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終末タンク  作者: 壱名
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クラッシャー・ホース

タイガらのタンクはカッソ村を旅立った。すっかりとアスファルトも剥がれ、辛うじてガイドの役割を果たす土の道路の上をタンクは行く。その脇には雄大な草原が広がる。


「タイガ、もうそろそろ次の観測ポイントよ」

「じゃあ次のポイントでは俺が観測、レンが集計な」


タイガらは見晴らしの良い丘にタンクを止め、バギーの牽引を外すとそれぞれの観測ポイントに移動する。草原にはヤギやヒツジ、マーモットと呼ばれる地ネズミなどの野生動物が見られた。


「あのマーモットってのは何か可愛いな」

「そう?でもあれネズミよ」

「ネズミだから何だってんだよ」

「病気が怖いわよ。リスだって可愛いとか言われてるけどあれも病原体を飼ってたりするのよ」

「レンはたまに可愛くないことを言うな。眺めてる分には可愛いからいいんだよ」

「まあペットとして飼うとか言い出さなければ別にいいけど」

「でも旅を終えたら何か飼いたいな」

「タイガは何か飼ってたっけ?」

「居候の身でペットなんて飼えなかったからな。そういや工場長の飼ってた犬は可愛くなかったな」

「あれは軍用犬だからね。ホミィの飼ってるのと同じ品種だったと思う」

「ホミィはこの旅に戦闘犬を連れてきてないんだよな」

「あれはペットじゃないし対人戦闘用の仕事の道具でしょ」

「経済動物って奴か」

「経済動物というのは何がしかの生産物をもたらす動物のことだけどね。売買されるペットなんかも経済動物に含む場合もあるから盲導犬や軍犬の類もまあ経済動物と言えなくもないのかな」

「ああペットというか相棒みたいな動物が欲しいな。戦闘犬みたいに戦える奴」

「よく考えないで言ってるでしょ」

「そうだけど?」

「お酒の席でもないのによく思いつきをべらべらと言えるわね」

「気心の知れた相手だからだろ」

「そう?ちょっと浮かれてるように見えるけど」


実際としてタイガはこの旅を楽しんでいる。浮かれているといっても過言ではない。彼は子供の頃からモンスターハンターになるのが夢だった。ともすれば夢のままで終わる夢であった。昔工場が野盗に襲撃されるまでは、自身が本当に冒険者となりモンスターハンターを目指そうとは思わなかったのである。


「浮かれてるのはそうだろうな。俺はここ最近はずっとわくわくとドキドキの連続で楽しい毎日だ。旅に出てホントに良かったと思ってる」

「あなたが楽しんでないっていうなら連れて帰るところだけど、楽しいなら何よりね」

「もしレオに会えたらガッチリと改造したこのタンクを見せてやりたい。これでどんなモンスターを狩ってきたのか聞かせてやりたい。これは俺と兄貴の夢の旅なんだ」

「……そう」

「レンはレオはもう死んでるって思ってるんだろ?」

「それは……」

「分かってるよ、俺もそこまで馬鹿じゃない。現実的に考えればその方が確率は高いだろう」

「それでもレオを探すのは立ち直るきっかけが欲しかったのよね」

「ああ。でもグリズリーミュータントとやり合って俺のモンスターハンターになる夢は目標へと変わった」

「旅に出る前にあんな大型モンスターを倒せて良かったわね」

「ファームにたくさん助けて貰ったからな。おかげでいいスタートが切れたと思う」


そんな話をしながらタイガらは野生動物の観測を続けていた。――そして合流地点にて4人は成果を話し合う。


「クラッシャー・ホースを見かけた?」

「うん、野生の馬より一回りは大きかったし蹄も立派なものだった」

「危険度ランクCのモンスターだな、どんな特徴?」

「ギルドでの呼び名はクラッシャー・ホース、これも実はアンタッチャブルの開発したシヴ・ストーカーのひとつ。あの馬は機械振動音やオイルの匂いに反応して自動車などを襲うように設計されている。僕たちみたいな車で旅をする者を見つけると突進してきて、その車を破壊ないし転倒させるのが役目のモンスター」

「タンクも襲われるのか?」

「ベースとなった馬自体に知性があるから砲身の見える車両は基本的には襲わない。あと一般車両でも初撃で無傷なら逃げる可能性は高い」

「セイルたちはバギーだったのによく無事だったな」

「距離があったから気づかれなかったし、見つけた後はバギーのエンジン音を加工して探知されにくくしたりしたからね」

「そういこともできるのか。シヴ・ストーカーの追跡能力そのものを無効化できるんだな」

「完全に逆位相の音を流せれば音に頼ったモンスターは目が見えないも同じなんだけどね。残念ながらそこまではまだ出来ない」

「いずれは出来るようになるのか?」

「訓練次第でね」


――タイガは野生動物の観測を全て終えると次の街までの間に一度キャンプを挟むことにした。


「そういやレン、今日もラジオの録音を流すことになるけど大丈夫か?」

「カッソの村で耳栓を買ってきたわ。祭の音で寝れない可能性も考えてどこかに売ってないかと探したけどちゃんと泊った宿屋にあったのよね」

「それはそうか、あの村は今回は残念なことになったけど色々工夫を凝らしてたものな。ちゃんと商いしてる」

「互助同盟円環ルート上の拠点はどこも地力はあると思うわ。そうでもなきゃこの時代を生きてはいけないもの」

「そういやカッソの村に港はないよな。地上ルートのみ拠点とされてて海上ルートからは漏れてる」

「それはベギンタウンや次の街フランジタウンに港があるからね。それらの街とカッソは等距離の位置にあって丁度カッソが中継地点になる。そこに拠点を置くメリットがあるから互助同盟からも援助が与えられて存在できるって感じかしら」

「なるほど、そのフランジタウンってのはどんなところなんだ?」

「ごめん、私も良く知らない。でもホミィなら知ってるわよね?」


フランジタウン?っとホミィは薪をくべながらレンに確認する。


「フランジタウンは立体的な街ではあるわね。あるエリアの話だが、廃棄された巨大な配管を組み合わせて合成板を天蓋とすることで立体的な構造を作りだした所がある。無骨なイメージを補うためにカッソ村から生花や造花を大量に輸入してるとかで色々飾られてて観光名所になってるね」

「オシャレな街なの?」

「そのエリアの巨大な配管は緑のペンキに塗りたてられて茎に見えるように工夫されてたりと艶やかではあるかな。他のエリアはベギンタウンとそんなに変わらない。まあ色を塗ったって鉄パイプは鉄パイプなんだけど、人通りの多い場所は造花がふんだんに使われているから造花の街だと想像してもらってもいいかも」

「それは楽しみね」


――翌朝、タイガらのタンクは剥がれたアスファルトの道を進む。タイガらのいるカッソとフランジタウンの間の辺りは道路も草原の中に埋もれており、路上は除草剤でも撒いてあるのか車が通ることは出来た。


「この辺りは草の背も高くて俺らはタンクのカメラで見てるからいいものの、一般車両が通るにはちょっと視界が悪すぎるな」

「目線が低いと何の景色も楽しめそうもないわね」


この辺りは互助同盟が生態系を維持するために手を加えた草原であり、多くの草食動物が生活している。所々に車に引かれて死んだ動物の死体も見受けられた。途中でマーモットの死骸を加えたキツネと遭遇するが、キツネはさっと茂みの中に逃れていく。ほっとするタイガ。


「ホミィ、これは大型動物と衝突でもしたら大事じゃないか」

「だから一般車両だと速度は落としていくんだよ。タンクなら当たり負けたりはしないから普通に走るけどね」

「それは強引だな」

「一般車両だと時間がかかるから、この辺りを通るならファームのタンクに先導して貰うのもメジャーな方法ではある」

「なるほど……って、あれは何だ?」


前方には横転するコンパクトカーの姿が見える。タンクが近づくと横転した車の横に三角表示板が見える。その車の横まで付けると腕を抱えた男の姿が見える。ホミィが上面ハッチに出る。


「そこの人、大丈夫ですか?」

「うぅ……あなたは?」

「ファームの傭兵のものです。私はプライムスまで帰る旅路の途中でした」

「クラッシャー・ホースにやられました。出来ればフランジタウンまで連れて行ってもらえませんか」

「もちろん」


ホミィはタイガに確認を取り、男をバギーの側に乗せると男の骨折した腕に包帯を巻いた。このままでは男はタンクのハッチまで登れないためだ。救急用具はタンクにもバギーにも存在するため、バギーがタンクに牽引された状態であればホミィは男の治療に専念できた。その間、レンはハッチから草原を見渡すが、クラッシャー・ホースの姿を探すと300メートルばかり先にその姿の一部を確認する。体全体が茂みの中に隠れており、辛うじて頭の先が見えたのだ。


「タイガ、クラッシャー・ホースが近くに確認できた。300メートル先で2時の方向」

「了解」


タイガは先に横転した車のあるポイントをオートパイロットシステムのアドレスに登録をすると、自身もクラッシャー・ホースの位置を確認する。クラッシャー・ホースはタンクの方向に向かって近づいていた。


「あいつ、こっちに戻ってくるぞ」

「たぶん僕たちが近づいたからだろう。クラッシャー・ホースはオイルの匂いがする方向に音が発生していると機械振動音でなくても襲ってくる場合がある。さっきから僕は道中のエンジン音を加工してたのだけど、このケースで追跡されると誤魔化しは出来ない」

「オイルの匂いってのはあの横転した車からか」


タイガの言う通りで横転した車からはガソリンが漏れている。その車はあちこちをクラッシャー・ホースに後ろ蹴りされており、給油口の辺りも大きくへこんでガソリンが漏れていたのだ。


「レン、ホミィにバギーの牽引を外すから運転するように言ってくれ」

「わかった」


そういうなりタイガはタンクからバギーの2本の牽引ロープを切り離す。タンクはクラッシャー・ホースの方へゆっくりと移動をする。ホミィもバギーの側の牽引ロープを切り離すとロープを回収してゆっくりとバギーを発進させた。レンは上面ハッチからタンクとバギーの距離が十分離れたことを確認すると、そこから機銃をクラッシャー・ホースの方へ向けて狙いを定める。


バララララッ、機銃の弾がクラッシャー・ホースを掠めるがクラッシャー・ホースは弧を描きながらタンクに向かって突撃を開始する。それでも機銃はその動きから軌道を予測して狙い撃つがクラッシャー・ホースの勢いは止まらない。クラッシャー・ホースは体中から血を流しながらもタンクに突っ込んでいく。


「タイガ、加速っ」

「了解」


タンクが急加速すると同時にクラッシャー・ホースは大きくジャンプしてタンクに蹄を立てる。レンは上面ハッチから頭を素早く頭をひっこめる。ズガンッ、クラッシャー・ホースの蹄はタンクの機銃と捉えると、機銃の砲塔部が大きく曲がり、タンクの装甲も一部がへこんだ。タイガのタンクは小型タンクの中でも装甲が薄く、クラッシャー・ホースの一撃に耐えられなかったのだ。


「ごめんタイガ、機銃をやられた」

「それはいいから何とかあいつを撃退しよう」


タンクは茂みの中で反転すると手法をクラッシャー・ホースの方へと向ける。ドガンッ、主砲の一撃はクラッシャー・ホースの横を通り抜ける。茂みの中からでは蛇行しながら追いすがるクラッシャー・ホースを捕えずらいのだ。ある程度のサイズを持つモンスターは妙に賢いものが多い。


「くそっ避けられた」

「タイガ、道に出ましょう」

「それではホミィたちを危険に晒してしまう」

「今ならバギーと逆方向に行けるわ」

「なるほど」


タンクはバック走状態で道の方へと引き返す。クラッシャー・ホースも体に傷を受けながらも猛追を掛ける。タンクが茂みを抜け、クラッシャー・ホースも道に出る。その刹那、ドガンッ、主砲が火を噴く。放たれた砲弾はクラッシャー・ホースの横腹に直撃すると、その体はくの字に折れ曲がり、砲弾の勢いに乗って地面を転がり回った。その後、クラッシャー・ホースが地面に留まれるようになった時にはそれは既に絶命をしていた。


「ははっ、逃げ撃ちってかなり強いな」

「笑ってる場合?」


タンクの機銃がおしゃかになってもタイガは楽しげであった。


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