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終末タンク  作者: 壱名
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反射

セイルが自身の力を使ってカッソ村の危機を退けた後、タイガらは宿屋に戻ろうとした。そんな彼らにカッソ村の人々は奇異の視線が向けられる。その光景をホミィは思慮する。


(私はセイルのしたことを直接見たわけじゃないから、あの告白には唖然としたけど、村人の様子を見る分にはどうやらホントに人間ではないのかな)


ホミィはセイルに対して困惑していた。セイルは突然何を言い出したのか、何故村人はセイルをあのような目で見るのか、タイガは何を平然としてこの事態を受け入れているのか。自分の与り知らない事柄によって周囲の環境が一変した。だから困惑しているのだ。ホミィはさらに先ほどまで居た広間での光景を思い出す――


「怖くないの?もしくは気味が悪いとか」

「驚いたけど怖くはない。気味が悪いというのは少しある。だけどそれは人をそういう風に改造する行為に対してであって、セイルに対する感情ではない」


――ホミィは回想から意識が現在に戻るなり、現在のセイルの様子を観察する。


(その話が本当だとしたら、私は正直気持ち悪いと思う。人間のような何かが人間の振りをしている?そんなの生理的に受け入れられない。恐怖を覚えて当然じゃないか。タイガの奴は何で平気なんだろう?私がおかしいのか?)


――これはタイガ達がベギンタウンを旅立つ前のこと。プライムス・ソルジャー・ファームのベギンタウン現地オフィスの一室にウェットとホミィが居る。


「そうわけでセイルはジャービスからの頼みで一度うちで預かって鍛え直すことになったんだ」

「構ってもらえずに塞ぎ込んだ政治家の息子ねぇ。誰なんだい?その政治家ってのは」

「依頼主のプライバシーを守るためにそれは言えないことになっている」

「うちにこっそり頼んでおいて今更うちらへの対面とか何で気にするのかね。依頼主がそういう性格だからそのセイルってのも塞ぎ込んだんじゃないの?」

「それを俺に聞かれても困る。まあジャービスが用立てたことで政治家は俺らのこそなんざ知らないんだろう。お前はお前でサクッと道案内して故郷で羽を伸ばして来ればいい」

「了解」


――再び時は戻る。4人はカッソ村の宿屋になる互助同盟名義で宿泊する大部屋の中でくつろいでいる。ホミィはライティングデスクの椅子に腰を掛け、他の3人の会話風景を眺めていた。タイガとレンがソファに座り、セイルはベッドに腰を掛けている。


(なーにが政治家の息子だよ……)


ホミィは一人物思いにふけっていたため会話の流れが分からなくなっていた。仕方ないためそのまま彼らの観察を続ける。彼らの会話の空気は顔は至って真面目であるが、それでもベギンタウンを出た当初に比べれば遥かに打ち解けているようにも見える。ときおりレンの笑顔を作りセイルに好意的に話そうと努力する姿をホミィは見逃さなかった。


(レンも平気なのか……やっぱりそれが普通なのか?……いやレンは何かとタイガに合わせようとするところがあるし、無理矢理納得したんだろうか。そんなことができるのか?……ああくそっ)


ホミィは実の兄ウェットに嘘を吐かれたこと、セイルとの関係性が突如変わったこと、タイガとレンがこの異様な状況に何故か順応できていることなど、多くの環境の変化に不快感が生じていた。ホミィは飲み物を取りに行くことにして部屋を後にする。途中、ホミィが宿屋の食堂を横切るときに自警団の面々を見かける。彼らは困惑した表情でホミィを横目に観察しだした。


(まあそれが普通の反応だよな。今私に話しかけられても私も説明してやれないんだけど……)


ホミィはさっさと用を済ませて部屋へと戻っていった。――翌日の朝、タイガらは宿屋の食堂に集まり朝食をとった。セイルの事は村人には軍事機密の実験兵器を使ったとだけ説明することにした。そのためセイルは村人の間ではファームの研究員ということになった。


「タイガ、やっぱり祭りは中止になるって」

「残念だな」

「この後どうする?もう一晩ここには居られるけど、もうチェックアウトする?」


レンに聞かれタイガはしばし考える。そしてタイガはセイルを見やる。


「森の洞窟にまだあいつらが居るなら退治しておこうと思うんだが一緒に行ってくれないか?後ついでにシヴ・ストーカーってのについてももっと詳しく聞かせて欲しいんだが」

「うん」

「ホミィはどうする?行くか?」


タイガに尋ねられ、ホミィは頭を人差し指で掻きながら考える。


「ああ行くよ。てかセイルは私の客人なんだから勝手に連れ回すな」

「悪い悪い」


(そういや私もタイガもセイルが何をやったとこを直接見てないんだよな……)


――カッソ村近くの森の手前にタイガのタンクがある。上面ハッチにセイルが居る。ホミとレンはバギーの方に乗っており、それぞれが双眼鏡を手にしている。セイルや森を観察するためである。


「……電波発信体の周波数を昨夜の周波数に調整……発信……」


セイルは自らのナノマシンの力により昨晩感じたラジオの周波数を作りだす。この時セイルの体は少しだらけた様子になる。


「……解除……」


セイルはだらけえていた姿勢を正すと何もなかったように森の奥を見つめる。タイガら3人はそんなセイルの振る舞いにきょとんとしている。


「何か終わったの?よく分からないんだけど」

「そうね、でもセイルが少しだらっとなったから何かしたのかも」


バギーの中の女性2人は困惑気味である。そんな二人をお構いなしにタンクが移動を始めたのためホミィもバギーを出して追走する。それかしばらくすると森の方から数羽の蝙蝠が飛び出してきた。飛び出してきたが発信元らしきところをぐるぐると回ると直ぐに住処のある方へと引き返して行った。タンク上面ハッチのセイルはまたもだらりとしている。


「今のが擬態のジャミングか?」

「うん」

「なんか凄いな。凄いんだけどどう凄いのかが見た目で分からないのがもどかしい」

「何それ」

「あの蝙蝠もこうして見るとやはり兵器なのかもな。シヴ・ストーカーだっけ?普通のモンスターとは違うのか?」

「普通のモンスターって?」

「え?」

「さっき言った『普通のモンスター』って何?」

「ええぇ?俺が答えるの?……普通のモンスターってのはあれだ、環境汚染によって生み出されたモンスターのことさ」

「そう、一般の人の間ではそういう認識なんだ」

「違うのか?」

「モンスターのほとんどすべては互助同盟がアンタッチャブルと呼ぶ人たちによって造られた兵器やその実験体だよ」

「アンタッチャブル?」

「互助同盟が僕や僕を作った技術者たちの組織を総称してそう呼んでる」

「アンタッチャブルねぇ」

「旧時代の文明を崩壊させるためにアンタッチャブルはモンスターを造りだしたとされる。その中でも文明の特性に合わせて世界中の都市を襲ったのがシヴ・ストーカーという兵器」

「あの蝙蝠のことだよな。だが今にしてみればあれは嫌がらせみたいなもんだろ。屋内に籠っていれば安全だしあれで文明が滅んだのか?」

「あの蝙蝠は文明が崩壊する前に造られたモンスターの子孫だよ。そのため兵器としての特徴はいくらか薄れている」

「破壊兵器だか殺りく兵器だかとして活躍した後は、人の生活を窮屈にさせるための兵器として残ったのか」

「その方が統治には都合が良かったのかもね。アンタッチャブルは文明が崩壊した後も人前には姿を見せていないし」

「ふーん……ん?、アンタッチャブルに造られたとされるお前は何で互助同盟に居たんだ?捕まったのか?」

「僕は互助同盟への贈り物みたいなものだから」

「贈り物?」

「アンタッチャブルは何がしかの理由で互助同盟が僕を使ってモンスターを退治することを望んでいるらしい」

「らしいってことはセイルも確かなことは知らないのか?」

「僕が知っているのは僕自身の使い方と敵となるモンスターの情報くらいだよ。アンタッチャブルと呼ばれる組織が複数存在するのか、それとも内部分裂したのか、僕も互助同盟もそれは分かっていない」


――タイガらは蝙蝠たちの住む洞窟を目指した。タンクとバギーは牽引状態でレンを留守役としている。洞窟の場所はすぐに見つかった。森の外から洞窟のだいたいの方向は確認できていたため、森の中で二度ほど蝙蝠の音波を探知しただけであっさりと見つかったのだ。セイルがジャミングで蝙蝠が洞窟から出ないようにすると、タイガは手早く洞窟の入り口周りに厚布を張った。布は登山用の杭であるハーケンで周囲の岩壁に打ち付けられる。ハーケンは村で調達したものだ。


「これでよし」

「どうせならタンクの火炎放射器で焼けば良かったのに」

「またホミィは……だから火事が怖いんだって」

「その変わりがこれ?えぐいことを考えつくねぇ」

「火炎放射器で焼くのと大差はない」

「餓死した蝙蝠の死骸から病原菌が繁殖したりはしないの?やっぱり焼いた方がいいような」

「どんだけ焼きたいんだよ。あとで村の人には何日か後に消毒するように言っておこう」

「まあ無償で退治してあげたんだからそのくらいはね」


3人はタンクの方へと引き返す。その道中……


「ねえタイガ、あの蝙蝠は何故ある周波数の電波を感じると人を襲うのか分かる?」

「……んー。受容体がどうとか言ってたあれか、電波が触覚に変化するんじゃないのか?」

「それは僕の場合。僕は電波を浴びたところで凶暴になったりはしないよ」

「そうだな。正解は?」

「飢餓感。あの蝙蝠は特定の電波を浴びると分泌される成分によって飢餓を引き起こすんだ。だから腹いっぱいに血を吸っても満足できずに狂ったように生物を襲い続けるようになる」

「……なるほどね」

「聞くんじゃなかったと思った?」

「少し。分かってたなら何で言おうとしたんだ?」

「アンタッチャブルは残酷だよねってことを言いたくて」


そんなやりとりを聞いてホミィは思う。


(……こいつはこいつなりに色々と悩んでるんだな。とても人間らしいというか。こいつとの関わり方はまだよく分からないけど、どうせプライムスまでの旅だし、普通にすりゃいいのか)


カッソ村の夜が更けるころには、4人の関係は良好なものへと変化していた。


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