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終末タンク  作者: 壱名
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ハンティング・コンペディション

フランジタウンの北側にはビオトープと呼ばれる人工的に造られた野生生物の生息環境が存在する。そこは改善された土壌の上に複数のイネ科の植物が群生し、ひときわ背の高い茂みを作りだしていた。その茂みのビオトープは東側は互助同盟地上円環ルートと呼ばれる車道の辺りまで、南側はフランジタウン北東部入り口まで、西側はフランジタウン中心部から北西に線を伸ばした辺りまで広がっていた。またフランジタウン西エリアは牧草地帯となっており、フランジタウン全体は北東部と南西部の入り口を除いてバリケードを囲う形でビオトープから来る野生生物との接触を避けていた。


――フランジタウン治安維持部隊のミーティング・ルームにはライバールを始めとする軍人数名とハンターズ・ギルドのスタッフが2名ばかり居た。ハンターズ・ギルドのスタッフはフランジタウンの周辺地図をプロジェクタで投影しながら、クラッシャー・ホースの生態について説明をしている。


「それでは20頭もの数にもなると牧草エリアにクラッシャー・ホースが集まっているのは偶発的な原因ではないと考えられるな」

「ライバール仕官のおっしゃる通り、現在フランジタウン西に集まっているクラッシャー・ホースの群れは、ビオトープ北側の草原に生息していた群れであると思われます。そこから南西に群れが移動したとなると何か別の生物に縄張りを追われたと考えるのが自然でしょうか」

「1頭や2頭程度のクラッシャー・ホースが紛れたというのであれば、大砲などで脅してやれば学習してビオトープの方に逃げていくだろうが、縄張りを追われたとなると脅す程度ではここから離れないのではないか」

「あれらは茂みの内部に侵入することは余りないため、私どももこのままでは恐らくビオトープと牧草エリアの間に新たな住処を求めると考えます」

「フランジタウンには南西と北東に街の入り口があるが、西エリア牧草地帯のバリケードが破られると無防備な横腹を晒してしまうことになる。やはりここは掃討作戦を行い憂いを排除するとしよう」

「掃討作戦ですか?タンクは治安維持部隊以外の数を揃えられないとのことですが」

「クラッシャー・ホースは対車両用のモンスターであると考えられてはいるが、所詮は危険度ランクCのモンスターだ。面で当たればトラックやバギーでも用は成そう」


こうしてフランジタウン治安維持部隊の最高責任者であるライバールの命を受け、ハンターズ・ギルドのスタッフは20時の依頼リスト更新時間に新たな依頼書を発行する。緊急、危険度ランクC、クラッシャー・ホース掃討作戦、西エリアに出没したクラッシャー・ホース20体を治安維持部隊の指揮の下に掃討、支援車両以上が必須、などといった内容である。


――翌早朝。フランジタウン南西部入口付近には治安維持部隊のタンク数台とタイガのタンクの姿があった。この時のタイガのタンクは機銃が機能していなかったが、募集要項が支援車両以上ということで、主砲とレンのライフル銃を攻撃力として作戦への参加が認められた。


「あちゃあ……ここと反対の茂み側に行きたかったんだが、こっちに配置されてしまったか」

「この様子だとむしろ私たちが参加したから治安維持部隊は自分たちのタンクを1台引っ込めたって感じね」


ここ南西部入り口付近にはフランジタウン治安維持部隊のタンクが4台存在する。作戦では治安維持部隊のタンクが南西部に固まって配置されているはずだが、これが4台では10台あるはずの治安維持部隊のタンクの半分にも満たない。元々後詰として何台か温存しておくにしても、外部参加であるタイガのタンクだけが南西に配置されるということは、彼らは自分たちのタンクを最初の予定からさらに1台分後詰に回したのだレンは推測した。


「さすがに治安維持部隊の最新鋭タンクと獲物の獲り合いになるのはきついな」

「クラッシャー・ホースがフランジタウンから離れる前までに左側の獲物は全部獲られちゃうかもね」


困った顔を見せるタイガのタンクの横に1台のバギーが着ける。運転席にはホミィの姿があり、助手席や後部座席に3頭の犬を連れている。それは軍犬ではなく狩猟犬であった。


「おはようレン」

「おはようホミィ、今日はどうしたの?ホミィは参加しない筈では?」


ホミィはタンクの上面ハッチに坐すレンに挨拶すると助手席の狩猟犬を撫でながら説明をする。


「この際だから私もこの子達と狩りでもしようかと思ってね」

「その子たちはハウンドよね?」

「分かる?この子達はこの街のうちの支部で飼ってる子達で、昨日あんたらがタンクを改造してる間に借りる約束を取り付けておいたんだよ」

「ホミィは軍犬トレーナーと聞いていたけど他にも色々使えるのね。私も頼っていいのかしら?」

「ターゲットをどちらが仕留めても折半ってことでいいかい?」

「ええ、それで行きましょう」


ホミィのバギーには狩猟用の散弾銃が据えられている。クラッシャー・ホースのような人間ほどのサイズが多く分類されるランクCのモンスターの場合、ライフル銃や散弾銃でもなければダメージは通らないとされている。またホミィの連れている猟犬はモンスター退治のお供として品種改良されたものであり、大型の野生動物とも格闘できる体格と優れた嗅覚を誇っている。


ふたりの挨拶もそこそこに治安維持部隊のタンク搭乗員により掃討作戦の開始を合図する発煙弾が上空に打ち上げられる。タイガのタンクはフランジタウン内側、治安維持部隊のタンクはそこから等間隔に外側に横並びに併走する。


「私たちが内側ってのは良い配置なの?」

「何とも言えないな。治安維持部隊が外側を担当するのはクラッシャー・ホースを機銃で牽制して囲い込むためだろうから、俺たちは隙間を詰めるくらいの扱いなんだと思う」

「以前の野盗討伐のような誘導ってわけね」

「たぶんな。だから実際に狩りを始めるのは右側から来るフリーのハンター連合と合流する地点からだと思う」


南西部タンク隊が西エリア牧場地帯が覗ける地点まで進むとそこにはクラッシャー・ホースが4体固まっていた。タイガを含むタンク隊はフランジタウンのバリケードを壊さない角度で主砲を群れに撃ちこむ。それは1体を直撃し残りは北側へと逃げて行った。治安維持部隊のタンクが機銃でその退路を制限しつつ北側へと進行する。


「タイガ、1頭がバリケードに沿って逃げてるみたいだけど、あれはどうする?」

「隊列を乱すわけにはいかないけど、あれは貰っておこうか」


レンは上面ハッチからタイガのタンクの後ろを走るホミィに合図を送ると、ホミィはその横を抜けて猟犬を放つ。そして猟犬がクラッシャー・ホースに追いつく前に散弾銃をクラッシャー・ホースの背後に撃ちこんだ。ザパンッ、ホミィの散弾はクラッシャー・ホースの尻に命中して出血を引き起こす。それでもクラッシャー・ホースは勢いを落とさずに逃げ続けたが猟犬が血に反応して一気に追いすがる。


「レン、横腹を狙って」

「わかった、でも何で?」

「あいつらが後ろから行くと蹴られてロストする」

「了解」


レンはそういうと同時にクラッシャー・ホースの横腹にライフルを2発撃ち込むと、それによって作られた傷に対して1体の猟犬が牙を立てる。猟犬に気を取られた手負いのクラッシャー・ホースは思わず勢いを止める。


「あれで分かるのね」

「無駄にロストさせないために優先度付けは徹底してるんだ」


そこにタイガからホミィに無線が入る。


「ホミィ、あいつらを一旦引かせてくれ」

「了解、何をするんだ?」


ホミィが口笛を吹くとクラッシャー・ホースに飛びついた猟犬は牙を放しバギーと併走するように引き返す。タイガはそれを確認するとタンクを前方に滑らせながら反転し、すぐに急加速を掛けてタンク隊に追いつく。そして手負いのクラッシャー・ホースを追い越すなり主砲を一撃する。ドガンッ、砲弾がクラッシャー・ホースの首の付け根辺りに命中すると、その体躯は回転しながら空中を漂い、そして地面へと叩きつけられた。タイガは再びタンクを滑らせながら反転させてタンク隊の列へと戻る。


「お見事」

「グリズリーミュータント戦の後で散々練習したからな。それより猟犬を引かせて悪かった」

「いや、ターゲットの勢いを殺すまでがこの子らの仕事だから問題ない」


クラッシャー・ホースは逃げまどいつつも途中に居た仲間を集めて5体まで数を増やしていた。そしてタンク隊はフランジタウン北東部から出発したフリーのハンター連合部隊と合流する。その一団は治安維持部隊のタンク2台とバギーとトラックの武装車両7台の構成である。こちらは既に攻撃を始めており何体かのクラッシャー・ホースが仕留められていた。しかしハンター部隊の方も武装バギーの1台から血糊が見える。反転攻勢を始めたクラッシャー・ホースの一団は治安維持部隊のタンクを避けて生身を晒すバギーやトラックの武装車両に狙いを定めていたのだ。


「タイガ、何か人死にが出てるみたいなんだけど……」

「油断したんだろう、モンスターだって生存に必死なんだ」

「……そうね」

「レン、セイルと場所を変わってくれ」

「へ?……うん」


タイガの指示により今度はセイルが上面ハッチに立つ。


「レン、ああいうのは今後も起こることなんだから、今のうちに気持ちを訓練しておこう」

「……そうね」


レンはそこでタイガに気を使われたのだと気づく。そしてモンスターハントを行っているという緊張感が抜け落ちていることも自覚せざるを得なかった。


(ダメだな、こんなんじゃ……お父さんとしてた趣味のハンティングとは違うんだ……)


ホミィはタイガのタンクの後方から配置変更が行われたことを確認するとすぐに状況を飲み込む。


(たぶん死人でも見たんだろうな、レンはメンタルが弱いから……。あの馬どもはたぶんフレンドリファイア狙いで反転攻勢をかけたんだろう。頭のいいリーダーが居るのだろうけど、逆にそこを崩せば……)


ホミィは反転攻勢に出たクラッシャー・ホースの群れからリーダーを探し出す。馬の習性を考えればリーダーは常に先行しているはずなので、既にハンター連合を襲った個体の中にそれはいるはずである。またハンター連合の中にはフレンドリファイアを恐れて突撃してきたモンスターを積極的に攻撃できず、ついには逃げだすものも現れ始めた。それでもクラッシャー・ホースはそれを追いかけたりはしない。それをしたら安全に狙い撃ちされることを理解しているためだ。


(あいつらが動向を気にして視線を集める先……あいつかっ)


ホミィはクラッシャー・ホースとハンター連合の混戦風景の中にモンスターのリーダーを見つけ出す。しかし、その刹那、ボゴオンッ、轟くはスタングラネードの爆音。ハンター連合もクラッシャー・ホースもホミィの猟犬もその轟音に身をすくませる。ものともしないのはタンク内部の搭乗員くらいのものである。しかし治安維持部隊のタンクがその隙に機銃を撃ち込むより先にクラッシャー・ホース達は動き出す。スタングラネードは人や猟犬よりクラッシャー・ホースの方が耐性を持っており、むしろ逆効果の事態を引き起こした。


「くそっ、轟音に怯えてこれではもう猟犬が機能しない」


ホミィは一瞬モンスターのリーダーを見失うもすぐにそれを見つける。それはある武装トラックに対して2体の配下とともに突撃を慣行していた。荷台の男は平衡感覚を失っておらずスタングラネードを投げた本人であると分かる。ホミィはタイガに無線を向ける。


「タイガ、1時の方向で群れに襲われている武装トラックは分かる?」

「ああ」

「あの中に群れのリーダーが居るからそれを仕留めてくれ、あの中で一番強そうで率先して動いている奴がそうだから」

「分かった」


襲われる武装トラックに対しては治安維持部隊も砲撃ができない。既に荷台に乗り上げる個体があり支援のしようがない状況になっている。タイガはタンクのサイドに折り畳まれたブレードを展開する。また上面ハッチのセイルは能力を発動してエンジン音を加工する。タイガのタンクはリーダーが居るとされる群れに側面から突撃し、その中の1体の後ろ脚を破壊した。脚を折られた個体は突然のことに悲鳴をあげて転げまわる。


タイガのタンクはブレードを当てたことで横に流されたがそのまま車体を少し前に進めることで安全な射線を確保する。タイガのタンクは目の前の個体を主砲の一撃で吹き飛ばす。そして荷台に乗り上げた最後の1体は少しの間をトラックに運ばれ、タンクとの距離が開いたところで地上へと降り立つ。群れのリーダーはタイガの砲身に対して直角に逃げ出して茂みのビオトープの中に入っていくが、そこを治安維持部隊のタンクに狙い撃ちされて命を落とした。


クラッシャー・ホースの群れはリーダーが倒されたことにより統制を失い、荒野に逃げ出すものや茂みの中に逃げ出すもので散り散りとなった。その後はタンクと武装トラックにより茂みの中のクラッシャー・ホースの掃討が行われ、その中でタイガも1体を仕留めることに成功する。そこではホミィの猟犬が活躍し、逃げ込んだクラッシャー・ホースの位置は簡単に割り出され、見つけたその個体をタンクのブレードですれ違いざまに殴りつけて足の一本を破壊すると、それはそのまま戦闘不能となった。


そうして最終的にクラッシャー・ホースは確認された19体中14体が処分され、残りは荒野の先へと逃げて去って行った。タイガはホミィと組んで4体を撃退したとして翌日の観光エリアでの打ち上げでホミィと共にヒーローの扱いを受けた。そのパーティでは戦勝を祝うものもいれば人の死に喪するものも居た。


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