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ひとつ、人より禿げがある

2016/07/31

本文修正しました


 



『おぉ……ワシの鍋の蓋を取り戻してくれたのかい? ありがとよ』


 クエストNPCのお爺さんに話しかけ、指定MOBから回収した鍋の蓋を手渡す。


『どれ。代わりと言っちゃあなんだが……これを持って行くとええ』


 そう言ってお爺さんが差し出してきたのは、鍋の蓋代わりに使われていたものだ。


『ワシが若い頃に使っていたもんでね。大事に使っとくれ』

「ありがとうございます!」



 もげ太は【木の盾】を入手した。



≪木の盾を装備しました≫


 左手:木の盾(白)

 HP+5

 防御力+10

 敏捷性-1




 ◇




「もげ太さん、盾げっとおめでとうです」

「これで盾役に一歩前進だな」

「ありがとう、みんな!」


 仲間の賛辞に、もげ太は満面の笑みをもって応えた。

 残るPTの一人は舌打ちをしながら、


「…………ちっ。十二天が三人もツルんでるってのに、やってることが間怠(まだる)っこしいんだよ」


 と不満を露にした。影天ネームレスだ。


「文句があるならいつ抜けても構わないぞ」

「禿げに同意ですー」


 腕を組んで横目で一瞥するエルニドの傍らからひょっこり顔を覗かせるリリル。


「……それは、“はげ”は激しいの“はげ”であって髪の毛の無い“はげ”ではないな? そうだな? そうなんだよな?」

「そんなにハゲハゲ言ってて悲しくならないです?」

「おっ……おま…………」

「てへぺろ」


 茹で上がったカニのようになったエルニドが、プルプルと震えながら拳を握り締める。

 チロリと舌を出すリリルの様子はどこ吹く風といったものか。

 片や学生、方や主婦(?)……互いがほぼ初対面とは到底思えないほど息の合ったやり取り(?)だった。


 さらりと辛辣(しんらつ)を浴びたネームレスはかと言うと、


「……別にンなことぁ言ってねぇだろが」


 激昂するかと思いきや、意外にもわずかにむくれるだけだった。

 リリルにお預け(・・・)を目で訴えたエルニドが反応をする。


「理解してPTに加わってるなら愚痴を言うもんじゃない」


 エルニドが「もげ太の前だぞ」――と小さく付け加えると、きょとんとした当人(・・)の顔を見たネームレスの表情がわずかに曇った。


「……くそっ。だから、そういう意味で言ったんじゃねぇよ」


 背を向け、ネームレスは苛立たしげに短剣の柄を指先で弄る。


「じゃあ、どんな意味だ?」

「言わなきゃ分かんねぇのか、この肉達磨(だるま)は」

「………………」


 一拍、見つめ合うエルニドとネームレス。


「褒め言葉か?」


 そう言ってポージングを決めて見せた。


「誰が褒めるか、このデコ介! やっぱ理系じゃなくて体育会系だろが!!」

「俺は、断じて禿げてない!! そして、部活とヘルメットを恨んだことは…………ない!!」

「ハゲなんて一言も言ってねぇだろが!! つか、否定までの微妙な間はなんだ!?」

「まぁまぁまぁまぁ」


 そんな二人のやり取りを見かねてか、両手を上げて仲裁を入るのはリリル。


「……老けてるのだって個性ですよ?」


 真顔でそう告げた。


「どう見てもアバターだろう!? そして、俺は高校生(・・・)だ、というかどっちの味方なんだあんたは!!」

「はぁ? テメーが俺と同じ高校生(・・・)だって? はぁ…………どんだけ老けてんだよ。中身まで」

「……よし。よく分かった。仲良く死にたいんだな? お前ら? もげ太、今晩は二天の丸焼きだぞ?」

「ううっ…………なんか軽く年齢でディスられた気がしたのです……」

「流すなよ! 聞けよ!!」


 どうにも放っておいては収拾が付きそうにない面子だった。

 しかし、最も空気が読めないとある人物は、朗らかにその輪の中に入り、


「ねぇねぇ。この盾、中古のはずなのに耐久が全然減ってないんだよ? 凄いよねー」

「…………え? いや、まぁ、うん。そうだな……」


 何が誇らしいのか先ほどNPCから受け取った盾を両手で掲げて見せた。

 そんな無邪気な仲間の姿を見たネームレスは、


「はぁ……なんか馬鹿らしくなってきたな。さすがはもげっち……」


 毒気を抜かれたように頭を掻いた。

 これが彼の話術だとすると相当に巧みとも言える。


「ま、お前さんの言いたいことも分かるさ。俺らなら“もっといい装備”が取れる――そう言いたいんだろう?」


 そんなネームレスの真意を悟ったようにエルニドは告げた。


「んだよ……分かってんじゃねぇか」

「そのくらいは、な。この面子なら、フルPTじゃないとはいえ余程の高難度レイドじゃない限りはこなせるだろう。未踏破のマップはともかくな」

役割(ロール)は滅茶苦茶ですけどねー」


 あはは、と笑うリリル。

 ヒーラーのはずなのにアタッカーという謎のスタンスで有名な光天を含め、基本は三人ともアタッカーポジションだ。

 ずば抜けたステータスによって誰もが壁役も押し通せる(・・・・・・・・)に過ぎないだけで、逆に三者が遠慮無しに全力を出せば、拮抗した高火力によりMOBの敵視はお手玉状態になるだろう。

 だからと言って、それでいずれかに被害が及ぶわけではないのだが。


「そもそも、適正レベ200までなら俺一人でもいけんだしよ」

「ほお、そりゃ凄いな。そこまで耐久がありそうに見えないが」


 ネームレスが軽く言った台詞に対し、エルニドは素直に感心を示した。

 PT用のID――インスタンスダンジョンは、ソロ戦闘に比べてかなり難易度が高めに設定されている。

 レベル200台後半である自分らにとって、適正レベルが200のIDをソロクリアできるかと言われるとアタッカーには難しいだろう。


 そんなエルニドの内心を感じてか、ネームレスがやや得意気に言う。


「へっ、伊達に敏捷全振りしてねぇって」

「ステ晒し馬鹿わろすですー」

「……………………」


 が、思いも寄らぬ横槍に黙り込んだ。


「……これは反論できないな。以前、お前を論破した脳筋話を覚えているか? ――ふっ、お前の方が脳筋だったな」

「ちょっと、待てェ! いつ論破された!? それよりテメーも均振りとかステ晒しバカしてただろうが!?」

「ははは、負け犬の遠吠えだな」

「どっちもお馬鹿さんですー」

「え、えーと……??」


 怒鳴ったりはにかんだり怒鳴ったり……一喜一憂する三人の会話についていけず、小首を傾げるもげ太。


「くっ……待った! もげっちが話についてけてねぇじゃねーか! よっしゃ、ここは俺が提案すンぜ? 今からIDに直行だ!」

「ふむ。却下だ」

「――なんでだよ!?」


 店の出入り口に向かって踵を返したネームレスだが、冷静なエルニドの返答で出足を(くじ)かれた。


「安易な考えはやめておけ。早過ぎるレベリングや強すぎる装備の獲得は、初心者の楽しみを奪うだけでなく早期の飽きを生じさせる懸念がある」

「ですねー。下手の考え休むに似たりです」

「くっ……。や、だがなぁ……」


 矢継ぎはぎな二対一の状況に劣勢を悟り、奥歯を噛み締めるネームレス。

 ならばと彼が思い立ったのは、


「そうだ、もげっち! もげっちはどうなんだ!? 強ぇ装備欲しいよな、な!? な!?」

「えっ?」


 唐突に話を振られて困惑するもげ太。

 ふぅ、と嘆息しながらエルニドが大筋を掻い摘んで話を整理していく。

 こういう面で、自身の考えはどうあれ彼は本人の意思をまず尊重するのだ。


「えーと…………それは、できることなら欲しいけど……」

「ほら見ろ! もげっちだって欲しい(・・・)って言ってんじゃねぇか!!」


 ネームレスは、まるで鬼の首でも取ったと言わんばかりにふんぞり返った。

 早速もげ太の手を引こうとするが、


「まぁ、待て。けど(・・)……なんだ? もげ太」

「うん。欲しいけど、あくまでそれは今の自分にあった身の丈のものなら……かな?」


 申し訳無さそうに呟く。

 早い話が、今のもげ太には不要――とまでは言わずとも、まだ早いと考えているようだ。


「さすが、もげ太さん♪ ……だそうですよ、影天さん?」

「…………(しょぼん)」


 滅多なことで落ち込む姿など見せない影天だが、傍から見ても気の毒に思えるほどしょげていた。

 しかし、彼が気落ちするのも束の間、


「……ちっ、わーったよ。もげっちがそう言うんならしょーがねぇや」


 速度が売りの影天は、立ち直りまでもが早かった。


「こうなったら、トコトン付き合ってやろうじゃねぇか!」


 そして、決断も早い。

 影天は再び立ち上がった。

 それが良きか悪しきかはともかくとして。




(※旧あとがきのため、変更された設定もあります)

ご感想、ご評価本当にありがとうございます!

作者は、今日でまたひとつ齢を重ねました…(涙)


禿ニモマケズ

歳ニモマケズ

雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ

丈夫ナ毛根ガホシイ


まぁ、それは置いといて……。


《装備品について》

装備品にはSからFまでのランクがあります。

目安として、それぞれ合計ステータスの基本値が定めてあり、例えば武器Fなら35以下、Eなら75以下……などなど。


また、装備品に関してレベル制限などは設けてなく、初期レベルでも高ランク装備をすることも可能です。

しかし、能力値が高い装備は定められた合計基本値を超えないように“マイナスステータス”も付加されています。

ステータスがマイナスになるものは装備できず、必然的に、低レベル帯では装備しにくいものが多いです。

(他の高ランク装備で、マイナスステータスを相殺することは可能)


合計基本値については、


武器>胴防具>頭防具、手防具、足防具>アクセサリー


という風に設定してあります。

特に武器の補正はかなり大きく、上限値は胴なら倍、頭・手・足なら四倍、アクセなら八倍となっています。


単純なステータス面では二刀(盾含む)>両手>片手という仕様にしてあります。

二刀は両手武器と比較して練成労力が倍になるのと、ある程度ステータスを高めにしないとダメージのマイナス補正で防御を貫通しにくくなる点を考慮した上です。


活用されるかはともかくとして、耐久力も設定されています。

ただし、これらの数値はあくまで目安や暫定的なものなので、今後調整を掛けるかもしれません。

また、表記はなくとも、一応、本文内に登場している主要人物や装備品(アバター品以外)は、内部パラメータ設定後に記述してあります。

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