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影装共闘!

2016/9/22

改稿しました。

 



「くはは! どうじゃ、我らのチェインリミテッドの味は――!」


 戦天と白花による同時発動スキル――戦花繚乱。

 アンリミテッドスキルに勝るとも劣らない威力を秘めているのだろう。

 雲を貫くほどの衝撃がそれを物語っていた。


「…………」


 ネームレスは、遥か高空へ昇っていくエネルギー波を無言で見送った。

 余波が無数の花弁のよう華やかに舞い散る。

 横入りをされた形となったが、拘束中に果たしてこれほどの攻撃を繰り出すことはできただろうか。

 無意識の沈黙が本心を代弁していた。


「……はぁ」


 見上げていた首を降ろす。

 同時に、肩までも落としているように見えた。


「そうしょげるでない、影の。おぬしの援護があってこその戦果じゃ」

「何せ、二人で一緒に詠唱しなきゃ使えない技なの。術者だけじゃとても実戦に耐えられる代物じゃないわ」

「へーへー、さいですか。つか、別にしょげてなんてねーよ」


 ネックである詠唱時間と発動遅延は見事彼が打ち消したわけだが、援護をしたつもりなど全くない彼にとって何の慰めにもならない言葉だった。


「ま、終わったんなら別に構わねーよ。それよか、もげっちが心配だ。とっとと戻ろうぜ」


 終わり良ければ何とやら。

 そう言って踵を返す。


「そうじゃの。光のがついておるゆえ大事ないとは思うが……」

「キリュウ様。わたしも少しくらいなら回復の心得があります。急いでもげ太くんのところへ戻りましょう!」

「おぉ、そうか! それは心強い!」


 来た道を戻るため、三人が背を向けた。

 その刹那――


「――えっ?」


 一同が目を見張る。


「は?」


 視線が集まったのは、スズランの腹部だ。

 そこから何か、黒い異物が生えていた。




 ◇




 熱い――。

 身体の内側から腹をまさぐられる。

 今までに感じたことのない不快感。


「これ……なに……?」


 腹から伸びたソレを、スズランは両手で触れた。

 ……硬くて冷たい異質な何か。

 それが後方に音もなく抜けると、彼女の体力を一瞬で奪い去った。


「あ……」


 身体に一切の力が入らず、崩れ落ちる。

 それきり、身体は動かなくなった。


 ――は?

 ――スズラン?


 間近に居るはずの二人の声が遠くから聞こえてくる。

 エコーが掛かったような残響音。

 彼女は、この状態を経験したことがあった。


 視界の端には、死亡を告げるシステムメッセージが表示されていた。




 ◇




 理解が追い付かなかったネームレスとキリュウは、伏せ行く彼女をコマ送りで見送ることしかできなかった。

 しかし、倒れた彼女の背後に現れた存在を見て、何が起きたのかを瞬時に悟った。


『る……オ……』


 シテンが腕を振る。

 鮮血エフェクトが光とともに散る。


『……ルる……ル』


 シテンの腕が、スズランを貫いていたのだ。

 重苦しい声は笑っているようにも聞こえた。


「まさか……!」


 ネームレスは、一瞬で状況を整理した。

 油断を突かれ、シテンの攻撃を受けた仲間が――即死した。

 レベル245のスズランが、だ。

 先の範囲攻撃によるダメージの大半はPOTで回復されている。

 敵によっては即死攻撃を放ってくるケースもあるが、それはかなり使用状況限られた場合においての話だ。

 今のように通常攻撃でいきなり全損させられるなど、余程のレベル差がない限り成立しないはずだった。

 それも、レベル200台のプレイヤーを瞬殺ではなく、即死など――そんなモンスターの報告など見たことも聞いたこともない。


「……!」


 動揺が行動の自由を制限する中、シテンはゆっくりと間合いを詰めてくる。

 油断さえしなければ問題ないはずの攻撃、しかし、直撃をすれば即死するかもしれない――そんな恐怖が、さらに身体を縛った。

 垂直に持ち上げられた黒い腕が、一瞬にして拡大される。

 あろうことか、腕だけを伸ばしたのだ。

 平面で捉えていたことで距離感が狂い、ネームレスの胸へと迫る。


 〈ドドンっ――!!〉


 着弾音が響いた。

 シテンの腕が側面から弾け、真横に浮いた。

 改めて認識した長さ、10メートル以上はある。


「――っ!」


 銃声で我に返るネームレス。

 装天による援護射撃だろう。

 さらに追い打ちを掛けるよう、数発の爆発音が立て続けに響いた。

 その全てがシテンの身体に命中し、わずかにだがシテンの気が攻撃の方へ逸れる。


「クソがっ!」


 ネームレスは、短剣を――影で出来た巨大な右腕を振りかざした。

 その爪がシテンを捉え、その身体を後方へ大きく弾き飛ばす。


「おい、クソガキ!」

「あ、あぁ――!」


 大声で呼び掛けると、キリュウも自失していた気を取り戻したようだ。


「スズラン……。くっ! おのれ、よくも我が友を!」


 少女の瞳に憤怒の炎が燃え盛る。

 巨大な扇を構え、遠くに着地した敵に向かって瞬発する――その第一歩目。


平手影打(シャドウビンタ)!」

「へぶしぃっ――!?」


 黒い手が少女の頬を張った――つもりだった。

 事前に対シテン用に発動してた影手が大きすぎて、小さな少女の身体をほぼ横殴りで吹き飛ばしてしまった。

 アバターは大地を二、三回バウンドし、やがて大樹の幹に激突した辺りで停止する。


「…………」


 ゆらり。

 少女は、叩かれた頬――というより全身なのだが――を抑えながら無言で立ち上がった。

 逆光ゆえ、その表情から感情は窺い知ることができない。


「あの………………キリュウさん?」


 気付けのつもりが想像以上に激しく入ってしまったことで、ネームレスは恐る恐る名前を呼んだ。

 立て続けに響く、射撃音も耳に入らない。


「…………」


 相手の反応はない。

 PTゆえ直接のダメージは入らないが、接地による微量なダメージは受けていることだろう。

 ゆっくりと、ゆっくりと、無音のすり足で距離を詰めてくる。

 包丁とランタンがよく似合いそうな足取りだ。


 ――危険を感じ取った男は、本能で叫び声を上げた。


「め、目を覚ませ――バカヤロウ!」

「っ!?」


 びくりと、少女の身体が震えた。

 予想外のネームレスの大声に、気を取られたようだ。


「アイツがやられて血が上ってんのは分かる――が、テメーがそんなザマでどうする! 少しは頭を冷やしやがれ!」


 そして、ネームレスは奥を指差した。


「テメーらの攻撃ですら仕留められなかった敵だぞ! んな、ヤケっぱちでどーにかなると思ってやがんのか、あぁ――!?」


 人は、言いしれぬ恐怖を感じると饒舌になることが度々ある。


「む……そ、それは……」


 少女も、言われた内容がもっともなだけに反論も否定もできない。

 怒りに任せたところで、二の舞になっていた可能性もあるのだ。


「たまたま不意と急所を突かれただけだ、落ち着いて対処すれば避けられない攻撃じゃねぇ!」

「う、うむ!」


 何か釈然としないものを感じつつも、キリュウは両の頬を張って気を引き締め直した。

 その顔は修羅姫ではなく、いつもの少女のもの。

 安堵をしたのは男の方だった。


「すまなんだ、影の」

「おう!」

「しかし、この痛み……後で覚えておれよ?」

「お、おう。終わった後でな……?」


 ネームレスは少女の皮肉に対し思わず苦笑した。

 これはメルニカの街での出来事よりもさらに酷い目に遭いそうだ。


「うっし! んじゃ、俺たちもアイツに顔向けできねーような無様な戦いにゃできねーな」

「くく、それならば心配無用じゃ」


 少女の気合も十分。

 そう受け取ったネームレスは臨戦態勢を整える。


「行くぜぇ――」

「ちょいと待った!」

「ってなんだよ――!?」


 いきなり出鼻を挫かれる。


「おぬしに任せたいことがあるのじゃ」

「……その内容は?」

「我はスズランを蘇生(・・)する」

「は? 蘇生だ?」


 信じ難い言葉を無意識に反芻した。

 蘇生――言葉通り、死亡したプレイヤーを生き返らせる方法だ。


「うむ。先ほどのスキル以上に発動に時間が掛かるのじゃが……」


 任せたいこと――つまりは、時間稼ぎか。


「そりゃ構わねーが――いや。そもそも本当にテメーが使えんのか?」


 通常、プレイヤーは死亡すると登録された復帰ポイントに帰還をさせられ、デスペナルティを受けた後、一定時間経過後に復活することができる。

 少女の言う蘇生とは、その過程を無視してプレイヤーをその場で復活させるというものだ。

 実行には、【転移石】以上の超高額アイテム、または一部の稀少スキルによってのみ可能となる。

 前者は、価格以外にも基本的には戦闘中に使用できないといったデメリットがあったり、後者については習得プレイヤーが極端に少ない。

 何せ、純粋なヒーラーですらも容易に習得できるものではないのだ。

 それを、まさかアタッカーである少女が使用できるとは……。


「そう不思議そうな顔をするでない。――これじゃ」


 言って、少女はあるものを取り出した。


「これ……【十種神宝】か?」

「うむ。十種神宝がひとつ――【死返玉(まかるかへしのたま)】じゃ」


 少女が装備する――十種神宝。

 主に扱っている扇状の武器は、十種の内の八握剣。その非展開形態だ。


「効果は名の通り。蘇生じゃ」

「なるほどな。だが、当然リスクもあんだろ?」


 少女は無言で頷いた。

 武器としても優秀な装備に様々な付加効果や能力があるのだ。

 ノーリスクで使用できるはずがない。


「そう険しい顔をするでない。十種にしばらくクールダウンが発生するだけじゃの」

「クールダウン……か」

「そうじゃ。非武装と同様、0ステータスとなる。その間は武装を解除することもできぬ」

「ぜ、0ステだぁ――!?」


 プレイヤーが装備する内、もっとも大きなステータスや付与を受けてるのが武器だ。

 キリュウはその武器を、強敵との戦闘の最中に外す――そう言っているのと同義となる。


「じゃが、問題はない」

「何がどう問題ねーんだよ――!?」


 意味不明な発言をするキリュウに、ネームレスは食って掛かった。


「なに。不意打ちとはいえ、この我をすっ飛ばした男がいるであろう?」


 反して、少女はにやりと笑みを浮かべる。


「あのような敵など物の数ではない。どうだ違うか?」

「なっ……」


 笑みの理由を悟る。

 だが、これは皮肉ではない。

 戦天本人が自身に対して持つ絶対の自信――それに土を着けた男に対する間接的な信頼だ。


「……ハッ、言ってくれんじゃねーか」


 知らず、ネームレスは口の端が上がっていることを実感した。

 視線は獲物を捉え、乾いた唇を舌で濡らす。


「上等だ。テメーは、ソイツの蘇生に専念してやがれ!」


 影天は、少女の返答を確認せず、敵に向かって駆け出した。

 その身体に黒い影を纏って。


「いくぜぇ、天弦――!!」




 ◇




 ネームレスは、再び対峙したシテンと斬り結んでいた。

 敵の攻撃をかわし、こちらの攻撃を叩き込む。

 しかし、ダメージを与えた気配はない。

 見えない敵の双眸が、こちらを捉える――


「おらあっ!」


 寸前のところで、敵の腕――そこから伸びる黒い円錐状の突起を双剣で受け止める。

 しかし、直観がその防御方法を危険だと告げた。


「ちっ!」


 貫かれる。

 瞬時にそう悟ったネームレスは、双剣から手を離し、影による壁を作り出し敵の攻撃を防いだ。


「こいつ……まさか……」


 攻撃を受け付けないだけではない。

 防御までも受け付けない――?


 ――その予感は的中した。


『ルオ――!』


 シテンの衣――黒い外套が爆発的に広がったかと思うと、そこから幾多もの触腕が伸びた。

 さらにその触腕から鋭い爪が無数に生える――先の円錐状の突起もあった。

 その全てが黒一色に染められ、一切の光を反射しない。

 あらゆるものを飲み干そうとする純黒が、ネームレスの視界を埋め尽くす。


 ――装備による防御は通じない!


 直感が正解を告げる。

 敵の攻撃は、装甲を紙の如く貫いていくだろう。先のスズランのように。


「………………は」


 だが、不思議と恐怖はない。

 何故か。

 それは、彼にとって見慣れた(・・・・)色だったせいだ。

 無意識に笑みが零れ、彼は同じ()で迎え撃つ。


「閉じろ――黒棺」


 本来、敵を包囲束縛する影の棺が、ネームレスを内包した。

 シテンの攻撃は全て棺の前に弾かれる。


「やっぱりか」


 短時間拘束の棺が自動解除され、姿を現す。

 限定的だが行動可能なスタンに近しい効力を持つ。


「どういうわけか……俺と似たような能力が使えるようだな?」


 黒い影を行使するネームレスの能力。

 黒い外套を扱うシテンの能力。


『………………』


 シテンが押し黙った。

 気圧されているわけではないだろう――が、同様の力に困惑しているかのようにも取れた。


「急に大人しくなってどうした?」


 影天ネームレス。

 彼は、焔天の火や、光天の光、氷天の氷のように誰もが扱える属性の頂点を極めたプレイヤーではない。

 影天だけが扱うことを許された“ユニークスキル”とも呼ぶべき卓越した力だ。

 実のところ、どうしてそれが使えるようになったのか、本人をも預かり知らない。

 むしろ、初めから使えていた――そう言った方が適切だった。

 生まれ落ちた生命が自発的に呼吸を行うように、影は手足のように動き、常に主に着き従う。

 そもそもが本当に影なのか。

 能力を見た他のプレイヤーたちが、こぞって影天と呼んだことで定着した属性。

 だが以降、誰にも再現、顕現することは適わなかった。


『……ナ……ゼ……』


 シテンが、くぐもった低音を発した。


「あ?」


 到底、発音と呼べるような代物ではなかったが、能力を展開しながらも相手に動く気配は見られず、また攻撃の気配もない。

 だから、ネームレスは相手の挙動を窺った。


『ジャ、マ……ス……る……』

「はあ? まさか、俺になんか言いてーのか?」


 発声器官の持たない生き物が、呼吸器だけで無理やりに音を作り出している。

 そんなような聞き取りにくい声。

 何かを告げているようにも思えたが、聞き取ることはできない。

 ただ、視線を交え合うだけの行為。

 それが戦いなのか、あるいは対話なのかすら区別もできないが、その間を遮るものが飛来した。


「貫け――プラズマイーリス!」


 装天が舞い降りる。

 ブルーライトの激しいエフェクトが、シテンの身体を至近から直撃した。

 目が眩むまばゆさに、ネームレスは腕で視界を覆う。

 腕の隙間から、長身女性の細いシルエットが逆光に映える。


「銃撃……装天か!」


 声が届いたのか。

 シテンの身体を弾き飛ばし、銀糸の向こうから白い顔が覗く。


「装天か、ではありません! 先ほどから敵を眼前にして何をぼーっとしているのですか、黒デク!」

「く、黒デク……?」


 普段の様子とはあまりに異なる刺々しい言葉に、ネームレスは怒ることすら忘れてしまった。


「さぁ、剣を取り戦うのです――そのHPが尽きるまで!」


 危なげな発言を醸しつつ、彼女はひたすら撃鉄を引いていた。

 何が詰まっているのか巨大な薬莢がゴロゴロと転がっていく。


「はあ……」

「はあ? ――返事を習わなかったのですか、この影野郎!!」


 〈ドン!!〉と間近で銃声が轟く。

 方角は敵ではなく直下。

 股の間の地面に開いた穴から煙がくすぶっていた。


「さっ、サー! イエスサー!!」

「誰が(サー)ですか!」

「アイ、マーム!!」


 剣幕と勢いに押され、ネームレスは直立不動の敬礼を取った。

 着き従う影も健気に同じ姿勢で構えている。


「では、共に参りましょう――Go to hell!!」

「そ、そんなとこにゃ行きたくねー!!」


 再び轟いた銃声にネームレスは条件反射的に気を付けの姿勢を取ってしまう。

 こうして、強敵を前に珍妙――もとい、遠近バランスの取れたタッグが結成された。




2016/9/22

迷いましたが、ここからは話の流れが少しずつ変わってしまうので投稿し直すことにしました。

新規の次話更新ではないこと、こちらでお詫びいたします。

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