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終末タンク  作者: 壱名
16/37

スプラッシャー・タートル戦

フランジタウンとプライムスの街の間にある海岸ルートにはスプラッシャー・タートルと呼ばれる大型の亀のモンスターが生息していた。今ここにはスプラッシャーを狩ろうとして返り討ちにあったと思われるタンクが一台ある。そのタンクは履帯を破壊され、装甲を水の刃に切り裂かれ、さらにその傷口をスプラッシャーの強靭なくちばしと顎によって引き裂かれつつあった。


「セイル、スプラッシャーが外敵を識別する方法は何になる?」

「視覚、嗅覚、あとは骨伝道で地面の振動の感知しているはず」

「骨伝道?」

「エンジンの振動など地面に伝わる音を骨を通じて感じ取ることが出来るらしい。この骨伝道による感知を得意とする野生生物には爬虫類や象などがいる」

「それをお前の能力で偽装することは?」

「間に空気の層が無い以上、僕の能力で偽装する方法は思いつかない」

「分かった。では当初の予定通りスプラッシャーの後方から注意を引きつけることにする」


タイガはスプラッシャーの後方の十分に離れた距離にタンクを回し、スプラッシャーの後方やや右側に主砲を一撃する。ガッ、砲弾はスプラッシャーの甲羅に向けて放たれるがその天然の傾斜装甲に威力は大きく減衰された。この砲撃の目的は注意をタイガのタンクに引きつけることではあったが、スプラッシャーは依然破壊されたタンクの装甲からそのくちばしを離す様子はないことが遠方バギー助手席のレンより報告される。


「全く意に介していないな」

「僕らのタンクを補足していないってことはないと思うけどね」

「こんなものは羽虫の羽ばたきってところか」

「近づく?」

「ああ、火炎放射器を使うには50メートルほどには近づく必要がある。とはいえウォーター・カッターの射程は5メートルほどで、ウォーター・カノンの射程は100メートルほどあっても正面を向かなきゃ撃てないんだよな?」

「データ上ではね」

「過信は禁物だがスペックを信用しなきゃ何も決定できない。行くぞ」

「うん」


タイガのタンクはスプラッシャーの後方から50メートルほどの火炎放射器の届く位置に近づく。ボゴオオオッ、火柱の先端がスプラッシャーを掠めるとスプラッシャーの甲羅から水しぶきが巻き起こる。


「あれがウォーター・カッターか?」

「仕組みは同じだけどウォーター・カッターは管をひとつだけ使って攻撃に使うんだ。今のあれは複数の管から水を撒き散らしてるから圧力は分散してしまってるはず」

「炎に反応して冷却をしたってところか」

「スプラッシャーが体を起こすよ」

「よし、釣れたか」


火炎放射には砲塔がなく固定されているため一撃離脱をするには円を描くように逃げるしかない。なので攻撃はスプラッシャーが左右のどちらから振り向くのかを限定するために真後ろではなく角度を付けて攻撃する必要があった。スプラッシャーは自身の体を回頭させタイガのタンクを捕えた時にはタンクは既にスプラッシャーから大きく離れていた。


それでもスプラッシャーはタイガのタンクを目がけ喉元に水を集めて放水を行う。水は空気中で広く分散し、さながらショットガンのようにタイガのタンクを襲った。バザザザッ、タンクは大量の水を勢いよく被るがこれによる被害は特にない。


「この距離なら大丈夫だな」

「それでも人が浴びたら大怪我をしそうだ」

「スプラッシャーをもっとこっちに引き寄せるぞ」


タイガのタンクはバック走の状態に反転するとスプラッシャーの首元を目がけて主砲を放つ。スプラッシャーは首を引っ込めてその直撃から免れようとするが、その砲弾は特殊弾頭でありスプラッシャーのすぐ手前で炎をまき散らした。スプラッシャーは再び水しぶきで膜を張る。何度も水を撒き散らすが特殊弾頭の炎は一向に消えない。スプラッシャーは顔を出してその場から移動を始めた。


「レンの試作品を使ってみたが嫌がらせにはなったか」

「これでかなり水を消費させられたと思う」

「水が無くなれば海に帰るしか無くなる。一発あたりの水の消費量はウォーター・カノンが一番多いようだからそれを使わせたいところだが」

「それにはもっと挑発しないとね」

「そういうことだな」


タイガは移動するスプラッシャーの足もとを狙い撃つ。ドガンッ、その砲撃はスプラッシャーの左前脚を的確に捉えるが、スプラッシャーの体躯は少し揺れる程度でダメージらしきものは確認できない。


「くそっ、ストレスを感じてこっちに向かって来ればいいんだが」

「首を出してる時は首を狙った方がいいんじゃないかな」

「首を狙うと足を止めるだろ。せっかく移動を始めてくれたのだから止めてはいけない」

「ならこのまま放っておく?」

「注意をこちらに引きつけておかなければレン達があの壊れたタンクに近づけない」

「炎には気を取られるなら火炎放射器がいいのかな?」

「火炎放射器の射程はウォーター・カノンの有効射程の半分くらいだな。火炎砲弾もさっきの一発でお終いだから難しい状況だ」


タイガはスプラッシャーの進行方向にタンクを回して蛇行してみるがスプラッシャーは進路を変えるだけで攻撃はしてこない。


「何故攻撃してこないのだと思う?」

「射程を気にしてるのか、水の残量を気にしてるのか……」

「あるいは近づくのを待ってるのか」

「試そうとすればあのタンクの二の舞だよ」

「……そうだな」


タイガの頭の中にはスプラッシャーの後ろに回り込み続けて火炎放射器であぶり続けるというヴィジョンがあったが、それをセイルに釘を刺された形である。タイガが単独であったら試したかもしれない。タイガがそんなことを考えて居るとスプラッシャーは突如その場に足を止めてしまう。


「ここに留まる気か」

「あの壊れたタンクとの距離はまだ100メートルほどしか離れてないよ」

「これではバギーが近づいたらウォーター・カノンの餌食だな」

「スプラッシャーは分かってやってるのだろうか」

「分からない。しかし今のうちに俺らが彼らの安否を確認すればレンやホミィに接近させる必要はなくなるな」


タイガは壊れたタンクへと近づき後方車載カメラで壊れたタンクの中を確認する。スプラッシャーの付けた傷跡から丁度車内を覗くことができた。乗員は運転席にひとりの生存を確認できた。他の乗員は見当たらない。


「無事のようだ。しかし今までずっと共用トランシーバ回線から安否の確認をしてるんだが全く反応してくれないんだよな」

「無線を積んでいないとか?」

「それはありえない。互助同盟の拠点に立ち入るなら無線は必須装備だ」


そう話していると突如壊れたタンクと無線がつながった。


「救助に来てくれたのか?ありがとう」

「さっきからずっと無線を入れてたんだが気づかなかったんですか?」

「いやぁまさか救助に来てくれる人が居るとは思って無かったので気づかなかったよ」

「……ともかく無事で何より」

「このタンクを街まで運んでもらえるかい?」

「スプラッシャーがまだ近くに居るし、足回りが壊れたこれを運ぶのはこちらも危険に晒されるので牽引は無理です。運べるのはあなただけになります」

「そうか、とにかく急いで出るよ」

「危険ですから大人しくしててください。スプラッシャーが安全な距離にまで離れたらこちらから指示を出します」

「さっと動けば気づかれないよ」

「ちょっと、おい!」


タイガの制止も聞かずに壊れたタンクのフリー・ハンターの男は上面ハッチから姿を現す。その男はハッチの梯子から降り、タイガのタンクの方へと近づいて来た。さっと安否を確認するだけのつもりが壊れたタンクの男の予想外の行動で、隙を晒してしまって居ることにタイガは焦りを感じる。


「くそっ、こんなことになるとは……」

「タイガ!スプラッシャーがこっちを向いてる!」

「何!?」


タイガがスプラッシャーを確認した時にはそれはウォーター・カノンを放った直後であった。ズドドドッ、タイガのタンクはウォーター・カノンの水の弾幕を受ける。だが車体がスプラッシャーに対して正面を向いていたことと、タイガのタンクが壊れたタンクと違い6輪車両でタンクの装甲に収まっていたことが幸いし、ウォーター・カノンの直撃を受けても足回りの破壊は免れた。しかし前面装甲にはいくつかのへこみが生じている。


「セイル、壊れたタンクの乗員は?」

「後方に大きく弾き飛ばされたみたい」

「急いで離脱する」


タイガはタンクを後方に急発進させてスプラッシャーと距離を取る。途中で壊れたタンクの男が水浸しで倒れる姿を確認するが生死の判断はできない。


「タイガ、さっきの男があそこに投げ出されている」

「生死は不明だが絶望的な状況だな」

「ならこのまま置いていく?」

「……スプラッシャーは人を食うのか?」

「ベースとなった海亀は肉食性だし食べるんじゃないかな」

「分かった、最後までちゃんと面倒を見よう」


タイガは焦らずに某かの方法でスプラッシャーを追い払うまでは壊れたタンクに近づくべきではなかった。レンやホミィの負担を減らそうと色気を出したことが失敗であった。100メートル先で背を向けていたスプラッシャーにタイガは見事に釣られてしまったのだ。タイガはスプラッシャーの頭に主砲を撃ち込むがスプラッシャーは首を引っ込めて姿勢を低くすることでこれを防御する。その隙にタイガのタンクはスプラッシャーの側面に大きく回り込む。


「このタンクは正面を向いていれば先ほどの距離ならウォーター・カノンに破壊されるリスクは少ない。水は空気中で簡単に分散するから正面で受ければ当たり所が悪ければといった事態は無いだろう。だが攻撃されないように大きく側面に回り込んだ方が当然安全だ」

「さっきのスプラッシャーの反転の様子は見てた?」

「いや、俺が目を離した瞬間に反転された気がするが、セイルは確認してたのか?」

「甲羅の腹で勢いよく滑るように反転したんだ」

「そんなこともできるのか。しかしなるほど、だったらさっきのは完全に釣りだったんだな。後ろからなら安全だと俺が考えていることを読んでいたんだ」

「こんな行動はデータベースには無かったのに」

「動き自体は理に適ってる。野生に帰ったあいつらが独力で開発したのかもな」


状況を理解したタイガはスプラッシャーの振り向く速度を回避のマージンに組み込み込んだりしないように、今までより大げさに距離を取って回り込むことにした。しかしスプラッシャーはある程度タイガのタンクに回り込まれると腹滑りの反転を見せて後ろを取らせない。


「もう隠す必要はないってことか、それともやっと戦闘モードってことか」

「タイガ、あの壊れたタンクと同じようにこちらもダメージを受けていると演じることは出来る?」

「どういうことだ?」

「スプラッシャーはあと2発もウォーター・カノンを撃てば水を使い切る筈なんだ」

「そういえばずんぐりとした体形もずいぶんと平たくなった印象だな」


タイガはタンクの速度に緩急を付けてスプラッシャーの前をわざと横切ってみた。しかし十分な距離を開けた状態ではスプラッシャーはウォーター・カノンを撃ってこない。そこで今度は速度の緩急は付けたままスプラッシャーに正面から近づいてみる。タンクが耐えられると考えられる距離以上には踏み込まないように前後に移動しながらスプラッシャーを刺激する。ズドドドドッ、スプラッシャーは痺れを切らしてウォーター・カノンを撃ち込んできた。


「よし、撃ってきたぞ。あと1発だな?」

「一般的な海亀のフォルムと比較すればだけどね」

「次はもっと弱った振りをして刺激してみよう」


タイガのタンクは緩急の上限速度を明らかに落としながらスプラッシャーの傍をうろついてみる。するとスプラッシャーはウォーター・カノンを撃つのではなくタイガのタンクの方へと走りだした。タンクは慌てて急加速して離脱する。その様子にスプラッシャーは警戒を始める。


「今の行動は捕食をしようとしたのか?」

「よくは分からないけど水を温存したんじゃないのかな。スプラッシャーは水が無くなれば海へと帰る筈だから」

「温存か……あの男を捕食することがまだ頭にあるのかもしれないな」


タイガは何か無いかと辺りを見渡す。すると少し離れた位置に大きな枯れ木の残骸を見つける。それは流木が津波の時に撃ちあげられたものであり、今ではすっかりと天日干しされていた。またその近くには廃棄された漁網がある。


(どこかが破れているのかも知れないが……まあ使えそうだな)


タイガはタンクのウイング・ブレードを展開する。ブレードは直角三角形の一角を底辺部に平行に切り取ったような台形状の鉄板であり、刃先は獲物を叩き切れる程度には削られていた。これをバック走状態にすることで漁網を引っ掛け、その漁網にさらに乾いた流木を引っ掛ける。


「よし、うまく行った」

「何に使うの?」

「これから考える」


そういうとタイガはその漁網の巻きついた流木をスプラッシャーまで100メートルの位置まで引きずっていく。


「いい方法は思いつかないが運に任せるか」

「?」


タイガは流木と少し距離を取り、火炎放射器を使ってその流木に火を付けるとそれを主砲で一撃する。ドガンッ、バキャッ、流木は木っ端みじんに砕け散り、漁網は流木の残骸を引き連れてスプラッシャーを目がけて勢いよく滑っていく。それはスプラッシャーの左の足元にぶつかって止まった。スプラッシャーは突如飛んできた炎の塊に足を焼かれるがそれから逃れようとする過程で左側面全体を焼いてしまう。溜らずスプラッシャーは狂ったように甲羅の管から水をまき散らして、その場から逃げ出す。


「思った通りスプラッシャーは足元に器用に水を運ぶことは出来ない。火炎放射器は足元に火を残すようなことはできないが流木の火の玉なら話は別だな」

「スプラッシャーはずっと水を撒き散らしてるね。もうすぐにでも無くなりそうだ」

「火に怯えることは出来ても火傷の知識はないようだな。あいつは自分の安全マージンを超えて水を使ってしまった」

「どうする?」

「このまま仕留める」


火傷を直そうとすっかりと水を使い果たしてしまったスプラッシャーは海の方へと逃げようとする。そうはさせまいとタイガのタンクはスプラッシャーと併走すると頭を目がけて主砲を一撃する。ドガンッ、砲弾はスプラッシャーの頭に直撃するがスプラッシャーはよろけながらも直進を止めない。


「そういう判断か、その方が助かる確率は高いのかもな。セイル、神経弾を用意してくれ」

「うん」


タイガは続けて神経弾をスプラッシャーにお見舞いする。神経弾の針がスプラッシャーに突き刺さり、砲弾の本体が潰れることで神経毒がスプラッシャーの頭に流し込まれる。神経毒の効果はすぐに現る。スプラッシャーは海へと逃げるその足を止めてしまい、最後の足掻きか頭と手足を甲羅の中へと引っ込めて籠城を決め込んだ。


「それしかないのだろうけど、それは無意味だ」


タイガはスプラッシャーの頭を隠した穴に目がけて火炎放射器の炎を浴びせる。スプラッシャーは逃げだしたくてももはや麻痺により体を動かすことは出来ない。スプラッシャーから湯気が立ってからもタイガは何度か火炎放射を続けた。


「こんなものか。男の安否を確認するためにいったん戻ろう」

「うん」


――タイガが壊れたタンクの元まで移動するとそこには既にレンとホミィの姿があった。彼女らの表情には真剣ながらも笑みが見える。タイガとセイルはタンクから降りて彼女らの元に行くと、壊れたタンクの男にまだ意識があることを確認する。レンが男に何かの注射を撃つと男は眠ってしまった。


「レン、何を撃ったんだ?」

「お疲れさまタイガ。これは麻酔よ。全身に酷い打撲があって骨折もしていたからね」

「あの状況で助かるってのが信じられないな」

「さっきまで会話も出来ていたのよ」

「それは凄いな」

「それであの壊れたタンクをレッカーすれば報酬も出して貰えるそうよ」

「まだ先にスプラッシャーが居たらどうするんだ?あのタンクは履帯が壊れているし、牽引用のオート・ハンドリング機能は使えないだろ」

「地上円環ルートの道路まで戻ってから引きずって行きましょう。それでも遭遇するならその時は捨てるってことで」

「そうするか」


タイガらはタンクにスプラッシャーの死骸、バギーに壊れたタンクを牽引する形でこの場を後にした。タイガらはプライムスの街に夕方ごろに着く予定でいたが、一行がプライムスの街に到着したのは翌早朝のことであった。

11話振りの大型モンスター戦になりました。

1話だけですが文量は普段の1.5話分になっています。

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