天が三つで・・・(点点点)
2016/07/31
本文修正しました
その日、UW公式BBSは大変な盛り上がりを見せていた――。
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しんじ:
何を言ってるか分からないと思うが
落ち着いて聞いて欲しい
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トルメロ:
なになにどうした?
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パチの子:
どーせ大したネタじゃないだろ
期待するだけ損
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しんじ:
焔天と影天が仲良くお茶してるのを……
偶然見てしまった
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パチの子:
ぶほっ
おまっ……俺の茶返せw
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無式:
はぁ!?w
なんだそりゃ!!??w
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タライ回し:
無理があり過ぎる
ガセネタ乙
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亀田姉:
ソースはよ
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しんじ:
っ≪画像1≫≪画像2≫
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トルメロ:
ま・じ・か・よ!!!!!!
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銀刺のシンクローネ:
これはこれは……
随分と手の込んだコラージュですね
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聖の人:
おんや?
これはもげ太殿?
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タコメン:
…………は?
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パチの子:
か、神キターーーーー!!!!
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◇
ざわざわ……。
初期街と呼ばれる【ネネムの街】にある酒場は、物静かながらも見えない喧騒に包まれていた。
新規プレイヤーが初めに訪れ、次の街へと進む適正レベルに育つまでは、お使いクエストやら情報入手やら色々とお世話になる場所だ。
お世辞にも上級プレイヤーらしい上級プレイヤーが顔を出すような店ではないそこに、上位陣でも顔を出せばそれなりに注目を浴びそうではある。
――が。
事態はそれを大きく上回っていた。
「……………………」
無言で杯を傾けるのは、赤い大太刀を背負った強靭な体躯の男。
名前はエルニドという。
十二天と呼ばれる最上位プレイヤーに数えられる最古参の一人で【焔天】。
その強さとは裏腹に、新規に対しても分け隔てなく親切に接するので人気がある。
何故か、平たく言ってフンドシスタイルなのが玉に瑕。
「………………ちっ」
その向かいでテーブルに頬杖を突き、視線を逸らして舌打ちをしているのは、返り血のように毒々しい真紅鎧を纏った双剣の男。
名前は匿名ではなくネームレス。
PKプレイヤーと呼ばれる赤ネームの筆頭で、十二天の一人【影天】。
狙われた者は、反撃すら許されないまま一撃死させられるという……まさに恐怖の権化。
とあるギルドから懸賞金が賭けられていて、その首を狙うプレイヤーも存在する。
自ら初心者や女性プレイヤーを狙うことはないという噂もあり、なまじイケメンなことから一部の女性プレイヤーから人気があるとか。
こんな二人が杯を突き合って座っているというのだから、酒場内に緊張が走るのも野次馬を集めてしまうのも無理はない。
しかし、野次馬たちの関心はもうひとつ別のところにあった。
――な、なぁ……あれ誰?
――有名プレイヤーのサブキャラとか?。
――ばっか。そんなのシステム上無理だろ。IDにゃ戸籍のナンバー使われてるんだし。
――抜け道くらいあんだろ。現に十二天にそれっぽいのいるって噂じゃねーか。
――あー、破天かぁ。あの人はその名の通り破天荒って話だからなぁ
――じゃああれが破天?
――おいおい、冗談キツイぜ。十二天の同窓会かっての。
かなり遠巻きながら、人垣に囲まれているひとつの丸テーブル。
座っている席の主たちは落ち着きようもなかった――
――かと言うと、そうでもない。
「このミルク美味しいね! ゲームの世界なのに本当に飲んでるみたい!」
顔ほどもある大コップを両手で構えグビグビと飲み干していくのは小柄なアバターの男の子、もげ太。
コップが空になると、すかさずおかわりをお願いする。
「そうだろう? 舌が脳に美味しいという信号を出せばそう錯覚――いや、認識するからな。現実と変わりはない」
エルニドがそう解説をする。
「ハッ、脳筋は夢がねぇなぁ」
「……の、脳筋だと――!?」
ネームレスに指摘を受けてわずかに紅潮するエルニド。
どうやら少し気にしているらしい。
「う……ごほん。俺は、こう見えて理系だ。そして、脳筋というのは、例えば≪攻撃力≫に全振り――パラメータや戦闘方法について思考停止しているヤツのことを言う。均振りは断じて違う!」
「かっ、テメェのアバターはどう見ても脳筋だろが。見た目が、もげっちみたいなショタイプならまだしもよ」
「しょたいぷ?」
「……もげ太は知らなくていい言葉だ!」
ハテナマークを浮かべるもげ太を静かに諭すエルニド。
筋肉隆々のタフガイにあどけな少年という二人の組み合わせは、親子というよりもただただミスマッチだった。
「で? いつまでこんなとこにいんだ? いい加減視線がウザくなってきたぞ」
やれやれと不服を露に言うネームレス。
ここでも、彼に集まっている視線は女性アバターのものの方が多い。
「嫌ならさっさと出て行け。俺ともげ太は、ここでクエスト……『お鍋の蓋の代用品』を受注するんだ」
「は? お鍋の……って、それ報酬でなんだったかの盾が貰えるクエストだったっけか? けっ。やり方がまどろっこしいな、テメェは」
言って、ガタリと席を立つネームレス。
その視線がもげ太を捉え、
「もげっち。盾くらい俺がいいヤツの買ってやっからさっさとこんな店出ようぜ? こんなケチンボ爺と一緒にいるこたねえ」
「じ、ジジイ……だと? だっ、誰がジジイか!?」
「テメェ以外に誰がいんだよ。このガチムチ禿デコ爺」
両者席を立ってしばらく睨み合う。
緊迫の空気が漂う中、しばらくしてエルニドが額を抑えながら頭を振った。
「………………ふぅ。この鋼の肉体美を理解しないとは、何て気の毒な美的感の持ち主だ。同情に値する」
「――半裸サブリガマントでそんな妙な髪形してる人間にだけぁ言われたかねぇっつの!!」
トーンを落として神妙に呟いたエルニドに憤慨するネームレス。
当のもげ太はと言うと、ネームレスに手を引っ張られたまま困ったように、
「あの……ごめん、ナナさん。エルニドと【ネネムの街】に来ることになって……実はここで待ち合わせをしてるんだ」
そう呟いた。
「は?」
「え?」
もげ太の突然の申し出に目を丸くする二人。
「待ち合わせ……してるのか?」
エルニドが小さく問い掛けると、もげ太はこくりと嬉しそうに頷いた。
UW初心者であるもげ太に、一体どんな待ち人がゲーム内にいるというのか……。
とにもかくにも、エルニドもネームレスもUW内では並ぶものすら一握りという領域の有名人だ。
もげ太の知り合いならば問題はないと思うが、既に前例が覆りつつあるネームレスの一件もある。
迂闊な遭遇というか出会いは出来るだけ避けたいところだが……。
「…………ちっ」
目線でもう一人の当事者の真意を尋ねると、おおまかには同感のようだった。
このままネームレスが席を立ってくれるのであれば、エルニドにとってひと悶着を減らせる期待が高まるのだが……。
残念ながら、ことはそう上手くは運ばなかった。
「やぁやぁ。お待たせしましたー♪」
ちりんちりん、と乾いたベルの音――店の出入り口の開閉音だ――を響かせ、「ちょっとごめんさないですー」と人垣を掻き分けヨイショヨイショとやってくるのは女性の姿。
ピンク色の大きなリボンに、ふわふわの白いドレスを纏っている。
美しいというよりも愛らしいその外見に、周囲の男性客の視線が釘付けになっていた。
零れたため息が吐いた瞬間に止まったのは、現れた女性アバターの頭上にある“ネーム”が目に入ったせいか。
そこに表示されている名前は――
「《リリル》…………だって?」
「お、おいおいおいおい……」
フェイス構造は全く異なるのに、まるで兄弟かと錯覚するくらい似通った表情を見せるエルニドとネームレス。
その二者の相貌が交差する先に立つ女性が口を開く。
「もげ太さんとお会いするというので、ちょっとおめかししてみたんですけど……どうでしょうー? あ、その前に初めましてー、ですかね?」
そうして、女性はドレスの両裾を摘み、ペコリと優雅な一礼をした。
ポカンとしていたもげ太が慌てて椅子から立ち上がる。
「も、もしかして……“りるりる”さんですか!?」
「ですですー」
「こちらこそ! ここでは初めまして!」
「よろなのですー」
席を立ち、直角まで一気に腰を折るもげ太。
釣られたのか、相手の女性までも深々とお辞儀を返していた。
しかし、動いているのは彼らとNPCだけで、他全員はまるで石像のようにぴたりと動きを制止している。
「…………………………コイツ、こんなキャラだったっけか?」
そんな制止世界を最初に破ったのは、影天の呟きだった。
その時、稀代のPKプレイヤーにおよそ似つかわしくないユニークな表情はSSとして大型コミュニティサイトに投稿され、彼のPKを加速させる原因を作ったとか作らなかったとか。
……結論から述べると、本人がそういうサイトに興味を持っていないのが幸いしていたのだが。
◇
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しんじ:
何故か光天まで降臨した件
《画像3》
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フォックスゼロ:
リリル様ああああああああああ!!
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ワイドショット:
祭りだ!
みんなすぐにネネムに向かうんだ!!!
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ペロリスト:
prprprprprprprprpr
prprprprprprprprpr
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