表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/64

火神

2016/09/22

改稿しました

 



「キリュウ様。その……焔天(かれ)は?」


 スズランが心配を寄せるのは、彼の発言にあった。

 使えなくはない――と。

 問いに対し、使えるとはひと言も言わなかった。


「本当に扱えるのかどうかは定かではない。我らに対する気休めやもしれぬな」

「では、このままひとりにするのは……!」


 二人は、駆けながら仲間のHPゲージに注意を向けていた。

 今のところは、エルニドに大きなダメージはない。

 しかし、影天のような回避手段には乏しいのか、徐々に削られていく。

 いずれは目に見える蓄積となるだろう。


「そう不安がるでない」

「しかし――」

「あやつとて奥の手のひとつやふたつは持っておろう。敵の姿を思い出してみよ」


 言われ、シテンの姿を思い返す。

 これまでとは打って変わった蜘蛛の様な肢体は、スズランには大きな脅威に映ったが、


「随分と余裕がなさそうであったろ? 本体の方もボロボロじゃ」


 言われてみれば、戦いの中で傷一つ受けなかったシテン。

 だが、肢の奥にあった身体の外套は破れ、その姿を曝け出していた。


「影のがアレを追い込むのに成功したからこそ、様相が変わっておるのじゃろう。それに、焔のは“七天時代”からの襲名者じゃ。余計な心配は要らぬ」

「……分かりました。キリュウ様がそう言われるのでしたら」


 足を止めるわけにはいかない。

 移動していない限りは、光天ともげ太の居る場所までもうすぐだろう。

 そんな二人の背後で衝撃波が轟いた。


「なんじゃ――!?」


 咄嗟のことに後ろを振り返る。

 見ると、煌々と燃え上る赤柱が立ち昇っていた。

 これは――


「……焔のか?」


 火柱から連想するのは彼を除きここには存在しない。

 エルニドの能力と考えるのが自然だ。

 その直後、森の中からゆっくりと立ち上がる何か(・・)が見えた。


 ――赤い、深紅の巨体。


 全体的にのっぺりとしたフォルムのそれは、全身が赤い炎で包まれている。

 その大きな腕が振り上げられ、森に向けて叩きつけた。

 爆発する――。


「くうっ!」


 二人のところまで届く熱波。

 まるでエクスプロージョンだ。


「そ、そうか……思い出したぞ! “火神”じゃ!」


 火神――。

 それは、エルニドが焔天と呼ばれる以前の二つ名だ。




 ◇




「オォォ……!!」


 巨人が吠える。

 低くくぐもった声は、シテンの声にも劣らぬ威圧があった。

 横薙ぎに振り抜いた腕が敵の足を折り、本体を殴りつける。


『ギオ――!』


 黒套を肥大させ、巨人の攻撃を受け止める。

 四方から伸びた黒爪が、巨人に突き刺さった。

 だが、巨人は怯まない。

 口を開き、大きく吸い込んだ息を吐き出す。

 ファイアブレスだ。

 強力な肺活量をもって吐き出された火炎が、熱波となって森を焼き払う。

 シテンの身体を浮かせ、後方に後ずさりをさせた。

 柱のような四肢で大地に根を張り、身体の後退を止める。

 やがて、ブレスが止まると再びシテンは巨人に向けて駆け出した。

 鋭い鎌のような先端をもたげ、触腕を首目掛けて振るう。

 巨人の動きは鈍重で、回避が間に合わない。

 直撃を受けた首から血のように炎が噴き出す――が、それだけだ。

 噴き出した液炎は、溶岩のように飛び散り森と大地を焼く。

 エネルギー体なのだろう、受けた首の傷は既に塞がっていた。


「オォ……!」

『グル……!』


 咆哮を上げながら、両者は突進した。

 片や炎の巨人、片や大蜘蛛の妖怪。

 がっぷり四つの取っ組み合いだ。

 とある友人が居ればこう形容しただろう――――妖怪大戦争と。


「オ!」


 巨人が力む。

 膨れ上がった背中から、炎弾が上空へ幾多も打ち上げられた。

 炎弾は直下に軌道を変え、地上へ降り注ぐ。

 ファランクスだ。

 着弾した大地に穴を穿ち、炎上させる。

 数発がシテンの胴体や四肢に直撃をし、平伏させたが外套を突破するには至らなかったようだ。

 シテンの足が、地中へと潜り込む。

 現れたのは、巨人の真下。

 着き上げられた衝角が、巨人の胴体を斜めに貫く。


「ウ……!」


 巨人が苦悶の呻きを上げた。

 エルニドのHPバーに変動はないが、MPに影響を与えているようだ。

 徐々に減っていくMPバーが、一度に大きな減少を見せた。

 直後、傷口から炎が上がり衝角を弾き出す。

 燃え上る炎が傷口を塞いだ。

 しかし、MPは減少したままだ。

 再び、巨人は炎を吐き出し、シテンの身体を後退させる。

 右手で生んだ火弾を握りつぶすと、槍のような形状へと変化し、それをシテン目掛けて投擲した。

 炎槍が、シテンの本体を貫く。


『ルる……オ……!』


 黒套が咲いた。

 炎槍が花火のように周囲に霧散する。

 戦いは、互角のようにも見えるが、シテンに目に見えたダメージはなかった。

 シテンは、四肢を小さく窄めると、それを一息に縦に伸ばした。

 跳躍だ。

 これまで一度も見せなかった移動方法。

 宙を舞い、上空から巨人へと襲い掛かった。


「…………ッ!」


 巨人も敵の動きに反応していた。

 両腕で火弾を作り出し、握り潰す。

 それをさらにひとつに重ね、巨大な槍を作り出した。

 空から降下するシテン目掛け、大炎槍を突き立てる。


「ガ――!」


 大炎槍がシテンの外套を貫き、シテンの黒腕が巨人の頭から胴体までを貫いた。

 上体が傾き、そのままゆっくりと崩れ落ちていく巨人。

 大蜘蛛は、その上に伸し掛かるように接地した。

 その姿はまるで、仕留めた獲物を捕食しているかのようだった。


 パーティーメンバーに送られた三つ目の通知――。



 [エルニドが死亡しました]



 それは、三人目となる仲間の死亡を知らせるものだった。




 ◇




「そんな! エルニドさんまで……」


 通知に目を疑う白法衣の少女。

 リリルは、アイテムによるMPの回復を行いながら、同時にもげ太の回復を努め上げた。

 既に少年に掛かっていたデバフは、効果時間の経過により消滅している。

 両者のHPは全回復していた。


「も、もげ太さん……」


 初心者である少年が、戦闘により仲間の命を失うのはこれが初めてだろう。

 スズラン、ネームレスと来て、ここで最も付き合いも関係も深そうな友人が死亡したのだ。

 適正レベルでPTを組んでいれば、これまでに何度も経験しておかしくないはずだが――――仲間が強過ぎた。

 それが、ここへ来て初めて仇となった。

 動揺しないはずがない。


「だ、大丈夫ですよー! スズちゃんだって復活したんですから、影……ネームレスさんも、エルニドさんもすぐに復活できますから!」


 何の根拠もない励ましではあったが、それは同時にリリル自身に向けた言葉にもなっていた。

 彼女も、どうしてスズランが蘇生したのか、その詳細を知らないせいだ。

 ひとり生き返ったのであれば、ふたりが生き返ったとして何ら不思議はない。

 ただし、それがネームレスやエルニドの能力でなければの話だが。


「それに、シテンが来たってちゃちゃっとわたしがやっつけちゃいますから! ね?」


 そうは言ったものの、それが本当に可能かどうかなど光天本人にすら自信はなかった。

 何せ、PTを組んだ同格の仲間を二人も失っているのだ。

 彼女自身の戦闘態勢が整っているのであればまだしも、今の装備は回復を重視したヒーラー用のセット。

 それとて生半なレアリティではないが、到底全力の戦闘に耐えきれる代物ではない。

 だが、ここで弱音を吐くわけにはいかない。


「うん、“リリルビーム”があればへっちゃらです! 何せ、あのネームレスさんがガタブルしちゃうくらいの威力です!」


 精一杯に強がり、もげ太を励ました。

 だが、反応はない。

 不安に思ったリリルが、少年の肩を抱こうと腕を伸ばす。


「……え?」


 指が肩に届こうという寸前、少年のアバターが消失した。

 何が起きたのか分からないという彼女の目に、一行の通知が飛び込む。



 [もげ太がダイブアウトしました]



 心を、ざわめきが埋めていく。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ