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散りゆく影

2016/09/22

改稿しました

 



 ネームレスは自身の能力に疑問を抱いたことがあった。

 “影天”の二つ名を与えられ十二天に加わったことで、【影】という稀有な能力が一般に浸透したものの、詳細を知らないプレイヤーにとっては光や闇と同様、[上位属性]と認識されている。

 本人もそう認識をしていたのだが、他の十二天と実際に共闘したことによりその考えを改めた。

 例えば、焔天は火、光天は光属性を主に使用するが、使役(・・)をしているわけではない。

 火球を放てば、それは真っ直ぐに敵に向かって飛翔し、命中をすれば爆ぜる。

 そこに火球自体の思考はない。

 無論、ネームレスも影に思考などなく、自らの思考のみで操作を行っていると解釈していた。

 それを変えたのが、この能力だ。


「影分身――」


 影の一部を実体化させ、自分の複製――顔から双剣まで黒一色のネームレスをもうひとり誕生させた。

 戦闘能力は本体に遠く及ばないものの、影はこちらの意を汲んで最大の成果を上げようとする。

 その行動は、まさに“AI”のものだ。


「いけ!」


 影の分身は、黒影の双剣を振りかざし、(シテン)へと斬り掛かった。

 動きは直線だけではない、敵の攻撃を認識すれば回避または防御を試み、敵が防御姿勢を取れば薄い部分を狙う。

 その全ての制御を術者が行っているわけではない。

 影は影。その場、その時の最善に従った取捨選択をしている。

 従って、ネームレスは分身に思考を割くことなく自分の戦いを実行することができるのだ。


「双影牙!!」


 分身に気を取られている敵の隙を伺い、剣撃を叩き込む――が、防がれてしまった。

 外套に攻撃を無効化されるのであれば、フードの奥――顔面であれば通るのではないかと試したのだが、その部位に対するガードが厚い。

 やはり、ここが弱点なのか。


『ギ――』


 攻撃を防いだところに反撃が飛んでくる。

 その反撃を往なしたのは、黒影の双剣――分身アバターだ。

 今度は敵の隙を縫って、ネームレスが反撃を行う。

 この戦い方は、魔物使い(モンストレイナー)人形師(ドールマスター)召喚士(サマナー)といった使役職の戦法だ。

 彼らは、術者の命令を実行するプシュケ――AIによって自動制御をされている。

 よって、ネームレスは自身のクラス≪シャドウレイダー≫をテイマー職にカテゴライズしていた。


「ちっ、似たもん同士ならと思ったが――やっぱ、そう上手くはいかねーか!」


 分身を解除し、元の影へと戻した。

 本体能力の高い彼にとって必ずしも必要な方法ではない。

 むしろ、オブジェクトからAI化してしまうことで耐久が発生してしまい、マイナスになる面もあった。

 もし、撃破されてしまえばペナルティタイム――影の使用不可が課せられる。


『――!』


 分身が消失したことで、敵のターゲットがネームレスひとりに絞られた。

 先は対話を行うような様子を見せたが、一度本格的な戦闘に移ってしまえばそういった気配は感じない。

 互いに生きるか死ぬか、の二択だ。

 ならば加減の必要はなし――ネームレスは、使用する能力を一点に集約する。


「見せてやるよ、テメーの業をな」


 同じ物質、例えば石で同じ石を割ることは可能。

 必要なものは質量、あるいは速度。

 よって、ネームレスはその両方を同時に行使した。


「善は善性、悪は悪性。其の霊魂を秤にかけ己が業を知れ」


 唱える。

 影が固形化し、錐を作り上げていく。


「はは……こいつがテメーの業か? 大したもんだ」


 出来上がったのは、ネームレスやシテンよりも遥かに巨大な錐。

 同質の質量は相手の数十から百倍以上あるだろう。

 それを、ネームレスは腕を振って堕とした。


「じゃあ、死んで悔い改めろ――六転七生(カルマ)





 ◇





 屈強な大剣使いは顔を上げた。

 遠くから轟音と振動が届いたせいだ。


「今のは……?」


 向きはちょうど身体が向いている先――シテンの方向だ。


「…………くっ」


 拳を堅く握り、自身に冷静を言い聞かる。

 PTリストからスズランのHPが消失して以来、数分が経過していた。

 白花と呼ばれるほどのプレイヤーが、まさか三天が同道する戦場において落命するとは。

 余談を許しそうにない戦況、一刻も早く合流を果たす必要がある。

 こうして、戦線を離れている現状がもどかしい。


「いや……焦るな」


 そう口に出し、もう一度冷静を言いつけた。

 不安になるのは、仲間を信頼していない証拠だ。

 今は自分にできる最善に努めるべき。

 視線をアイテムアイコンに移す。

 もうじき、回復POTのクールタイムが終わる時間だ。


「んっ…………ふぅ」


 明滅するPOTの消失を確認し、すぐさま次のPOTを一息にあおった。

 ヒーリングサークルの効果はもとより、渡された【魔法少女.CO.LTD】と刻印された謎の特製POTの性能は抜群。

 HPは現在6割程度にまで回復している。

 受けたダメージが大きく、ライフゲージも最も短いが、最大HPからパーセンテージを計算すれば既に仲間と同等以上まで回復したはず。

 これで、いつでも戦線復帰は可能だ。


「よし」


 男は静かに柄を握り締めた。

 PTリストを見るに、まだネームレスやキリュウ、ラミナのHPは安全圏にある――が、油断は禁物だ。

 スズランの死亡通知がそれを物語っている。

 合流を急ぐべきか、このまま防衛線を維持するべきか。


 エルニドが静観をする中、PTリストにあった灰色のバーが、わずかな赤ゲージを持って再び点灯した。




 ◇




 ネームレスは戦闘の最中にありながらも、仲間のゲージを確認し安堵の息を吐いていた。


「はっ……どうやら間に合ったみてーだな」


 全力の攻撃に確かな手応えを感じながら小さく呟いた。

 キリュウがスズランの蘇生に成功したのだろう。

 体力的に戦闘に戻るのは厳しそうだが、死んだままというのも寝覚めが悪い。


「ま。一度はキヨウに飛ばされた俺が言うセリフじゃねーか……」


 その結果、戦天という最大戦力のひとりを欠いてしまったことにもなるのだが。

 それでもまだ、信頼できる仲間は残っている。


「ちっ……俺としたことが……ドジ踏んじまったぜ」


 ネームレスは視線を下げ、自身の状態をゆっくりと見下ろした。

 シテンの触腕が右胸に刺さっている。さらに体内で枝分かれした突起物が、皮膚の至るところから突き出ていた。


「これぞ植物人間……ってか? 笑えるな……」


 口から掠れた笑い声が漏れた。

 身体から樹木が成長したらこんな形になるのか――そんな想像が一層の寒気を与えてくれる。


『………………』


 眼前に立つ、シテン。

 ネームレスの六転七生によって外套を損傷し、フードの奥に隠れていた顔の一部を露出していた。


「それがテメーの面か……? ハッ、皮肉な面してやがる」

『………………』


 シテンは無言で佇んでいた。

 顔を見られたことに対しても、何ら動揺を見せることはない。

 これまで見えていなかった双眸が、無感情にネームレスを射抜くのみ。


「けど……俺の攻撃はテメーに届いた。アイツらにヤられんぜ? ……ははっ!」


 精一杯の負け惜しみを放つ。

 それが癪に障った――なんて感情などこの敵にはないだろう。

 しぶとい虫に止めを刺す。

 そんな容易さで、シテンは反対の手で獲物を貫いた。


「――がはっ!」


 飛沫のエフェクトが遠くまで飛び散る。

 それきり、四肢は動かなくなった。

 正常なシステムであれば、表現されない残虐性までもが再現されている。

 そうしてシテンが腕を抜くと、支えを失ったアバターは玩具のように地に転がった。




 ◇



「そんな、まさか……」


 ネームレスの死亡は、通知によりパーティを組むメンバー全員がほぼ同時に知ることとなった。

 その事実は、スズランの蘇生を喜ぶ以上に仲間に衝撃をもたらした。


「……嘘でしょ……?」


 単に、十二天の死――という意味合いでの衝撃の大きさではない。

 いや確かにそれも、残る十二天にとっては大きな意味を与えはした。

 この敵を相手に、彼らですらも油断は許されないのだと。

 しかし、ネームレスを慕うスズランにとって――蘇生をし、戦いはまだこれから、と息を巻いていた彼女にとって特に衝撃は大きかった。


「スズラン! すぐに下がるぞ!!」

「あぁ……そんな……彼が……」


 自失仕掛けた彼女を、キリュウが叱咤する。

 つい先ほどとは真逆となった立場に苦笑を浮かべる暇もない。

 まもなく、敵はここへとやって来るだろう。


「しっかりせんか! ここで再びあやつの爪に掛かり、それで影のが喜ぶとでも思うておるのか――!?」

「キリュウ……様?」

「この世界ではいくら死んだとて、決して居なくなるわけではない! それは、おぬしも知っておろう!!」

「は、はい……」


 スズランが膝に力を込めて立ち上がった。

 ネームレスには帰還を尋ねる選択肢がポッピングしているだろう。

 付き合いの長い二人だが、こんなスズランを見るのはキリュウとて初めてだった。

 むしろ、先の少女のように、ネームレスがやられたら怒り狂うとさえ思っていたのだ。


「後方には、焔の――光のも控えておる。急ぎ防衛線を張り直すのじゃ!」


 今、接敵されれば、為す術なくネームレスの後を追うことになるだろう。

 死返玉を使用したことで、少女は戦う力をほぼ失っていた。

 スズランも、そのことを知っているからこそ彼の蘇生を提言することはできない。

 そんな彼女とてHPはレッドゾーンのまま。

 死亡中はクールタイムが進まないので、もうしばらくはPOTを飲めないのだ。


「取り乱して、ご迷惑を……」


 すぐさま、スズランも退却に移る。

 迫り来る敵意が、残り猶予の短さを告げていた。

 このままでは、退却もままならない。


「ご心配なく、わたくしが援護します!」


 そこに現れる仲間が居た。

 敵意に向けて装機銃を照準するエルフの女性だ。


「おぬし……銃のか!」

「銃……」


 思いも寄らぬ呼ばれ方に、極短の返しをしてしまう。

 焔の、影の――ならまだしも、よもや獲物の名で呼ばれようとは。


「いえ。もはや、何でも構いません。その遊女を連れてすぐに後退するのです、和服ロリ!」

「わ、和服ロリ――!?」


 さらに酷い呼び名を受けたことに、少女はショックを隠し切れなかった。

 輪を掛けて酷い呼び名の彼女に関しては、自失が抜けきれないままで良かったのかもしれない。

 その上位にある花魁を自称しているのだから、ある程度は許容するのかもしれないが。


「ええい、呼び名については後じゃ! 下がるぞ!」


 そうして。

 装天に殿を任せ、三人は後退をした。

 すぐそこまで迫る敵に、恐怖と憎悪を抱きながら。




 ◇




 太刀を担ぎ上げ、エルニドは疾走していた。

 仲間の危機を前に、もはや合流を待つ理由もない。

 もげ太を光天に預け、戦場の仲間の元へとひた走る。


「……なんだ?」


 違和感を受け、エルニドは速度を落とし、停止した。

 制止をしたことで、より強く異変を認識することができた。


 ――揺れている。


 踏み出した足に小刻みな地響きが伝播している。

 振動は規則的に、そして、徐々に大きくなっていた。

 即ちこれは、


「近付いてるのか……?」


 擬音で説明すれば、ズシーンズシーンというのが適切か。

 過去に聞き覚えのある、巨大なネームドモンスターの足音にも近しい。

 その振動は大きくなるに連れ、やがて身体を揺らすまでに至る。


 ――近い。


「!」


 がさりと茂みから飛び出してくる小さな姿。

 振袖をなびかせ、くるりと宙で反転する。

 音もなく着地を決めると、ちらりと視線だけをこちらに向ける。

 そして、こちらの姿を確認するや否やこう告げた。


「む――!? 禿のか!」

「誰が禿のか――!?」


 キリュウだ。

 無論、少女がこの振動の原因ではなく、先ほどよりもどんどん距離を詰めてきている。


「失敬、少々言い間違えた! 禿……焔の!」

「故意なんだな――!? そうか故意なんだな――!?」

「ちょっと、無駄話は後にして!」


 緊張感のない会話に、すぐ後から現れた長身の女性――スズランは余裕のない声を上げた。

 エルニドは、我に返り彼女に言葉を返す。


「白花、無事だったのか!」

「無事……とは言い難いけどね!」


 ここに辿り着くまでにある程度立ち直ることが出来た彼女だが、経緯を何も知らないエルニドとしては仲間の合流を喜ぶばかりだった。

 思っていたよりも早い合流は、考えるまでもなく苦戦を意味している。


「来ます!」


 合流した三人目、ラミナが弾装を交換すると、大きな薬莢が音を立て地面に転がった。

 直後に到来したのは、陽を遮る影――。


「上か――!!」


 見上げると黒い塊――それが急激に大きく、急速に接近していた。


「ぬぅおっ――!?」


 驚愕に目を開きながら、エルニドは脊髄反射による横っ飛びをした。

 黒柱は轟音を立て、地面に深々と突き刺さる。

 そのまま立っていれば身体に穴が開くどころかぺしゃんこにされていただろう。降ってきた柱は、それくらいの質量を伴っていた。

 光沢がなくわずかに緩い曲線を描く黒柱は、どこか蜘蛛の足を連想させる。

 さらに立て続けに降ってくる黒柱をかわし、エルニドは謎の振動の正体を間近で確認した。

 そして、新たに疑問が生まれる。


「な、なんだこれは――!?」


 つまり、この謎の黒い柱について。


「分からぬ!」


 その疑問を、キリュウは一刀両断にした。

 何か情報を掴んでいれば既に対応していることだろう。


『……オ……オ』


 くぐもった唸り声が届く。

 斜めに切り立つ柱は、全体をわずかに震えさせるとゆっくりとその質量を宙に浮かべ、一定の高さまで戻ると再び遅い掛かってきた。


「飛べ!」

「言われずとも!」


 茶煙を巻き上げ、地に深々と突き刺さった。

 どうやら交互に振り下ろされているらしい柱の数は、合計で四本。

 数としてはこちらと同数なのでさほどではないが、問題はその回転速度だ。

 人が走るときに足を動かすような速さで立て続けに振り下ろされる柱。そしてその威力は一撃で致命傷となり得るだろう。


 ――なるほど、これに追いかけられれば百計に逃げの一手が書き加えられるのも致し方あるまい。


「なんて感心してる場合か! お前らシテンと戦ってたんじゃないのか――!?」


 今も連続して襲い掛かっているこれは、どう見ても柱――いや、巨大生物の足だろうか。シェンなんたら。

 あるいはどこか神秘的でかつ腐敗大気に満ちた森で遭遇する超大型ネームドモンスターなら、エンカウントした落ち度を踏まえてもまだ納得できるか。

 しかし、この【ディフル樹海】にそのようなMOBは生息していないし、そも見た目の材質自体がゴーレムのような無機物に近い。


「これがシテンです、デコ助!」

「誰がデコ――――いや、禿げてないのか。うむ」


 にわかには信じ難い解答だが、それよりも重要な事実がエルニドにはあった。


「ふざけてないで奥を見なさい!」


 ズランが指し示す先――つまり、その黒柱が結ばれる根本を一同は見やった。

 そこには、さらに四本の柱を曲げて宙に浮いた塊。

 まだ記憶に新しい黒布を纏った、シテン本体と思しき存在がある。


「確かに……それらしいのが見えるな」


 外套の下の一体どこにこんな質量を隠していたのか――思わず平常運行に戻ってしまうほど違和感を受ける光景。

 異空間か、はたまた四次元なんたらにでも繋がっているのだろうか。

 しかし、こうして本体が見えているのであれば、何か打つ手のひとつくらい見当たりそうなものだが。


「端的に申し上げると、攻撃がほぼ通りません。百聞は一見に如かず――貫きなさい!」


 事情を知らないエルニドの内心を察したように、後方のラミナが構えた長銃から一道の光を射出する。


「ちなみに、こちらは解説用プラズマイーリス(エクステンド)です」


 撃った後、丁寧に技名の捕捉を加える頃に光弾がシテンの本体に届いた。

 ばつん、と大きく破裂した衝撃でわずかにシテンの足が止まるが、すぐに何事もなかったように前進を再開する。


「――と、このような具合です。ご理解いただけましたか?」

「ふむ。まるで効いた様子がないな」


 シテンの攻撃を回避しつつ後退を行う。

 さらに遠距離攻撃を加えながら会話ができる辺り、さすがは二つ名持ちの集まりと言えた。


「時間が乏しいので省略しますが、エクステンドで初めてノックバックといった付加効果がわずかに有効、未満は無効化されます」

「よく分かった」


 敵の仕組みは分からないが、ただ戦うだけならばこれ以上なく単純明快な説明だった。

 目で見た状況を踏まえると、エクステンドでも足止め程度の効果しか得られないようだ。

 となると――


「残るはリミテッド――いや、アンリミテッドか?」

「さすがは、名高き焔天殿。ご明察です」


 推測が見事的中したまでは良いのだが、受けたのは途方もない要求だった。

 研鑽に研鑽を重ねた果てに辿りつくか否かのアンリミテッドスキル――――それが撃破条件のMOBなど、いまだかつて聞いたことすらない。

 幸いにも、習得者は目の前にいる。


「それならば戦天が」


 言いかけた言葉を飲み込んだ。

 どうして彼女がいながら敵が健在なのか。

 そして、最も強力なはずの彼女が回避に専念するのみで、一切の反撃を行っていないのか。


「……何かあったのか?」

「む? あぁ、そのことか。焔のは離れておったしのう」


 少女は、事情をかいつまんで説明した。


「なるほど、そういうことか」


 蘇生による十種神宝の封印。

 シテンと渡り合える少女が無力化されているという事実を。


「面倒なことになったな。……形天(あの男)もとんだ食わせ者だ」


 エルニドは、今さらながらに男の腕試しの意味に気付いた。

 あのダミーは、アンリミテッドスキルでしか攻略できないように設定されていたのだろう。

 彼は、その選定を行っていたのだ。


「して、焔のは使えるのか?」

「……使えなくはない。――が、この状況では使用できそうにないな」


 聞く場所によっては、目を見開いて驚いただろう。

 戦天であれば撃ち比べを申し出たかもしれない。


「そうか。ならば仕方あるまい」


 使えるのに使えない。

 そんなエルニドの発言に、キリュウは潔く納得をした。

 例えば、キリュウであれば全神宝を展開する必要があり、使用後にはクールダウンが生じる。

 焔天の能力にも大きなリスクやデメリットがあるのだろう。

 アンリミテッドスキルは、強力な威力と引き換えに様々な制約を受けてしまうのだ。


「このままお前たちは下がっていろ」

「おぬしはどうするのじゃ?」

「決まっている。ここでアレ(・・)を止める」


 後退をやめ、エルニドはシテンに向き直った。

 二者の距離が急速に詰められていく。


「……相分かった。おぬしも決して死ぬでないぞ」

「あぁ。別に倒してしまっても構わんのだろう?」

「その台詞は死亡フラグだからやめおけ」

「そうか、ならば期待に応え――ってこらこら」


 苦笑するエルニドを残し、二人が後方に消えてゆく。

 戦天も白花も、既に戦闘可能な状態でないことを自覚しているのだろう。

 この場に残ることが返って焔天の足を引っ張ることになりかねない、と。


「お前も下がっててくれ」

「……良いのですか?」


 答えたのは、エルニドの後部で銃を構えていたラミナだった。

 一行の中で二番目に残HPが多いため、自然と足止めを買って出た。


「お前まで残ったら、誰があの二人を守るんだ?」

「……承知しました。ご武運を」


 そうして、装天も二人の後を追った。


「さて」


 単身となったエルニドがシテンと対峙する。


「これで遠慮をする必要もなくなった。年貢の納め時だぞ? シテンとやら」


 剣――【烙炎の大太刀】を構えた焔天の身体が、深紅のエフェクト――否、燃え盛る炎に包まれていた。

 炎はどんどんと勢いを増し、やがて大樹を越える高さにまで炎上する。


「お……お……!」


 大きく燃え盛った炎は、徐々に形を整え始める。

 先端が二つに分かれ、両側に垂れた。

 そして下端も二つに分かれると、その二本が炎の肉体(・・)を持ち上げていく。まるで足だ。

 最後の炎上を以って生まれたのは、首――そして顔だ。

 中央に空いた二穴が碧に輝き、その下に生じた亀裂が真横に割け、


「オオオォォォーーー!」


 咆哮をあげると、全身から熱波が吹き荒れた。

 生誕した灼熱の巨人は、己が敵を見定める。

 燃え盛る自分とは異なる、漆黒の敵。

 巨人は怒号をあげ、敵へと襲い掛かった――。




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