アンリミテッド?
2016/9/22
改稿しました。
「|全軍、突撃開始です≪ヤ●ャスィーン≫!」
「俺ひとりですが、何か――!?」
「問題ありません! あなたはただ気高く咲き、そして美しく散るのです!!」
「アカン! それ、アカンやつや!!」
銃を斜めに構えた彼女に年代疑惑が生じた。
横暴な上官? 命令を受け、健気に敵に突貫するネームレス上等兵。
バックアタック、設置技、範囲焼、搦め手、比較的オールマイティにこなせる彼だが、やはり得意なのは近接戦。
伸ばした影を通じ、敵の眼前まで高速移動を行う。
「もらったぁ――!!」
『ギゥ!』
視界に広がる黒は外套、まさに目と鼻の距離。
「あ……」
剣を振るには、少し近すぎた。
シテンすらも反応が遅れている。
「えーっと…………影パンチ!!」
影で練った巨大な拳で敵の顎を斜め下から打ち抜いた。
割といい角度で決まり、敵の身体が二、三歩後ろによろめく。
「ほう? 影……なんですって?」
背後から刺さる重圧が痛い。
咄嗟に技名が出て来なかったせいだろうか。
『……グォ!』
そんなこんなの間に、敵の顔がこちらを向いた。
絶好の追撃の機会を失い、敵がわずかな隙を突いてくる。
「迂闊――背後、危険です!」
「おわっ――!?」
背中に衝撃。
榴弾がネームレスに命中し、爆風が身体を前方に吹き飛ばした。
直後、地中から伸びてきた黒い鉤爪がネームレスが立って居た場所を薙ぎ払う。
これまでに見られなかった攻撃、地面伝いに仕掛けて来たのだろう。
紙一重の援護(?)で危機を回避し、飛ぶ勢いのまま双剣を振りかぶる。
「こんのクソがぁ!」
それはどちらへ向けた台詞なのか。
ネームレスは眉を吊り上げながら双剣を振りかざし二枚の影刃を生み出した。
一枚を鉤爪のついた触腕に向けて射出――節の部分で切断し、もう一枚は敵本体――シテンの頭部目掛けて発射する。
『ギ……ッ!』
人体で言えば顔面――と思しき場所に直撃。半月状のさらに半分を残す形で突き刺さる。
『フ……ルオォォォ!』
たまらずシテンが怒声のような声を上げる。
勢いよく左右に頭をぶんぶんと振ると刺さっていた影刃はガラスのように砕けた。
何事もなかったかのように猛進してくるシテンに対し、ネームレスは再び影刃を生み出した。
「このクソが!」
『ルオォ!』
「このクソがぁっ!!」
『ルオォ!!』
「このクソがぁぁぁーーっ!!!!」
『ルオォ!!!!』
都合三度、影刃が砕かれる。
そして、攻守が入れ替わり、敵の触腕が喉元に伸びてきた。
『グルォ!』
「どらっ!」
『グルォォ!!』
「でやっ!!」
『グルォォォ!!!!』
「おるあっ!!!!」
ネームレスは、敵の反撃の全てを影壁により防御した。
傍目は、手による指揮で影の挙動を操作しているようにも見える。が、実際はそれよりも速い思考による半自動制御に近い。
「だあぁ! 向こうの攻撃も何とかなるが、こっちの攻撃も通らねぇぞ――!?」
叫び、ありったけの影刃を四方に飛ばす。
本人が気付いてないだけで、異常とも言えるレベルの攻防なのだが不服だったのだろう。
近く巻き添えを食らったディープウォルフは、哀れ一撃で胴体を切断されていた。
しかし、シテンに飛んだ影刃は衝角にて突き割られる。
理論的に考えても物理的に考えてもどちらも同じ理屈だ。
余程の強度差や質量差がなければ、同等の物質をぶつけたところで一方が勝つことはない。
「攻撃の手を緩めてはいけません、剣を取って戦うのです! ――死ぬまで!」
「いや、死んだらダメだろう――!?」
「大事の前の小事と知るのです!! ハイルもげ太ぁ!!」
「うわぁ、最後だけ否定できねー!!」
やはり突撃するしかなさそうな状況に嘆息を覚えながらも、大人しく敢行した。
こちらの攻撃が通らないのはまだしも、
「くっ!」
爪がわずかに身体を掠める。
敵の攻撃が影ではなく生身の部分に迫ると背中を冷たい汗が伝った。
こちらの攻撃は通らず、しかし、直撃を受けるとただでは済みそうにはない。
何という理不尽な戦闘か。
「このままじゃジリ貧だぞ! 何か策はねーのか――!?」
「あれば既に単独にて討伐を完了しています! そして、ジリ貧は自業自得です!! 切り札である戦天を戦場から遠ざけるという悪手を打ったあなた方の!」
「仕方ねーだろ、蘇生のためだ! つか、悪手ってどういうことだ!!」
ネームレスは、後方ラミナを狙っていた敵の攻撃を影での手で払いながら返答に疑問を抱いた。
キリュウを遠ざけることが悪手――。
それにより考えられることは、
「あのクソガキならコイツを倒せる――そういうことか?」
「その問いに肯定を返します!」
戦天ならばシテンの防御を貫通または無効化できるのか。
それは、十種神宝の力なのか、それとも――。
「今は戦闘中です、議論をしたくば時間を稼ぐ他ありません!」
「はいはい、わかりましたよ――っと! 飲み干せ、影流羅ぁ!」
ネームレスの手が触れた大地から急速に漆黒の絨毯が広がった。
「もういっちょ、潜影絡手!!」
シテンを取り囲むと無数の手が生え、影の中にその身体を引きずり込でいく。
『ギ……る……!』
シテンが足掻くたびに影の手は千切られ引き裂かれるが、次々と新たな影手が生まれると、休むことなく敵の身体を捕縛していった。
「っはぁ……はぁ……どーせ効きやしねーだろうが、こんだけサービスしときゃしばらく身動き取れねーだろ」
影流羅は一対多の戦闘に用いる範囲殲滅用、潜影絡手も拘束力以外にも攻撃力を兼ね備えるスキルだ。
どちらも大技、それをたかが足止めに使うのは癪ではあったが……敵が敵だけに出し惜しみしている余裕がない。
「グッジョブです――下僕!」
「誰が下僕だ――!?」
びっと立てられた親指に、逆向きの親指を返す。
「他に誰がいますか? 戦天が蘇生に割いている時間を、下僕が稼ぐのです! さぁ、もっと! もっと!!」
「無茶言うな! 範囲技がどんだけMP食うか知ってんだろが――!?」
単体スキルに比べると範囲スキルは消費MPが大きい傾向にある。
その攻撃範囲は広ければ広いほど差は顕著だった。
そういう観点では、ネームレスが放った影流羅は超がつく範囲攻撃に分類しても差支えがない。
次の回復POTにMP以外の選択肢は無しだ。
「それにだ。あのガキが戦線復帰するのは助かるが、手放しにゃ喜べねーよ」
「…………は? それは、何故です?」
「あー。テメーは知らねーんだったな。しばらく戦えなくなるんだとよ」
「それは何を根拠に? 適当ぶっこくと脳漿ぶちまけますよ? どこかに封神されたいのですか?」
「こえーっつの!」
ファンタジーでいてどこか微妙にリアルな単語を耳に、ネームレスは身震いを覚えた。
具体的にどこまでが描写再現されるのか不明として、一応、一部機能に年齢制限は設けられていたはず。
「ともあれ、説明を簡潔かつ明快に行うのです。さもなくば銃殺刑に処しますよ?」
「なんでだ――!? あぁ、めんどくせぇ、道具使用のペナルティだよ! 本人からちらっと聞いただけだが、蘇生使うと武器が封印されてしばらくまともに戦闘ができなくなるて話だ!」
「…………Pardon?」
虫を見るような目線に、ネイティブな発音。
本来は、非常に丁寧な聞き返しの意味を持つ縮語なのだが、彼女の使い方はその真逆であろう。
日本語も、時には丁寧な言葉遣いの方が人の心を深く抉ることもあるのだ。
「だから、蘇生ペナで――」
「二度も言う必要はありません」
「……………」
――どうしろと?
などと言いたげなネームレスだが、発現をするまでもなく何故か無情に照準を突きつけられた。
まるで敵に捕縛された敗残兵のような扱われ方だ。
本当に、背中を預けたまま戦闘を続けていいものやら。
「今すぐに彼女の蘇生中止を提言しましょう。他に活路はありません」
「そりゃ無理だろ」
「口答えは不要です」
「や、言って聞くよーなヤツじゃねーし……」
「それは困りました。あなた方が受けた試練の結果――シテンを討滅できる可能性を持つのは、戦天およびもげ太少年のみと報告を聞いています」
「もげっち? あー……」
彼女が言っているのは、クジョウにやらされたダミー戦のことだろうと推測する。
六人全員がそれを受け、無事クリアしたのはもげ太とキリュウのみだ。
「……そっかそっか。思い出したぜ」
「もげ太少年は、既に戦線離脱状態。そもそも戦う術だけを持っていたところで技術が伴っていません。そして、頼みの綱の戦天は――」
「あー、そーかい。試練に落ちた俺らじゃ役者不足――って言いたいわけね」
ネームレスは笑った。
銃を影の手が払いのけ、凶悪な笑みをラミナに向ける。
「そりゃ、ちと俺を舐め過ぎだな」
笑み内にほんのわずかに込められた殺気に気付かなかったラミナ。
ネームレスは、言葉を遮り続けた。
「要は、俺らがアンリミ持ちかどうか試してたんだろ?」
「……意外ですね。推察の通りです」
「もげっちのおかげで疑心暗鬼だったけどな。あのクソガキのなら……身体で味わったことがある」
ネームレスは、メルニカの街での戦闘を思い出した。
味わった威力だけならば、強力なリミテッドをさらに強力にした、という表現で片が付く。
しかし、焦点はあのスキルが備えていた特性か。
「俺の影をあっさり貫いていきやがった。今まで壊されたことなんてなかったんだけどな。しかも、セカンドシティの建造物の耐久までも一瞬で全損だ」
「……そんなことが? なるほど、得心がいきました」
シテンの能力が、ネームレスと同等の性質を有するのであれば同じ理屈で貫通するはず。
それが、彼の“シテンを討伐できる可能性”の推察根拠だ。
ラミナは、「そうですね……」と頷きつつ、
「確かに。アンリミテッドスキルの特性を踏まえれば、そのような現象が生じる可能性が非常に高いと思われます」
可能性を示唆する言い方なのは、そういった前例がこれまでにないのだろう。
十二天が街中で戦闘を行った話などこれまで見たことも聞いたこともない上に、リミテッドやアンリミテッドスキルまでも惜しみなく披露したのだ。戦天――修羅姫以外では考えられまい。
いや、身近にもうひとり存在するか。
「加えて理解しました。つまり、あなたもアンリミテッドスキルを習得されているのですね?」
「ん?」
「失礼いたしました。これまでの無礼な発言、どうかお許し願います」
一転して、ラミナは急に慇懃な態度を見せた。
ネームレスは、そんな彼女に鼻の頭を掻きながら告げた。
「いや、使えねーけど?」
「…………(じゃこん!)」
「無言で突き付けるな!!」
手慣れた動作でトリガーに指をかける女性を宥める。
「……わからねーんだよ。そのアンリミテッドかどうか、ってのがな」
リミテッドスキルやアンリミテッドスキルは、スキル欄にそう記されているわけではない。
あくまでも、分類上は≪エクステンドスキル≫なのだ。
ただし、通常の拡張スキルとは、発色するスキル光が異なる。
例えば、攻撃スキルは赤、回復スキルは緑に輝くのに対し、拡張スキルは金色に輝く。
これは、その能力を完全習得した証だと思われていただのだが、そのさらに上に発現した能力がある。
それがアンリミテッド――無色だった。
「俺の影は常時発動型だ。だから、影をメインにしたほとんどの攻撃が発光しねぇ」
彼の能力は、使用時以外においても実際は常時発動していた。
MPの消耗を避けるため、普段は待機状態――純粋な彼の影として本体に寄り添っている。
つまり、オンとオフではなく、オンとスリープといった間柄か。
必要な時のみ、術者の意に従って具現化をする。
「そういうことですか。しかし、それなら試練の時に試みても良かったのでは?」
戦天のアンリミテッドスキルも、エフェクトを発したのはあくまでも十種神宝。
使用者自身には何のエフェクトも掛かっておらず、どこかで試し撃ちをしたことがあるのだろう。
彼女の言うことももっともではあるのだが、
「あんな怪しい男の前で手の内を晒すアホがいるか?」
「…………仰る通りです」
わずかな間を持って同意するラミナ。
一応は、彼女の上役のように見える男だが、そんなあっさり納得をしていいものなのか。
「どっちにしろ、言ったって聞くよーなヤツかよ。なら、大人しく見てろって」
「そこまでおっしゃるのであれば」
「もし、俺がやられたらもげっち連れてとっとと逃げてくれ。そんで十分だ」
彼女が頷いたことを確認し、手を平らに振って後退を促す。
まずは、戦天と合流をするのだろう。
気配が遠ざかったことを確認し、向き直る。
またとない強敵との腕試しの機。
ネームレスはシテンの拘束を解除し、自分の元へと引き寄せた。
「さーて、と。んじゃま、いっちょやってみよーかね」
そして、影に新たな命令を下した。




