表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/64

いきなり最強武器~以下略

 



 視界が閉ざされ、精神が接続される。

 再び開いた仮想の世界は、もうひとつの現実を作り上げていく。

 徐々に光が形を定義し、脳と量子がそこにある景色を塗り替える。

 目を開けると、そこには全く違う自分の世界があった。


「うっ……」


 少年は目を開けた。

 見えるのは、風に揺れる枝と空の半分を覆い隠す葉。横になった状態でダイブアウトをしたのか、インした時も横たわったままだった。

 開いた手を握り、また広げる。身体は思うように動く。問題はない。

 次に首を回し、目に移らない範囲を確認した。

 最初に見えた景色とほぼ同じ。濃淡、緑一色に覆われた世界。森。獣道すらない深い樹海の奥。

 樹々の小さな隙間から覗く大きな山稜の存在がなければ、方角すら見失ってしまうだろう。

 少年は、自ら置かれた状況を思考。記憶を繋いだ。


 ――ディフル樹海。


 友人らとともに訪れた場所。経緯そして経路も思い出せる。

 十分な記憶を得たところで、さらに近隣を見回した。

 やはり、見間違いではない。あるはずの友人らの姿がない。どうやらここに居るのは自分だけ。

 記憶が途切れている間にはぐれてしまったのか。


「……どうしよう」


 少年は悩んだ。

 今いる場所については大まかに理解ができた。が、最後に映った景色と今の景色が一致してないように思える。歩いた道順は覚えていたはずだが、目に映る樹木や草の形は、そのどれにも当てはまらない。座標が分からない。

 有り体に言えば迷子か。


 何かを求め彷徨う視界の隅、ふとした違和感を覚えた。

 見る。

 地面に何かを引き摺ったような跡がついている。

 その跡を辿る。

 異変が如実に姿を現した。

 大きく抉られた大地。まるでこの場所で大きな爆発が起きたかのような痕跡だ。そんなクレーターのようなものが、大小いくつも存在している。

 脳裏に蘇るのは、黒装束の何かの姿だった。黒い衝撃波が走ったかと思うと、次の習慣には少年の小さな身体は為す術なく吹き飛ばされてしまった。これはその時の痕跡なのか。可能性としては十分に考慮できる。


「あれ?」


 深い窪みの中央に何かが突き立っていた。

 細長い棒状のもの。

 初めて見るそれを疑問に思い、好奇心から近付いていった。


「光ってる……?」


 淡い黄色の光を放つのは、両刃の剣だ。柄を天に向け、斜めに突き刺さっていた。

 少年は、ゆっくりと手を伸ばし柄を握る。

 光が徐々に薄れ、剣は少年の手に収まった。銘が表示される。


≪真打・夜叉歌月≫


 剣は仰々しい名前に相応しい能力を秘めていた。

 今装備しているものとは比較にならない。駆け出しの身である少年ですら、はっきりと知覚できるほどに。


「わあ」


 少年は、しばし剣を掲げ、じっと眺め見ていた。

 自ら発光しているせいか光沢はない。しかし、その淡い光はとても綺麗だった。まるで空に浮かぶ月のように。

 そうして、時が止まったかの如く剣を見つめていた。

 引き戻したのは低い唸り声。


『グルルル……』


 振り向く。

 茂みの合間から現れたのは、体長3メートルはあろうかという大型の四足獣。濃灰色の毛並み、長い口に並ぶ鋭い牙が少年を威嚇するように誇張している。

 浅い記憶と一致する。初めて見る魔物ではない。ディフル樹海を訪れてから何度もエンカウントした狼型MOB、名前はディープウォルフだ。


「うわわっ!」


 無論、少年ひとりでどうこうできる相手ではない。

 PTで戦うにしろレベルは180前後を要する。レベル40程度の少年ひとりに何ができようか。

 しかし、逃げるにしろステータスが違い過ぎてすぐに追いつかれてしまうだろう。背を向けた瞬間、後ろからガブリだ。それが分かっているからこそ、少年は覚悟を決めなければならない。先はPTであったが今回はひとり。心細いが、違いはそれだけだ。対峙するのも、攻撃をするのも初めてではない。その事実が竦みそうになる細い足を地にしっかりと踏みとどまらせる。


「頑張る」


 静かに、だが確かな気迫を込めて呟いた。

 頑張る――仲間に幾度となく伝えた言葉。その言葉が、少年の背中を力強く押してくれる。仲間が支えてくれるように。

 敵の目を見据え、少年が構える。

 意を汲んだように黄色い剣は強い煌きを放っていた。

 対峙する相手も何かを感じたのか。ディープウォルフは、少年に向かって大きく跳躍した。


「たっ!」


 だが、動き出したのは少年の方が先だ。

 敵が跳躍する前、左手に装備された盾を全身のバネを使いブーメランのように射出する。

 [シールドロブ]だ。

 横回転した盾が、空中の敵を殴打する。


『ギャウン!』


 敵の軌道が逸れた。目標地点よりやや手前に着地する。まずは迎撃成功だ。

【真打・夜叉歌月】のステータス補正により、[1054]というこれまで出したこともないようなダメージがディープウォルフのHPの3割を削っていた。

 回転力を落とし、自動で復路を飛翔する盾を回収する。距離はまだ離れている。

 少年は、スキルモーションを終えた後、敵に畳みかけるように次の行動へ移った。


「これで!」


 盾を前身に構え、裏から利き手で保持する。

 中距離から直線軌道の体当たりを仕掛けう[アサルトシールド]。

 離れた位置から一気に接近戦に持ち込める、近接職にとって有用なスキルだ。

 大地を蹴ると、スキルモーションにより身体が加速する。突き出した盾が敵の鼻先に命中し、HPゲージを半分以下にまで減少させた。

 仕留めるにはまだ至らない。


『ウォン!』


 敵の口が大きく開かれる。

 対し、少年はスキル発動後の硬直により行動できない。

 ディープウォルフのキラーバイトが、少年の肩口を捉えた!


「ううっ!」


 表示ダメージは[1850]――少年のステータスであれば、五回は死んでしまうほどの威力。

 だが、生きている。残りHPは、ゲージにして敵と同程度のパーセンテージ。【真打・夜叉歌月】によりHPにも大きな加算がされているおかげだった。

 ここで怯んではダメだ。攻撃による敵の硬直を見逃さない。


「っ……いやあ!」


 屈んでいた上半身を敵に向けて伸ばし、左腕を振り抜いた。

 [シールドバッシュ]だ。

 左頬を横殴りにされ昏倒した敵に、さらに上段からの振り降ろしを行う。

 決め撃ちの[スラッシュ]だ。

 それがトドメとなり、残っていた敵のHPゲージを消失させた。

 ディープウォルフが倒れ、光の粒となって昇華していく。

 少年に経験値が加算され、レベルアップのファンファーレが高らかに鳴り響いた。


「はぁはぁ…………あ、危なかったぁ」


 少年は深く息を吸い込み、大きく吐き出した。撃退には成功したものの、生きた心地はしなかった。

 何せ一撃で半分以上のHPを持っていかれるのだ。もう一撃受ければ死んでいた。それにもし、敵が二体以上現れれば、それこそ初撃で負けてしまう。紙一重ともいえる戦いに、今さらながらに指に震えが生じた。


「はぁ……でも、本当に凄いや。この剣」


 全てはこの剣のおかげだ。無ければ、それこそ何も出来ずにやられていた。剣を掲げ、感謝を述べる。


「守ってくれて、ありがとう」


 剣がもう一度輝いた。

 少年は笑う。

 剣のおかげにせよ、ひとりで敵を打ち倒したという事実。それは少年に小さな握りこぶしを作らせると同時に、自信へと繋がり、そして経験という確かな糧となった。

 少年は、もう一度剣に感謝を述べた。


「……あっ。このまま居たら目立っちゃうかな」


 もう一度襲われるのは遠慮願いたい。

 少年はPOTでHPを回復し、足早にその場から離れていった。




 ◇




 少年が立ち去った後、急ぎやってきた女性が居た。

 艶やかな黒髪、肩口から胸元まで大きく開いた着物。白花ことスズランだ。


「確か……この辺りだったと思うけど」


 彼女は、もげ太の復帰を待つためひとり樹海で待機していた。その際、少年とのパーティーを解散していなかったため、すぐさま帰還を察知することができた――が、少年はダイブアウトした場所に現れなかったのだ。

 どうして座標がズレたのか。疑問を抱えながらも周囲を捜索、付近で戦闘音を聞きつける。もしかしたら、インした少年が魔物に襲われているのではないかと。

 しかし、そこで目にしたのは、耳にした剣戟とは結び付かない惨状だった。


「一体何があったの……?」


 スズランは顔をしかめる。

 一見して分かる戦闘の跡。薙ぎ倒された樹木、大地には無数のクレーター。中には背丈を越える深さのものすら存在していた。まるで十二天同士が戦ったかのような有様だ。先に影天と戦天の戦いがあったが、それに匹敵するか……あるいは上回っているかもしれない。到底、少年の戦闘で生じるものではなかった。

 となると、推察の中で最も有力なものはシテンか。ここで仲間の誰かが一戦を繰り広げたのか。むしろ、そうでない限りこの規模の戦闘を見逃すはずがない。そう考えるのが妥当な線だ。


「もげ太くん……どこに行ったのかしら?」


 剣戟は、聞き間違いなのか。期待を裏切られた代償は、より大きくなった不安だった。

 少年のひとり散策――というよりも迷子癖か。この場、この状況においてはかなり厄介な代物だ。

 このエリアに出没する敵は、二つ名を与えられた彼女であっても単騎では油断できない。そして、敵が狼という性質を持つ以上、時には群れを成すこともあり、そうなれば彼女とて命に係わるほどの脅威と化す。早急に、少年を見つけて合流する必要があった。


「やっぱり、ここには居なさそうね」


 しばらく付近を捜索してみるが、戦闘跡以上の発見は得られなかった。

 これ以上の手掛かりはない――そう判断した彼女は別の場所を探すべく立ち去ろうとする。


「――っ!」


 大穴の上からこちらを覗き込む双眸と目が合った。

 すぐに戦闘の構えを取るが、その姿が記憶と合致する。


 ――過去に見知った相手だった。


「あなたは……」


 現れたのは、黒髪の青年。乱雑に切りそろえられた髪に、顔はまだ少年と呼べるあどけなさを残している。

 防具は動きやすさを重視しているのか、布系統の装備で統一されている。しかし、武器らしき装備はどこにも見当たらなかった。


「……驚いたな」


 青年が口を開いた。

 どうやらあちらにとっても、この邂逅は想定外の事態のようだった。

 それ以上の驚愕に包まれたスズランは、人物を特定する固有名詞を小さく告げた。


「“月天”……何故、あなたがこんなところに?」


 月天――。

 字の如く、十二天を冠するひとり。そして、一時は楓柳の幹部、月組の長の地位に居た人物だ。

 花組の長であったスズランとは元同僚の関係にあたる。

 月天は、わずかな笑みを浮かべて告げる。


「てっきり全員いなくなったと思ってたんだけどね。まさか白花――キミひとりが残っていたなんて思わなかったよ」

「全員……ですって? それは、どういう意味かしら?」


 全員――普通に受け止めれば、彼女と同行していた仲間たちのことだろう。

 だが、この青年と最後と顔を合わせたのは、彼がまだキヨウを離れる以前の話。つまり、ゲンマが楓柳を離れた直後まで遡るのだ。それ以来、一度も連絡を取っていない彼が、どうしてこちらの状況を、仲間たちのことを知っているのか。

 言いしれない不安が、彼女の胸を掻き立てる。


「そんなに警戒しなくてもいい。戦天といいキミといい、どうしてそんなに警戒心が強いんだろう」

「自分の胸に手を当てて考えてみなさい」

「胸……って言われても心当たりがない。ボクはただ彼女の思うままに挑まれて、そしてギルドに入っただけだ。交わした協定はひとつ。あとは、特に取り決めもなかったら自由にさせてもらった――ただ、それだけのことじゃないか」


 事実、そう言われてしまえば身も蓋もない。大筋では彼の言う通り、間違いはなかった。

 ただし、彼をギルドに誘ったのは戦天――キリュウではない。てっきり深雪――ベリガが、ギルドの隆盛を祈ってその勇名を借りたのだとばかり思っていたのだが、両者の関係から察するに実際は異なるようだ。確証はないが、キリュウの身を案じた花月あたりが一手を打ったのだろう。


「さて、もういいかな? そろそろ本題に入りたいんだけど」


 言って、月天は周囲を一度だけ見回した。

 そして、視線を再びスズランに戻す。


「ひとつ、探し物がある。でも、それがどうにも見当たらないんだ」

「探し物ですって?」

「そう、探し物だ。場所はここで間違いない。けど、それが見当たらないってことは、さ? 心当たりあるんじゃないかと思ってね」


 笑みを消した目で見つめられる。

 感じるのは殺気ではない。冷気だ。何もかもを射通すような目線が、スズランの目を、心を、貫かれるとさえ錯覚してしまう。

 スズランは小さく首を振って飲まれそうな心を自制した。


「し、知らないわよ! わたしだって今ここに来たばかりだもの!」

「……とぼけるつもり?」


 背筋が冷える。まるで蛇に睨まれた蛙のような有様だった。


「と、とぼけてなんていないわ! 本当に知らないのよ! ほ、本当よ――!?」


 これが十二天……!

 身近な存在で随分慣れたと思っていた対象だが、全身に叩きつける重圧――情報の塊が半端な量ではない。

 首元にナイフを押しあてられた被害者の如く、必死な弁明を図った。


「じゃあ……キミが嘘を言っているのか、本当のことを言っているのか。そうだね、確かめてみようか?」


 冷たく言い放ち、月天は右腕を水平に伸ばした。


「っ!」


 息を飲んだ。

 その高さは、ちょうどスズランにとっては心臓の位置。

 身体を震わせ咄嗟に逃げようとするスズランの動きを、青年はただ眼光だけで支配した。

 かぎ状に開いた手が、ゆっくりゆっくりと彼女の臓に近づいて行く。


 まさか――。


 冷たい汗が額を、背を伝って落ちていった。

 現実であれば、留めなく脇汗が流れ出ていることだろう。


 月天のドラゴンクロウ。


 一説では、月天は大型のドラゴンを素手で打ち倒したという噂がある。それが真実かどうかはさておき、火のないところに煙は立たない。少なくとも、月天は素手による何らかの攻撃スキルを会得しているはずだ。


「っは……は……ぁ」


 呼吸が乱れる。

 徐々に近付いてくる凶手。目は彼の指先を捉え続け、離さない。正常な時間軸以上の滞りを感じる。

 そして、いよいよをもってその先端がスズランの身体に触れた。


 ずぶり。


「あっ!」


 胸に沈みゆく指。

 全身を電撃のように駆け抜けた恐怖と絶望。

 もし、ここで自分がやられてしまえば、樹海にひとり取り残されてしまう少年は確実に命を落とすだろう。主から任された使命すら果たせぬまま終わてしまう。ならば、せめて一矢を報いるべきか。何もせずにこのままやられるよりも、もしかしたら脱出の糸口が掴めるかもしれない。

 そう決意したスズランの心を、続く青年の行動が打ち砕いだ。


 ……ふにゅん。もにゅん。


「ふぇっ――!?」


 ふにふに。もにゅもにゅ。


「っ……ふあっ……って!」


 これは――揉みしだかれている?

 指先が沈み込んだ部分は、彼女の豊かな双丘だ。それが今やあられもなく形を歪ませている。


「ちょっ、何するのよっ――!!」


 繰り出れたビンタ。

 見事、月天の左頬を直撃し、小気味良い快音を響かせていた。




色々とあった3章ですが、もう少しリウマ大陸にて物語を進行することにしました!

ということで、あまり陽の当たっていなかったメインキャラ? や旧2章最後にちょっとだけ絡んでいたこのキャラ。改稿により前以上に食い込んでくるかもしれません。船旅と船員さんは捨てがたいので、どこかで登場(再利用?)する可能性も……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ