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行け、魔法少女!

2016/09/22

改稿しました

 


 最初に、リリルが見かけたのは、瀕死の状態でシテンに立ち向かう仲間の姿だった。

 そして、HPはあるものの、どこか動きがぎこちない少女。

 事情は分からなかったが、何かあったことを察した彼女は、すぐさま仲間の前に立ちはだかり、シテンを正面から迎え撃った。


「キリちゃんとスズちゃんはやらせません!」


 初めから全力全開。

 背中の六枚翼は、光天のスキル――ヘヴンズデザイアの最大強化を表す。


「そこぉ――極光天霊破(リリルビーム)です!」


 攻撃がシテンのど真ん中を捉える。

 極太のビームが全身を飲み込むが、そのエネルギーの大半は黒套に弾かれ、威力の多くを軽減されてしまった。


「くうっ……まだです! どんどんいきますよー!」


 立て続けに攻撃魔法を繰り出す――が、何をしても決定打には至らない。

 かつてないほどの真剣さが、リリルの表情を占めていた。


『ギゴ――!!』


 体力を削られたことでシテンの怒りが露わになった。

 衝角の境界、黒の球体が生じ急速に膨れ上がる。

 一行を、出会い頭から半壊に追いやったあの衝撃波を再び放ったのだ。


「これは……いかん!!」

「退避――くっ、間に合いません!」

「き、キリュウ様、伏せて!」


 後方の仲間たちに走る戦慄。

 直撃をすれば、今度こそ全滅もあり得る。

 シテンを中心に黒い衝撃波が迸る中、


「やらせませんよっ!」


 リリルが両腕を目いっぱい広げる。

 その胸の前に可視のバリアーが幾層にも重なって展開された。


「セラフィックレイヤぁーー!」


 両足を踏ん張り、衝撃を受け止める。

 高音を響かせ、外周の障壁が割れた。

 二枚、三枚――音を立て、次々と砕けていく。


「つうっ――ま、まだまだぁ!!」


 五枚、六枚――。

 そして、何とか残り一枚で保たせることに成功した。


「……ふ、ふふん! 不意を打たれなければ防ぐことくらいできるんですっ!」


 それは彼女にとって精一杯の強がりだった。後方の仲間にも痛いほどに伝わっているだろう。

 確かに、本来の装備であればそれも可能だったかもしれない。

 だが、今の彼女はヒーラー装備。PTが戦闘状態にある以上は、装備の切り替えを行うことができない。

 それでも奮闘できているのは、≪ヘヴンズデザイア≫の性能だ。

 彼女が持つ中でも最高位の自己強化能力――それこそが、光天のアンリミテッドスキル。


「助かったのじゃ、光の!」

「はい! でも、キリちゃんは下がっててくださいね!」

「じゃ、じゃが――!」

「今のキリちゃんじゃあ足手まといなんです……よっと! 砕散天霊破(くだけっちビーム)!!」


 思ってもない暴言。

 痛む胸を抑えながら、リリルは気丈に杖をかざした。

 こうでも言わないと友人は絶対に下がらないからだ。

 細いビームが何本も同時に発射され、角度を変えて目標に突き刺さる。

 やはり多くは防がれたが、数本が外套が破れ目を潜りシテンの本体を直撃したようだ。

 敵が苦悶の声を上げ、ライフゲージがわずかに減少する。

 それでも、数字でいえば数パーセント。


「これ、結構強いスキルなのにぃ……!」


 リリルは右手の杖と身体を覆う法衣を恨めしく睨んだ。

 いつもの装備ならば――と


 これは、ヘヴンズデザイアのネックでもあった。

 まず第一に、このスキル自体に攻撃能力がないこと。

 よって、実際にダメージを与えるには他の攻撃手段が必要になってくる。

 また、効果中は別の強化や回復を受け付けなること。

 被回復だけでなく与回復も使えない。例え仲間がダメージを受けても、発動中のリリルには回復することができなかった。

 だから、彼女は率先して仲間の前に立ちはだかる。


『ルゥ――!』

「うわわっ!!」


 敵の注意を引き付け、間一髪で爪を回避する。

 スズランらが致死に至ってしまう攻撃も、強化状態であればある程度は耐えられるようだ。

 だが、回復手段がない以上は、できうる限りは回避しなければならない。

 ヒーラースタンスなのに回復ができず、ソーサラーなのにヘヴンズデザイアを生かせる攻撃力もない。

 装備は、二重の意味で最悪のステータス相性といえた。




 ◇




 ――絶体絶命。


 だけど、守りたい仲間が居る。

 じゃあ戦うしかない!


 彼女は、そんな単純な理念に従って動いていた。

 ギルド【森羅万象】ではアイドル枠。仲間内で腹黒やら計算高いと言われる彼女だが、そのどちらも間違いではない。

 彼女は、自分と、そんな自分の周りに居る人間が良ければあとは割とどーでもいい――そんなヒポクリシーをあまり隠さない人間だ。

 だから、“良い”という結果について誰よりも深く考え、できうる範囲で多くの手を打つ。

 それでもどうにもならないことは、優先順位の低い順にすっぱり諦める――それが彼女という人間。

 彼女を見る人の角度によって、見る人の受け止め方によって評価は異なる。

 一部は勘違いかもしれないが、全部が勘違いではない。

 彼女は、そんな周りを、自分を気にすることはない。

 自分にとって大切なものは、心に決めてあるから。


「こうなったらイチかバチかだぁ!」


 今の彼女は“少年”というピースを欠落し、そこに“仲間”というピースを嵌め込んでいた。


「風属性は使えないけど、――美少女蜂蜜閃光烈波(リリルフラッシュ)!」


 閃光を(ほとばし)らせる。

 眩い光が、視界を奪った。

 何に代えても少年を守る――その想いが仲間に向けられていた。

 二番目に大切なのは自分、だから二の次。

 我が身を顧みず、捨て身での攻撃を敢行する。


「そして、回れ! 回るんだわたしっ! 例え脊髄が悲鳴を上げようとも明日を夢見る友のためにいざ参らん!」

「ひ、光の――!? その技はダメじゃ!!」

「走れ、ワインディングロードを直線に! 究極……超光天回転旋風杖(リリルスピン)!!」


 リリルが錫杖を振りかざし――突進した。

 遠距離戦を主体とする彼女の近距離戦。

 シテンの鉤爪が少女の肩、脚、そして胴を裂くがおかまいなしだ。

 防御は身体強化に任せ、ただ敵との最短を突き進む。


『グルァ!!』


 確かな手応え。

 鋭利な錫杖の逆端が、シテンの本体に届いた。

 回転が外套を弾き、破れた隙間から肉へと潜り込む。


「ふぃにーっしゅっ!!」


 決意と覚悟が握力を通じ、無意識に杖を固く握らせた。

 銀の装飾が敵の身体を抉り、貫き、さらに奥へと潜り込ませる。

 やがて勝利を確信した少女の眼前に、


「あ……」


 黒い球体があった。

 あまりに近すぎて、両目の焦点が合わない。

 輪郭のぼやけた黒球がその大きさを増すと、ピントはどんどん合わなくなっていった。

 回避も間に合わない、防御もできない。

 どう考えても直撃の即死コース。


 ――あっちゃあ。届かなかったや……。


 どうにもならないならば見るのは止めだ。

 心の中で後ろの仲間たちに謝り、せめて死ぬ前に少しでも多くのダメージを。

 そう願い、杖を握る両手にさらに力を込める。

 そんな彼女の耳に届く声があった。


「そんなに目を瞑ってたら、敵が見えないだろう?」


 ――えっ。


 死ぬ前の幻聴か。

 でも、聞こえてきたのは間違いなく男の声だった。

 この戦場で失ったはずの仲間の声。

 熱いのは胸か、それとも目蓋か。

 彼が放つ確かな熱量が、彼女の身体を熱く滾らせる。


「――はっ! |烙炎の大太刀Iの字斬り《鍛え上げたスラッシュ》!!」


 まさに文字通り。劫火が黒球を縦に両断し、シテンの肩口から深く切り裂いた。

 苦悶の悲鳴が聞こえる。


『ギグォ――!!』


 シテンが四肢を大地に深く突き刺した。

 引くつもりはないようだ。

 両腕が錫杖と彼女の身体を押さえつけようとする。

 高速回転による摩擦がシテンを腕を焦がすが、ただの熱ではダメージを受けないようだ。

 回転が徐々に速度を落とす。

 このままでは止められる。

 だが、目は瞑らない。敵が見えなくなるからだ。


 ――あれ?


 視界に、シテンのものではない“黒”が存在した。

 同じ色なのに、同じ色じゃない。

 真っ黒だけど、どこか温かみのある黒。


「ハッ、まだ詰めが甘ーな?」


 声が、その黒の正体を告げた。

 これは、仲間の影――。


「そら。目には目を、影にゃ影だ」


 影は黒い鎖となり、その首を一斉に持ち上げる。

 鎖が周囲を走り、そして互いに絡み合う。

 そうして拘束したのは、シテンだ。


刻影縛鎖(こくえいばくさ)――釣りは要らねーぞ。死戯――背曲」


 外套の合間を縫い、双剣がシテンの首を背後から交差して薙いだ。

 敵の咢が大きく開かれる。

 シテンの腕は止まったが、このままでは勢いも減速をしたままだ。

 もう、新たに加える力は残っていない。


「ならば、わたくしがその突進を補助します!」


 聞こえたのは、頼もしい声だ。

 頼もしいけど、ちょっぴり不穏。

 うん、人間の想像は逞しい。

 見えずとも、この後に何が起きるのか大体予想ができてしまう。


 ――やばい気。


「轟け、プラズマイーリス最大放出!!」

「ほぎぃ――!?」


 リリルの足元を強力な雷光が後押しした。

 心構えはしていたものの、思っていた以上に出力が強い。

 失った加速力を取り戻し、というか無理矢理押し出される。


 ――後で覚えてろ。


 レーザーの補助で再びシテンに食い込むが、まだ足りない。

 ただ、真っ直ぐに押すだけでは駄目なのだ。

 刃物が押したり引いたりしなければ切れないように、回転力を失った杖ではこれ以上先に進まない。


「ならば我らは、足りない属性を埋めてしんぜよう!」

「はい、キリュウ様! 全力で回しましょう! 」


 二人の友人の声だ。

 背中を押してくれているはずなのに、やっぱりどこか不穏。


 ――ダメぇぇぇ!


 扇と和傘が華やかに舞った。

 愛と友情のツープラトン――いや、リリルを加えればスリープラトンか。

 戦天と白花に加減は無しだ。

 荒れ狂う二者の竜巻が雷光までも轟かせ、後ろから迫りくる。


「ひゅおぉぉぉぉぉぉ…………!!」


 竜巻は、少女を囲むようにシテンまでの道を作り上げた。

 激しい内部気流がこれまで以上の回転力を与える。


 ――い、息ができない……!


 けど、VRだから大丈夫。息ペナを受ける前に倒せばいい。

 もうこれで邪魔をするものは何もない!


「@&⊿――――!(びくんびくん)」


 ならない声は心で叫ぶ。

 貫け。貫け。貫け――!


『ォ――……』


 シテンの背から光が迸る。

 そうして、黒に覆われていた視界が白く染まった。




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