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激闘の末

2016/09/23

改稿しました

 



 小高い崖の上から戦いを見守る青年が居た。

 薄茶色の髪が風に逆らわずに揺れている。


「やあ」


 背後に忍び寄る気配。

 青年は前を見たまま告げた。


「足音を殺して人の後ろに立つなんて。あんまり良い趣味とは言えないよ?」


 ゆっくりと振り向く。

 笑顔の先に居たのも、同世代と思しき青年だった。

 ただし、髪色は黒。

 乱雑に切りそろえた髪を、やはり乱雑に降ろしている。

 その手には黄に輝く剣が握られていた。


「そう? まさか、こんなところでキミに会えるとは思ってもみなかったからね。このまま振り向かなければ、つい斬り掛かってたよ」

「あはは。そういうとこも相変わらずかな」

「相変わらず――? 普通だろう?」

「うん。そうかもしれないね」


 二人は笑い合った。

 瞳の奥の感情を隠して。


「それで。キミが、どうしてこんなとこに?」

「どうして、とは?」

「探しても探しても見つからなかったキミが、ついでに立ち寄った場所で獲物を見下ろしてたんだ。驚かない方が不思議じゃないか?」

「それは不思議だ」

「だろう? 偶然にしては出来過ぎてる」

「ただの偶然だよ」

「偶然か。じゃあ、もう彼らは助けなくて良いのかい? まだ戦いは終わってないけど」

「あの調子なら、いずれは片付くよ」

「薄情だ」

「そうかな?」

「そうさ。ボクは、キミに会いたくて。ずっとずっと探してたのに」


 青年が見つめる。

 その目線は相手の青年を見据えているようで、もっと遠くを眺め見ていた。

 消えた笑顔と、消えない笑顔。


「そう。こうしてシテンを追い駆けていれば、いつか必ずキミに会えると信じてた」

「喜んでいいやら……ちょっと複雑かなぁ」


 苦笑を浮かべる。


「ひとつ聞きたい」

「どうぞ」

「今のキミは……昔のキミ(友人)? それとも、世界の敵(シテン)?」

「もちろん――前者だよ」

「はは。嘘ばっかり」


 全く笑っていないのに、乾いた笑いが漏れるという違和。

 青年の剣が、耳に痛い波長の音を奏でる。


「もう、この世界を奪わせない」

「それは、君の誤解だ」

「ボクはキミを止める――殺してでもね」

「話し合いじゃ無理かな?」

「じゃあ、話し合おうか――――制限(モード・)解除(アンリミテッド)

「あれ。やる気満々じゃない」

「これ以外の語らいが必要か? キミも、もう昔のボクとは思わない方がいい」

「うん。どうやらそうみたいだね」


 応答し、片手を開く。

 指先から生まれた円環が、全身に広がった。


「まずは、場所を移そうか――――権限(オーダー・)解放(インフィニティ)




 ◇




 長時間に渡る戦いに終止符を打ち、敵の身体がポリゴン塊となって崩れ消えいく。


「や…………」


 やったぁ! ――と。

 大きな歓声を上げたいが、あまりに疲れすぎて声が出ない。

 周囲にはディープウォルフといったアクティブモンスターが徘徊するにも関わらず、皆は疲れた体を休めるため地べたにひっくり返った。

 比較的ダメージの少ない銃使いが哨戒を買って出るが、前面に出ないだけで一番戦闘時間が長かったのも彼女だ。

 同様に損傷が軽微な少女が座ることで、周囲の警戒にあたった。


「もうこんな時間……」


 皆が同じ夜空――明るい月を眺めていた。

 訪れた時は、まだ日中。森が深いだけに薄暗くはあったが、月明りが照らすだけの今よりはよほどマシだ。

 しばらく無言で空を仰ぐ。


 ――リリル、キリュウ、スズラン、エルニド、ネームレス、ラミナ。


 そこには中心となる人物が足りない。

 手放しで喜べない理由のひとつがそこにもあった。


「もげ太さん……」


 ぽつりと名前を呟く。

 周りにも聞こえているはずだ。

 浮かぶ月に人懐っこい笑顔を馳せても、少年は来ない。

 そんな沈黙に耐えきれなかったのか、


「……はぁ。こんだけ苦労させられて、ドロップも経験値もねーとかどーなってんだろーな。ったくよー……」


 ネームレスがそんな愚痴を零した。

 忘れていたわけではないが、少年のものと比べると些事ではあった。

 でも、誰も口に出来なかったそんな軽口が今は有り難い。


「まったくじゃ。これは運営にクレーム案件じゃの」

「確かに不具合レベルではある。せめて称号のひとつは欲しいところだな」

「それなら彼女に言った方が早いんじゃないかしら?」

「え? いえ、わたしはGMというわけでは……」


 不穏な視線を集めてしまったラミナが汗を流しつつ弁明を行う。


「それならクジョウさんに直接文句言った方が早いですよねー? ……色々と。うふふ」


 色々、の部分に特に強いイントネーションを置いた。

 今回の件で思うところがあるのだろう。

 ラミナがわざとらしく咳払いをした。


「それより、聞きそびれていましたが、あなた方はどうやって蘇生を?」

「あ! それわたしも気になってました!」


 居心地の悪くなったラミナが話題の転換を図ったのかどうかはさておき、この質問は他のメンバーの関心も引き付けたようだ。

 問われた二人、ネームレスとエルニドは顔を見合わせる。

 そして、口を揃えてこう言った。


「あー、俺もそれをハゲに聞きたかったんだよ」

「むしろ、俺が聞きたいくらいだ」


 と。

 相手の発言を訝しむネームレスと、禁句に顔をしかめるエルニド。


「俺は禿げて――」

「ふさふさーふさふさー」

「…………うむ」


 面倒なので途中で試みた回避の呪文は、思った以上に功を奏したようだ。

 ポピュラーな神経を持ち合わせた人間であれば、火に油――逆効果となりそうではあるが、表情は笑み。

 気をよくしたエルニドが、知りうる経緯を話し始める。


「気が付いたら蘇生をさせられてたんだ」

「蘇生を?」

「あぁ。てっきりお前らの内の誰かだと思っていたのだが…………違うのか?」


 そんな疑問に、一同は首を横に振った。

 本人も疑問が深まってしまったようだ。


「……そうか。分からないものは仕方ない。お前の方がどうやって?」

「俺か? 俺は……なんつーか、通りがかったヤツに生き返してもらったんだ」


 ネームレスは、説明に困りながらもそんな返答をした。


「通りかかっただと? 俺たち以外のプレイヤーなのか?」

「そりゃそーだろ。蘇生してくれる親切設計のMOBとか聞いたこともねーぞ?」

「そうだが……こんな樹海の奥にプレイヤーが通りかかるものか?」

「通りかかったんだから仕方ねー。つか、テメーもそいつに蘇生させられたんじゃねーのか?」

「うーむ……生き返った時は、既に周囲に誰もいなかったからな。可能性としては十分に考えられるが……」


 あーでもない、こーでもない――議論をするも結論は出そうになかった。

 唯一の手掛かりとなるネームレスを蘇生させたプレイヤーについても、謎が深まるばかり。

 ひょっこり顔を出さないかとも思ったが、辺りは梟が鳴くだけだ。


「やめやめ。で、この後はどうすんだ?」


 話を切り替える。

 差し当たっては、今後の方針について。

 尋ねてはみたものの、返答に困り、全員が首を捻っていた。


「さて。どうしたものよのう……」


 メンバーの中心、行動指針となる存在を欠いているのだ。

 自由解散といきたいところだが、あまり身勝手過ぎる行動を取るわけにはいかない。


「とりあえず……もげ太が戻らないようであれば、俺は一度本部に顔を出そうかと考えている」


 暗い顔でエルニドが言った。

 というのも、ネームレスやキリュウ、スズランやラミナといったエバーフレンズメンバーと彼とでは立ち位置が異なる。

 彼には彼のギルド、鋼刃騎士団という所属があるのだ。

 少年が戻ってくるのがベターではあるのだが、不在である以上はこのまま同行するにも気後れをしてしまう。


「そっか。別に気にしなくてもいーが……テメーの都合もあるしな。ま、無理にとは言わねーよ」

「すまないな」


 焔天という重役が、長くギルドを空けてしまっているのは事実だ。

 ただ、引き止めてもエゴが生じてしまう。

 そんな彼と同じ立場の人物は、もうひとり居るのだが、


「はい?」

「……いや、テメーはいいのかよ?」


 リリルだ。

 視線が合うと、彼女は頭上にクエスチョンマークを頭上に浮かべる。


「え? なんでですか?」

「なんでって…………まー、いいけどよ」


 尋ねることすら諦めた。

 自分が第一、いや第二なのか。不慣れな周囲も彼女の性格を把握しつつあった。


「で、ギルメン連中は?」

「もちろん、もげ太待ちじゃ」

「キリュウ様に従います」

「わたくしも異存ありません」

「……あのな。もうちょい主体性があってもいーんじゃねーか?」


 これだけプレイヤーが首を並べてるというのに、少年を立ててくれるのは正直喜ばしいことだ。

 ネームレスは、こみ上げる笑みを堪えつつ彼女らに言った。


「じゃあさ。せっかくこんだけの面子が揃ってんだしよ」


 彼が告げる提案、それは――


「今から、このメンバーで【ディフル山】に行ってみねーか?」

「は?」


 まさかそう来るとは――と。

 あまりに斜め上だった発現に、皆が目を丸くした。


「このままぼーっとしてるのも、なんか勿体ねーだろ? 生産性がねーっつかさ」

「それは、そうだが……しかしな」


 渋るのは、自陣に戻ろうとしていたエルニド。

 両腕を組んで悩むところを見るに、興味がないわけではなさそうだ。

【ディフル山】とは、この樹海の奥にある山岳フィールド。

 樹木の切れ目があれば、どこからでもその山腹を垣間見ることができる。

 ただし、頂上だけは晴天であっても常に厚い雲に遮られていた。


「ふむ……面白そうじゃの」

「おいおい。戦天まで何を言い出すんだ」

「ディフル山って、まだ到達したプレイヤーはいないんだっけ?」

「ですよー。何せ、この樹海すら未踏破MAPですから……。さらにそれを越えるとなると、相当な苦難が待ち構えているのです」

「そうそう! それだそれ!」


 心の代弁を行ったリリルに、ネームレスが嬉々として賛同した。


「このPTで辿りつけなかったら、一体誰が行けるって言うんだよ、な? な?」

「気持ちは分からんでもないが……」

「今回、報酬もゼロだったろ? んなら、ディフル山でまだ誰もお目に掛かったこともねーようなお宝でも見つけてくりゃあよ。きっともげっちも喜ぶんじゃねーかな?」

「む、むう…………」


 頑ななエルニドも、少年の名前には弱いようだった。

 今、彼の脳裏では、“凄いよ、エルニド!”の声がせめぎ合っているのかもしれない。


「もしかしたら、毛生え薬も眠ってるかもですよ? 霊験あらたかな神薬ならぬ髪薬ですー」

「よし、行こうか」

「って、もげっちよりそっちで陥落するのかよ――!?」

「ははは。さすがに冗談だ。……さあ、霊薬――もといもげ太の武器を回収しに行こうじゃないか!」

「ホントに冗談なんだろうーな――!?」


 嘘とも本気ともつかない気合十分なエルニドを先頭に、一行は腰を上げた。

 そんな先頭はずんずんと森の奥に進んでいく。


「わたしは足手まといになりそうだから、ここで待ってるわ。さすがに誰も待機してないわけにはいかないでしょう」


 彼女が心配をするのは、少年のこと。

 再びダイブインをした時に、周りに誰も居なかったら心細かろう――そんな配慮だ。


「悪ぃ、頼む」

「すまぬの、スズラン」

「いえ。お気を付けて」


 そうして。

 十二天のみで構成された五人という超強力なパーティを引っ提げて、彼らは森のさらに奥へ奥へと進んでいった。

 十種神宝のクールタイムも経過し、リリルも万全の体勢で臨んだ“ディフル山制覇”だった――が。

 PTが全滅し、各自街へ死に戻りをしたのはそれから三時間後の話だったという。


 後に、“魔法少女ぴかちう”は掲示板にこう書いていた。


 ――あの山は呪われてる!


 と。




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