始する。機銃掃射はそのまま継続してくれ」

「了解、砲撃見事でした」

「あれは相手が間抜けなんだ、トーチカの射線を確保してやがったからな」

「なるほど」

「ちなみに撃ったのはライアンな」


ダニエルは先行するタンクの操縦士である。作戦前、タイガは彼らのうちの他の搭乗員のことは良く知らないが彼には挨拶をされた。


「タイガ、1時の方向にトーチカ、射線通ってるけど?」

「どうぞ」


ドガンッ、レンの放った砲弾がトーチカを破壊する。トーチカの内側は地下通路に繋がっているのか、戦闘犬や傭兵が突入していく。戦闘犬はこの一団に十数頭は割り当てられていた。


「ダニエルだ、今のはかなりいいぞ。邪魔な対物ライフルの破壊も確認できた。出回ってる数は少ないがあれは当たり所が悪ければドカンだからな」

「どうも」


しばらくの間そのような戦闘が継続され、やがて静寂が訪れる。一団は洞窟があるであろう岩壁に差し掛かった。林道は岩壁でT字に分かれていた。傭兵部隊が洞穴を発見するとその洞穴に催涙弾らしきものが投げ込まれる。だが誰一人出てこない――


ボンッ、T字路左方から爆発音が聞こえる。黒い煙が立ち上るが、しばらくすると左方林道からタンクが2台、また煙の上がっていない側からも別のタンクが2台やってきた。


「ダニエルだ、第1作戦目標を達成とする。うちの突撃部隊が洞窟の中に入るがお前たちは何もしなくていい。ただし車内からは出るなよ」

「了解」


――林の中ではまだ戦闘が繰り広げられていたが、戦闘犬の索敵能力の前に野盗はなす術もなかった。そして洞窟の中からは一人の男が連れ出される。両手を後ろ手に縛られたその男は酷く咳き込んでいる。どうやら最初からこの状態であったようだ。


「ダニエルだ、第2作戦目標を達成とする。続いて第3作戦目標、拠点の破壊に移行する」

「了解、と言っても俺たちは待機ですか」

「そういやお前たちはタンクの大砲をあまり撃ってないんだったな」

「ええ、それが何か」

「洞窟を破壊するのに岩盤を砲撃するが、それをお前たちに任せてもいい」

「えっと……ありがとうございます」


意外な申し出に驚くタイガだが、砲撃の練習機会が得られることは実際ありがたいことでもあった。


「タイガが撃ってもいいわよ」

「それじゃあ遠慮なく」


ファームの砲撃手ライアンから目標地点の指示が飛ぶ。タイガは主砲のコントロールを操縦席に移すと洞穴内上方の岩盤を狙って何度か砲撃を繰り返した。やがて洞窟の崩落が始まる。ライアンの指示が適切なのか、林道への土砂崩れはほとんど発生しなかった。


「ダニエルだ、よくやった、いい感じに壊れてくれたな。だが雨が降ると分からんから後日確認するとしよう」

「それに俺たちが同行する必要はありますか」

「いやいい」


ダニエルはそういうなり無線でどこかに連絡をする。しばらくすると崩壊した洞窟に別の一団がやってくる。


「ダニエルだ、全作戦を完了とする。お前たちも外に出ていいぞ」


レンに続いてタイガがハッチの外に出る。外ではホミィとウェットの姿もあった。ダニエルたちも集まってくる。


「ふたりともお疲れ様」

「どうも」

「お疲れ様」


ホミィがタイガに水筒を手渡してくれる。タイガは先にレンにそれを手渡した。


「仲がいいのね」

「家族みたいなもんだからな」

「恋人ではなくて?」

「いつか意識はするだろうけど、今は何で稼ぐかみたいな話に夢中だからな」

「なんだ、からかい甲斐のない」


レンが水筒から口を離すとそれをタイガに渡す。レンにとっては楽しい話題のようで表情に笑みが見える。


「ホミィは私たちの旅の計画は知ってるんだっけ?」

「世界一周でしょ、聞いた聞いた」

「それが終わるまではそういう話は考えないでまずは夢を頑張りましょうってね」

「どのくらいで回る予定なの?」

「1年から長くても3年くらいかなぁとは考えてるのだけど」

「大雑把ね」

「得られるものがなければさっさと帰るつもりでもあるけどね」

「いいなぁ、私もついてきたい」

「別にいいけど旅費までは工面できないし危ない橋を渡る可能性もあるわよ」

「言ってみただけ、いや行きたいのはホントだけど」


それが彼でさぁ、とウェットの声が聞こえる。ウェットが誰かを連れてきたようだ。タイガがそちらに目をやると若くも凛々しい軍人の姿があった。男は黒髪の混ざったブロンドの髪をポニーテールで括っている。髪は長くなくオールバックに括るためといった様相である。


「話をさせてもらっていいかな、私は治安維持部隊のジャービスだ。5等仕官と言って分かるかな」

「いえ俺には。俺はハンターチーム・レンタルタイガーのタイガです、何か?」

「ウェットから話を聞いてね、どのような人物が窺わせて貰おうかと」

「えっと……」


治安維持部隊とは事実上の世界政府である互助同盟の軍隊のことである。タイガからすればコネを作りたい相手ではあるが、直接軍人とコネを作ることは想定していなかったため、困惑を隠せなかった。タイガとしては治安の良い滞在先を紹介して貰う程度の考えであった。


「俺たちは互助同盟の物流円環ルートを巡って世界を学ぶためにハンターを始めた者たちです。今回はその路銀の確保のためにウェットに誘って頂きました」

「丁寧な紹介をありがとう、何か緊張をさせてしまったかな。話はウェットから聞いているのでそれで問題はないよ」

「はい」

「君たちは互助同盟に支援を求めているということだが資金援助でもすればいいのかな」

「いやそこまで大げさな話では」

「違ったかな?」

「はい、ウェットからは旅の間に身の安全を確保できる後ろ盾を作れとアドバイスを貰ったので、互助同盟の方とご相談させて頂けたらと考えていました」

「なんだ、そんなことか……いや、そちらの方が面倒なのかな、根回しとか」

「はぁ」


そうは言うがジャービスの顔は穏やかである。


「私としては君たちに協力してあげたいとは思う。愉快を提供してくれそうな者には誰だってね」

「ありがとうございます」


愉快という言葉には引っかかるが、何かを揶揄する意味ではなさそうである。


「私から言えるのは私たち互助同盟が君たちに協力するためには、君たちが何を成し遂げられるかの提案が必要だということだ。君たちの本当の目標とは別にね」

「はい」

「魅力的な提案であれば我々は協力を惜しまないよ」

「魅力的な提案ですか」

「ひとつヒントを差し上げるなら、某かの知見を持って世界を巡ってくれるような人材は貴重かも知れないということだ」

「例えばそれはレポートの提出ですか」

「こちらがお金を払ってでも手に入れたい情報を君たちが提供できるのなら、こちらが支援しない理由はどこにもないよね」

「そうなると思います」

「もうひとつヒントを差し上げるなら、いや私の個人的な意見としては、それを君たちの旅の目的の中から見出してほしい。知見と言われて賢しらに振る舞うよりは、その方が君たちにとっても有益なものをもたらすと、私は思う」

「はい」

「君たちの提案は私宛に送ってくれ、期限は私が君たちに興味を覚えている間までだ」

「はい、ありがとうございます」

「うん、私からの用は以上だ」


ジャービスはウェットの傭兵団の中に去っていく。ずいぶんと機嫌が良いようだ。タイガの元にレンが寄ってくる。


「いい人そうね」

「ああ」

「なんかとんとん拍子で怖いくらい」

「だったんだけど、ちょっと困ったな」

「ん?」

「旅の目的の中からって……言ってしまっていいのかな」

「うーん……」


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