不死鳥の塔2
アライアンス13――構成する4つのPTは塔を駆け上がる。
Aグループが今、仕掛けの解除に戸惑っていた。
「えっと……スイッチが四つあるよ?」
「どれかひとつが当たりという単純明快な仕掛けでござる」
「そうなると純粋に四分の一と……厳しいですね」
「困った時は直感でござるよ。人間迷いは禁物でござる(ポチッ)」
見分ける方法はない。
そんな時には、指先ひとつに運を託す。
一方のDグループは、
「ねぇ、スズさん」
「なに?」
「さっきは初めての夫婦共同作業みたいだったね。ケーキ入刀! みたいな?」
「……はぁ。変なこと言わないで。わたしのウェイディングパートナーはもう予約済みなんだから」
「ええっ――って、うわっ、なに! 急に天井が落ちてきた――!?」
雑談に興じていた。
そんな隣人に不幸をもたらすこともある。
そして、Aグループ。
「……何も反応がありませんね」
「ふむぅ。どうやら違ったようでござるな」
「では、次は僕の迷いを払拭しましょう(ポチッ)」
残りは3分の1。確率33%を高いと見るか低いと見るかはその人次第。
運は天に任せボタンを押し込んだ。
その時、Dグループでは、
「今助け……っきゃあ! 急に床が――!?」
「うぇ!? ちょ、ボクも今手が離せ……あぁっ、こっちまで落とし穴ぁ――!?」
落ちて来た天井に挟まれた仲間を救出しようとしたところ、別の落とし穴に襲われる。
天井を支えたまま為す術無く落ちていく仲間を目で追ったのだが、幸か不幸かすぐにその後を追う形となった。
そんなこととは露知らないAグループ。
「ん?」
「やや、もげ太殿?」
「ご、ごめんなさい! 迷ったらいけないのかなと、僕までつい……」
「ほほう。ここで同時押しなど……もげ太殿は中々に大胆でござるなぁ」
「いえ! 僕のもハズレだったみたいで……うーん、正解は最後のでしたね!」
「確率ゆえそういうことでもあるのでござろう。いっそ初めから四つ同時押しでも良かったでござるな。では、先を急ぐのでござるよ(ポチッ)」
「…………あれ? 全部リセットされましたよ?」
押し込まれていた全てのボタンが元通りに浮き上がる。
どうやら四分の一ではなく、押す順番までもが定められているようだ。道中にあったヒントを見落としたのか。
解除に失敗をすると別にグループに影響を及ぼす仕組みに気付かず、Aグループは24分の1の確率に奮闘した。
それでも各グループは互いに協力し、不測の妨害に遭いながらも攻略に精を出す。
落とし穴により階下から登ってきたDグループは、曲線の通路を抜けた先。侵入者を阻むように設置された像と対峙していた。
「また変わった形の石造だね」
「人の頭に獣の身体……スフィンクスかしら。嫌な予感しかないわ」
石造の目が開き、口がゆっくりと動き出す。
『汝らに問う。朝は三本足、昼は二本足、夜は四本足。この生き物は何か?』
「……意外に有名なナゾナゾで安心ね。簡単よ、“人間”でしょ?」
得意げにスズランは答えた。
スフィンクスは目を閉じて冷たく答える。
『不正解だ――落ちよ』
再び、足元に暗闇が広がった。
「きゃあぁぁぁぁぁぁ…………」
「すっ、スズさんっ――!?」
落ち行く仲間に手を差し伸べるが間に合わない。
スフィンクスは、残るひとりに視線を向ける。
『さぁ、汝に問う。朝は三本足、昼は二本足、夜は四本足。この生き物とは何か?』
そこで気が付いたのは、定番の問いと時間、足の関係が異なるのではにないか――ということだった。
彼女が答えた“人間”であれば朝、赤子の時はハイハイで四本足。成長して二本足、歳を重ねて杖の三本足のはず。
しかし、問いの内容は朝が三本。そして夜が四本。
ちょうど、眼前のスフィンクスの姿勢が四本足だ。
「え~っと…………あんまり答えたくないけど、ひょっとして“男”とか?」
『その心は?』
「割とお盛んな感じの……あぁ、知人にもひとり居るなぁ」
見えない空に遠い目を向ける。
『まさしく! さぁ、賢者よ、進むがよい!』
「開いた! ……けど、これ。スフィンクスの趣味入ってない?」
伝承の通り飛び降りたりはしないようだ。
代わりにこちらの様子を不気味な表情でニヤニヤと窺っていた。
仲間の合流を待ってルートを進む。
Aグループ――。
「むむ? これはなんでしょうか?」
先頭を歩くアランが見つけたのは、壁に取り付けられたレバーだ。
あからさまな仕掛けではあるのだが、何をもたらすのかまでは想像が付かない。
「向こうを見よ」
アマクニが指差す方を見やる。
「何やら乗り物らしきものが停留されているのでござる」
トロッコだ。
軌道に乗せられているが、車輪の下に大きな輪留めがせり出して進行を止めているようだ。
「そうか、分かりました! つまり、このレバーを引くことで……(ガチャン)」
輪止めが沈み、トロッコが重力に従って動き出した。
「あっ。トロッコが動き出しましたね! でも方向が……別の人のところに行ったのかな?」
レバーの位置関係から、仕掛けを動かしたグループが乗ることはできそうにない。
「そうでござろう。良いことをすると気持ちがいいのでござる」
他グループが使用するためのものなのだろう。
そう解釈し、トロッコを送り出した。
ほぼ同時刻のBグループ――。
「うん? このレバーは何?」
「レバー? それは、わたしも初めて見るわね」
同じ形をしたレバーを発見していた。
「新しい仕掛けかな。試しに切り替えてみよう(ガチャン)」
上向きのレバーを下向きに切り替える。すると、
「…………遠くから魔物を乗せたトロッコがやって来たわ」
軌道が切り替わったのだろう。トロッコが彼らの元へとやって来た。
「元に戻そう(ガチャン)」
「…………魔物を乗せたまま別のところに行ったわ」
辿り着く直前、再び元の軌道に戻ったトロッコは進路を変えて走り去っていった。
「我ながらいい仕事をしたなぁ」
「Cグループが戦闘になったみたいだけど……大丈夫かしら」
「こっちは素手二人だし、仕方ないね」
畑仕事を終えた後のように額を拭う月天を尻目に、スズランは交差した剣アイコンが点灯したアライアンスリストを見守った。
戦闘中のCグループを余所に、Aグループ。
「このフロアは……?」
通路の先の開けた部屋。
「四角いブロックがいっぱい並んでます!」
そこには視界を遮る高さの立方体が道を塞ぐように並んでいた。
床はよく磨かれたリンクのように摩擦係数が少ない。
「ここはスタート地点からゴール地点まで、ブロックをどかしながら順路を進んで行く――あるあるゲーでござる」
どうやら、一方からしか押すことのできないブロック部屋のようだ。
互いのブロックが干渉しないように移動させ、進行ルートを確保しろということなのだろう。
「なるほど。しかし、ファーストパーソンだと中々の鬼仕様ですね」
ただし、それが一目で理解できるのは、三人称視点。見下ろした場合の話だ。
今の彼らには眼前にただブロックが乱立するのみで、どこをどうすれば良いのか予想もつかない。
「無問題、そこに梯子がござろう? 上から助言するのでござるよ」
示唆するようにアマクニが告げた。
ひとりならいざ知らず、グループメンバーが居るのだ。役割を分けて挑戦すればいい。
「あぁ、そういうことですか。納得しました」
「じゃあ、僕が上に行ってきます!」
颯爽と少年が駆け出した。
確かに、一見して非力そうな少年に力仕事を押し付けるのも気が引ける。
「それならわたしと――」
「では、拙者も行ってくるのでござる」
そして、アマクニも追うように階段へ向かっていった。
「え? …………えっ?」
アランの右手が空を切る。
「力仕事は男の子に任せたでござるよ」
最も攻撃力――STRが高いであろう彼女は足軽に梯子を登って行った。
ひとり残された男がごちる。
「…………ここにイジメがあります」
もちろん、ストレートに処理ができるのならば大した労力ではない。
しかし、あーでもないこーでもない――と両者真逆の指示に逆らえず、生真面目な男は逐一余計な体力を消費させられるのであった。
Bグループ――。
「Cの方、何とか片付いたみたいだね」
戦闘状態を示すレッドカラーのアライアンスリストが通常のグレイに戻っている。
「……誰のせいかしらね」
「まぁ、これくらいはやって貰わないとね。腕試し腕試し」
しれっとした顔でリートが言った。
「よく言うわよ…………あら? またトロッコがやって来たわ」
視界に現れたのは、先のトロッコだった。
やってきた軌道は別。さらには、
「今度はさっきと違うのが乗ってるね――――って、あれプレイヤー?」
魔物ではなく、別の者――プレイヤーが乗っているようだ。
『はーっはっはーーー! このまま一息に突き進むぞ!』
『はいっ、どこまでもお供いたします!』
豪快な声を上げながら出現した眼鏡着用の二人組。
ひとりは片眼鏡、もうひとりは銀縁眼鏡。どちらも重厚な鎧を着こみ、バタバタと風にはためくマントが印象深い。
どうやら別のグループのようで、トロッコはDグループの進行ルートから外れた位置を走っていた。
「……何処かで聞いたような声だけど、気のせいかな?」
「わたしも聞き覚えがあるような……でも、気のせいでしょう」
引っ掛かるものを覚えつつも、ふたりはそれ以上思い出すことをやめた。
そんなふたりの耳に、大声でのやり取りが届く。
『……たっ、大変です、この先レールがありませんっ!!』
『んなにー!? ど、どこのどいつだ、レバーを引かなかった輩は――!?』
『そっ、そして、このまま行きますと構造的に塔の外ではないでしょうか――!? ……あ。ここ何階でしたっけ?』
『はっはっは。…………知らん』
『う、うわあああああーーーーんっ!!』
そのまま眼前から別のグループが外壁からフライハイ。大空へと消えていった。
[Cグループが ≪アライアンス13≫ から退出しました]
アライアンスリストからCグループの表示が灰色に切り替わる。
「……良かったの?」
「悲しいけど、きっと必要な犠牲だったんだよ」
静かに雄姿を見送り、同志の犠牲を悼んだ。
しかし、決して後ろは振り返らず、進み進みやがて行き着いたのは最上階の一つ手前。
◇
この階には、大きな扉によって仕切られた部屋が東西南北合わせて四つ。
各ルートから階段を上ると、それぞれ一枚の大扉へ通じていた。
「いよいよゲートキーパー戦ね」
これなるは前哨戦。
味方は三グループ、対し敵は四体。
「この山を越えればボスでござる」
戦場は別だが、常に隣合わせ。
敵のHPはリンクされており、合計ダメージがボスのHPを越えれば撃破。見えない仲間との共闘だ。
「さて。生憎だけど剣を失ったボクは、スズさんよりほんのわずかレベルが高いだけの一介プレイヤーに過ぎない」
「妙に気取ってるけど、わたしも武器失ってるんだからね?」
「はは。奇遇にもお互い素手同士。それでも、二つ名持ちの矜持に賭けて他グルには負けられないかな? 例えボクたち二人きりでもね」
「もちろんよ。……そもそも、わたしたち推奨レベルはかなり上回ってるけど参加人数少ないんだし、他グループの分まで頑張らないとねぇ」
「……うっ。そういう話は生々しいからやめよう」
「はいはい。じゃあ行くわよ」
共闘する仲間であっても、対抗意識は切らさない。
手を抜くことで得られる美学などないのだ。
「アマさん、Cグループが居なくなっちゃいましたけど……いいんですかね?」
「おそらくはトラップにでも引っ掛かったのでござろう。なに、アランももげ太殿も心配めされるな。拙者が居れば百人力でござるよ」
「頼もしいです! アランさん、僕たちも頑張ろう!」
「もちろんです、もげ太さん! では、そろそろ準備はいいですか?」
「はい!」
奥に待ち構えるゲートキーパー――≪極楽鳥≫。
最上階へ続く階段を解放するため、皆が一斉に地を蹴った。
「たあぁ、アサルトシールドっ!」
「お覚悟を……破岩剣!」
「参る。壱ノ太刀――刀身」
「血で彩りなさい――爪紅」
「悪く思わないで。絶掌!」
『ギャオッ!』
交差する剣と拳と嘴。
その猛攻に耐え切れず、ゲートキーパーはわずかな時間を持って撃沈した。
――――――――――――――――――――
『アライアンス13 バトルリザルト』
[Aグループ 55%]
[Dグループ 31%]
[Bグループ 14%]
[Cグループ 0%]
――――――――――――――――――――
表示された結果に異を唱える者がいる。
「え? これ壊れてない?」
拳を構えたままの姿勢で、青年は愕然とした。
「誰か知らないけど、お隣さん相当な猛者みたいね。……こちらも足は引っ張ってないけど」
言葉を濁すのは、Cグループが0%となってしまった要因を作り出してしまったことにもある。そのCグループの分までDPSを叩き出すつもりで戦っていたがゆえに、足して割れば15%強という数字に不満を覚えたのだろう。
「やっ……やり直し! やり直しを要求する! リテイク!」
結果だけで見れば、二位。コンビという人数と武器無しというハンデまで考えれば十分すぎる数字なのだが、納得がいかないようだ。
指を立てて再戦を要求するが――もちろんそんな機能は備わってない。
「ほら。いいからさっさとクラスターに合流するわよ」
突入までの時間と道中に手間取ったロスは、ゲートキーパー戦でいくらか挽回できただろうが、攻略に慣れているPTならば既にボスのFAは取っているはず。もし探している少年が優秀なPTメンバーに恵まれていれば、こうしている間にも行き違ってしまう恐れがあった。
スズランは、最上階への階段は開かれているのだが一歩も動こうとしない青年の背中を強く押した。
「いや、ボクはこんな結果に満足しないぞ! こうなったら制限解――わ、ちょっとタンマ!」
「ハリーハリー」
なおも抵抗する青年をグイグイ押し出す。
そのまま部屋の境界線を越えると、アライアンス13の解散を通知するメッセージが表示された。
アライアンスをどういう風に進めていこうかと試行していたところ、パートごとに区切らなかったため少し読みづらくなってしまいました。
11月に入り仕事が忙しくなってきたため不定期になるかもしれません。




