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終末タンク  作者: 壱名
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ギルドとマンハンター

タイガはベギンタウン・ハンターズギルド脇のモンスター素材買取所に解体した獲物を売り払っていた。


「ぶははっ、ロックウルフ3体のために荒野を駆けずり回っただと?どこの素人だよ」

「ここの素人だよ、ヌーブ(初心者)で悪かったな」


タイガはモンスター素材買取所の男にからかわれていた。早朝だというのにやたらとテンションの高い親父である。


「ぶふふっ、ここの素人って、兄ちゃん面白いことをいうな」

「そりゃどうも」

「よし、買い取れるのはロックウルフの肉3つにロックウルフのスープ石2袋だな。せっかく持ってきてもらって悪いがスープ石1袋分は粗悪なのでうちでは無理だ」

「規格落ちってやつですか、自分のところで消費しますよ」

「そうしてくれ、ギルド内に料理本が売ってるから買っていくといい。いや、今ならチーム登録をすればもらえたかな、解体本と一緒に」

「へぇ、解体本の方は買ってしまったな」

「そら残念、だがやる気があるってのはいいことだ、大事にしな」

「どうも」


タイガは買取所の親父から買取証明書を受け取る。これをギルドのカウンターに持ち込めば口座に金が振り込まれる仕組みだ。タイガは買取所を後にしてギルドの中に足を踏み入れる。入り口を入ってすぐの発券機から整理券を取る。すぐにある受付の三角柱状の番号表示がタイガの整理券番号が一致したため、タイガはその受付に向かう。


「ハンターチームの登録はここでいい?」

「はい、ここで受け付けていますが先にあちらで申請用紙をご記入ください。申請用紙と一緒にランクD指定以上のモンスターの討伐証明となるものと一緒にご提出くだされば申請が可能です」

「ありがとう」


タイガの住むベギンタウンは終末の時代であっても高い識字率を誇っていた。これはどのような時代にあっても文明人としての誇りを失わないとするベギンタウンを含む広域互助同盟の政策のおかげである。ハンターズギルドの運営も互助同盟とその街の議会組織が共同で行うのが一般的なルールである。


「ハンターチームの申請をお願いします」

「ハンターチーム・レンタルタイガーですね、承りました。審査のためにしばらくお時間を頂きますので整理券を失わずにお待ちください」

「ありがとう」


タイガが受付を離れると先ほどの受付嬢の笑い声が漏れた。名前考えたの俺じゃないんだけどなぁ、などと言い訳しながらギルドに備え付けの書棚からモンスター料理本を手に取る。規格落ちしたロックウルフのスープ石をさっそく消費しようという算段だ。


「ちょっといいかい?」


声を掛けてきたのはタイガと同じくらいの年齢に見える若い女である。くすんだ赤色の髪がずいぶんとまっすぐ綺麗に肩まで伸びていた。


「何か?」

「悪い、ナンパとかじゃないんだがうちの兄貴があんたを呼んで来いってせっつくんでね」


タイガは女が指差す先を一瞥する。ガタイのいい男が何故だか手招きしている。この男もくすんだ赤色の髪を持つ。彼が兄貴で間違いはないようだ。


「まあスカウトみたいなもんなんだが、一度話を聞いてやってくれないか」

「……わかった」


少し考えたがタイガからすれば先輩に質問攻めできる良い機会かも知れなかった。女に案内され、ガタイのいい男の正面の長椅子に腰を掛ける。


「やあやあよく来てくれた、タンク乗りの兄ちゃん」

「名前を伺っても?」

「ああ、俺の名はウェット、プライムス・ソルジャー・ファームの一員だ。お前を呼びに行った女は俺の妹でホミィという」

「どうも、俺はハンターチーム・レ、レンタルタイガーのタイガです。お話というのは?」

「あんたタンク乗りなんだろ、うちで働かないか」

「誘ってくれるのは光栄ですが、俺たちは近い将来この街を発ちますので」

「そうかい、何かでかい目標でも?」

「とりあえず互助同盟の物流円環ルートを巡ろうかと」

「とりあえずで世界一周かい、つまりハンターをやるのは路銀を稼ぐ手段ってわけか」

「ええ、そんなところです」

「まあ俺たちもホームはここじゃないんだけどな。プライムスって街に寄ることがあればうちのファームに顔を出すといい、そこそこ稼げる」

「そこではどのような仕事を?」

「うちは傭兵稼業だ、戦闘犬の飼育とかもやってる。まさにファームだな」

「対人戦闘はちょっと……」

「ハンターやってくなら仕事を選ばず組織の中で割のいい仕事を得るべきだ。そうでもなけりゃ情報もないままアホみたいに駆けずり回るだけだぞ」


ウェットはニカッっとした笑いをタイガに押し付ける。ロックウルフ3匹のために荒野を駆けずり回ったことを言っているらしい。組織的に情報を集めずにハンターをやることは馬鹿のやること、ウェットはつまりはそういうアドバイスをくれたのだろうとタイガは解釈した。


「そこら辺は相方と相談してみます」

「てかそんな奴が何でまたタンクなんか持ってるんだ」

「俺のタンクは兄貴がメカニックで個人で作っていたものです」

「ほう、そいつはすげーな。そいつの名は?」

「レオ」

「知らねーな、工場の名は?」

「ボルツ・リペアズ・アンド・クリエイションズです」

「聞いたことはあるな」

「街はずれの工場です、今は開店休業みたいなもんですが」


話を聞いていたホミィという女の表情が崩れる。


「ボルツ・リペアズ・アンド・クリエイションズっていえば1年前に野盗に襲撃されたっていう…」

「ああ」


説明しろよ、とウェットがホミィをつつく。


「説明も何も1年前にこいつらの工場がどこかの野盗に襲撃されて潰れたって話さ、生存者は居たんだな」

「殺害された従業員は2名、他の多くは行方不明、助かった奴も工場主の娘以外はもう他の工場で働いてる」

「それで自棄になって世界一周ってか」

「自棄とはなんだよ。物流ルートを巡って商いの口を探すことも目的の一つだ」

「悪い、そういうことね」


ちょっといいか、とウェットが口をはさむ。


「話を聞くにお前らのこの先はどうにも危なっかしいな」

「危なっかしい?」

「お前のハンターチームってつまりはお前とその工場の連中から数人ってところか」

「今のところ俺と工場主の娘のふたりです」

「うーん、そうやってタンク持ちがたったふたりのチームで活動してますって口にしてしまうのももうダメだろ」

「……まぁ」

「そうだな、お前らは旅路の前にちゃんとした後ろ盾を得ることだ、可能な限り信用できる組織のな」

「はぁ」

「逃げ込み先っていうのかな、寄らば大樹の陰ってことわざもあるんだが、規模のある組織ならお前らみたいのも助ける余力がある」

「……だからファームとのコネを作れと?」

「そいつはゲスの勘繰りってやつじゃねーか、いやまぁ結論としてはそうなるんだが」


今のは営業ではないと思うけど、とホミィがタイガにフォローする。


「あんたが自覚してるのかは知らないけど、タンクを個人で所有するなんて普通では考えられないことなんだ」

「タンクは工場所有で登録されている、兄貴しか弄って無かったけど」

「それなら工場に修理に出すとかなら安全かもな、だがふたりで行動してたらこいつらは獲物ですって言ってるようなもんだ。重要なのはこいつらを襲うと後が大変だぞってのをちらつかせることさ」

「なるほど」


この終末世界を巡るなら後ろ盾のひとつも必要であろう。ではどこにそれを求めればよいのか。この世界で最も物流ルートを開拓しているのは実質上の世界政府ともいえる互助同盟である。


「俺たちの場合で言うと互助同盟とコネを作るのが一番ってことになるが……」

「よし、いい方法がある」


ウェットがそう切り出す。タイガはウェットから営業の臭いをかぎ取るが出されたものは悪い提案ではなかった。


「お前、チームの申請に許可が降りたらギルド主催の野盗討伐依頼に参加しろ」

「野盗討伐?」

「俺たちが受注した依頼なんだがタンク乗りの参加も求められててな。まあ対人戦闘は避けられんが互助同盟とのコネは一発で作れるぞ。モンスター退治専業なんかよりも治安維持に協力する奴らのが互助同盟からしてみれば価値のある人材だからな」

「うーん……とりあえず相方と相談したいのでその件について貰えるだけの資料を頂けますか」

「ああ、いいぜ」


丁度その時、タイガの整理券番号が呼ばれた。タイガは席を立ちプライムス・ソルジャー・ファームのふたりと別れる。


「じゃあ、これで」

「このギルドには普段こいつが入り浸ってるから、いい返事はこいつに持ってきてくれ」

「よろしくー」


タイガはギルドの受付でハンターチーム証を受け取り、そのまま正規ハンター用の依頼閲覧室へ移動した。ギルドからの依頼は単なるモンスター討伐程度であれば誰でも受けられる。そのモンスターの死骸を提出すればミッションの達成を確認できるからだ。だが中には依頼主にミッションの達成を確認して貰うようなものもある。そういう依頼はチーム登録が認められた正規のハンターにのみ斡旋される。またミッション達成のためにギルドや依頼主から資材の提供を受けるようなミッションも正規ハンターでなければ受けられない。


「こんなものかな」


タイガは依頼内容がプリントされたわら半紙の資料を手のひらの厚さほど積み上げていた。タイガが閲覧室から出てロビーを横切る途中、ホミィに声を掛けられた。先ほどの野盗討伐依頼の資料をニコニコと手渡してくる。それを受け取るとギルドを後にする。傭兵稼業にもっと寡黙な姿をイメージしていたタイガには彼らが新鮮に映った。


――ボルツ・リペアズ・アンド・クリエイションズの看板がそこにある。大きくボルツと書かれた文字とその横にリペアズとクリエイションズの文字が小さく二行あるものがこの工場のロゴである。その工場の敷地内にはいくつかの大型の朽ちた車両が等間隔に並べられていた。近くにはクレーン車や回収された電子回路、そしてタンクとレンの姿があった。レンは今はタンクの整備をしている。


「レン、サンドイッチを買ってきた。昼にしないか」


レンがタンクの下から顔を出すと、そこには大きなカバンを肩にかけ、小さなバスケットを持ったタイガが立っていた。


「お疲れタイガ、ハンターチームの登録はできた?」

「無事に。いくつか目ぼしい資料を持ってきたんで目を通して欲しい」

「うん」

「あとプライムス・ソルジャー・ファームってとこに話を持ち掛けられたんだけど、ここ知ってる?」

「残念ながら」

「そっか、そこからミッションへの参加を誘われたんでそれも相談に乗って欲しい」

「わかった、私からもあるのだけどいい?」

「もちろん」

「ミルメコレオって知ってる?」

「残念ながら」

「そう、タンクのシャシーの一部にミルメコレオって書かれた小さなプレートを見つけてね」

「何だろ、タンクの名前は完成した時に所有者が付けるものだし、開発コードとか部品メーカー?」

「分からないから聞いたのだけど、まあいいわ、食事にしましょう」


レンは回収した回路を宿舎に持ち込んだ。ガレージ扉には大穴が開いており扉としての役目を果たさないためである。

――タイガは8人掛けの卓にギルドで貰ってきた資料を並べる。レンは傭兵ファームの資料に目を通していた。


「内容としては支援砲撃が主だから、参加したいなら反対しないわ」

「対人戦闘だぜ、抵抗はないのか?」

「無いことはないけどうちは戦闘車両の整備もしてきたしね、今更というか」

「なんとも逞しいね」

「私としてはそのウェットって人に顔を売ってうちを贔屓にしてもらえたらなって感じかな」

「なるほど」

「あっここいいね。持ち込んだ砲弾を使用する場合、状況が適切であると認められればギルドからその費用が補填されるってとこ」

「ありがたいことだけどそこまで重要か?」

「いや差益がですね」

「……逞しいことで」

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