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戦花の舞

2016/9/16

本文修正しました

 



 円周状に抉られた地面の中央。


「………………」


 何かを待っているのか、それとも探しているのか。

 シテンは、不気味なほど静かに佇んでいた。

 全身を覆う擦り切れた黒衣は体型すら隠し、人型かどうかすら定かではない。

 それでも伝わってくるのは、明確な敵意を持って現れたということだ。




 ◇




 敵に向かい、高速で最短を駆る双剣士が居る。

 影天――ネームレスだ。

 彼は足元に影を展開することで地表の起伏を全て(なら)し、さらに踏み込む足に前方への反発力を生むことでステータス以上の速度を得る。

 能力で生み出した擬似的な滑走路に加え、一足ごとに射出機を取り付けたような形か。

 影はその特性上、主がどれほど速く動こうとも決してその傍を離れることはない。

 むしろ、影が差す方向に関しては常に主の前に在る。

 陽光を背負った彼は、最速(・・)をも上回る速力を誇った。


 牙を剥いた影天が、目標(シテン)と接触するまでに要する時間はわずか数秒――。




 ◇




 装天――ラミナは、黒紅の双剣士が行動に移るよりも速く行動を開始していた。

 前衛が居る以上、自分の役目は後方からの支援。

 無論、隙あらば敵の眉間を撃ち抜くくらいの心構えはあるが、相手は一度辛酸を舐めさせられた敵。

 汚名を(すす)げるならばすぐにでも雪ぎたくはあるが、自分の弾が届かないのは身を持って知っていた。

 ゆえに、彼女はサポートに徹する。

 即座に対応ができるよう敵と味方とを視界に入れながら走り、可動式の装機銃は長型に組み換えられていた。

 取る作戦は前回と同じ。

 仲間からつかず離れず――かつ敵の視界に入らないよう、地形オブジェクトや樹木を利用しピンポイント狙撃を行う。

 装天は、対象を支点に円を描くよう迂回しながら木々の中に身を隠した。




 ◇




 視界から狂ったような勢いで遠ざかる影天の背中を少しでも視界に残すよう、和装の二人――戦天と白花は即座に追走を開始した。

 彼に比べれば見劣りをするとはいえ、その速さは常人の域を遥かに上回っている。

 疾走しながらキリュウが目配せをすると、スズランがわずかに頷いた。

 長く肩を並べて戦場を駆けた仲だ、戦略の疎通はそれだけで十分だった。

 併走していた二人の距離が少しずつ横に開いていく。

 まだ相手が肉声の届く距離にいる間に、少女は改めて意思を告げる。


「先の範囲に気を付けい! 決して撃たせるでないぞ!」 

「はい!」


 そう告げた理由は簡単だ。


 ――あれほど厄介で面倒な攻撃はない。


 まず、単純に脅威であるのは威力とその攻撃範囲だ。

 前者は皆が受けたダメージからはもちろん、焔天に至っては一時的に戦線を離脱するほどの致命打を与えている。

 後者は、ある程度ばらけていたはずの仲間全員を巻き込んでいることから、最低でもそれだけの効果範囲があることが窺い知れた。

 そして何より、それが“不可視範囲攻撃”であるにも関わらず、全員の[回避率]を無視して命中したことだ。

 不意を突かれたとはいえ、敏捷に特化した影天にダメージを与えたという事実が与える意味合いは非常に大きった。

 つまり、ガードアビリティがない限りほぼ確定で大ダメージを受けると考えていい。

 できれば発動を未然に防ぎたいところではあるが、不意の出現から詠唱(キャスト)らしい詠唱は見られなかった。

 よって、タイプはインスタントのリキャスト方式である可能性が高い。

 インスタントスキルは即座に発動するため、阻止が難しい。

 相手がプレイヤーであれば、発動タイミングも予測ができるのだが、そもそも敵がモンスターなのかプレイヤーなのかすら不明だった。

 ならば、リキャストまでのサイクルカウントに専念をした方がいい。

 できれば、次の発動までに決着をつけたいところではあるが、敵の攻撃手段がひとつのみ――ということはないだろう。

 それでも長期戦を避けるべく狙うとなれば、答えは絞られる。


 早期決着の完成形――一撃必殺だ。




 ◇




 白法衣の少女――リリルは、杖を構えたまま詠唱に全神経を集中させていた。

 いつののような気軽さやノリによる省略はない、完全詠唱だ。

 彼女の周囲にドーム状の半球が張られ、その中に巨躯の男ともうひとり――もげ太が横たわっていた。

 少年の目は閉じられたままだ。


「………………」


 少年は、気を失ってはいるものの死んでいるわけではない。

 その証拠に少年のHPにはゲージが残されている。

 ゲージは減少は上昇し、上昇しては減少するというヒールと被ダメージのループを繰り返していた。

 通称[Dot]と呼ばれる、時間経過とともに一定のダメージを与え続ける状態異常だ。


「仲間を思う我が心。その鼓動を通じ、友の鼓動を揺らしたまえ。その生命に癒やしを与えたまえ――」


 少年が状態異常を受けたのは、範囲攻撃の際。

 毒や火傷といった継続ダメージであれば治癒も行えるのだが、そういったデバフとは異なり治癒を受け付けない。

 上位プレイヤーである彼女らは装備品によりデバフを無効化できたのだが、初級者であるもげ太はそうはいかなかった。


「≪ヒーリングサークル≫!」


 持続ヒールの残り時間を確認し、切れる前に上書きした。

 淡い半球体の結界は、内部にいるパーティメンバーのHPを一定周期で回復し続ける効果を持っている。

 スキル名が初期のままなのは、スキルエクステンド――[拡張]を行っていないせいだ。

 一定のランクを超えたプレイヤーは、習得したスキルを独自に磨き、また[拡張]を施すことで自分だけのスキルやアビリティに変えていく。

 彼女の元来のクラスはヒーラーではなくキャスターであり、主に攻撃魔法を中心に育成し、後にギルドマスターとなったことで強化バフの修練を行っていた。

 回復魔法は、そのさらに残りの部分――言わば付け焼刃(・・・・)に過ぎない。


「でも……わたしはこの日のために習得したんです!」


 ――そう。

 友人である少年の参戦を聞き、わずかでも支援をとごく最近になって覚えた能力なのだ。

 従って、魔法力のパラメータを攻撃魔法にしか転換していない彼女のステータスでは、駆け出しヒーラーに杖が生えた程度の回復能力しか備わっていない。

 文字通り、回復能力のほとんどが装備品による補正だった。

 ゆえにDotが消えるまでは、ヒーリングサークルを消すわけにはないかないのだ。

 そして、もうひとつ。

 回復を優先するが上、彼女の本質――キャスタークラスの装備ではないために、アタッカーとしての戦闘能力は半減している状態だった。




 ◇





 エルニドは気が急いていた。

 落ち着かず、無意識に大太刀を強く握り締めては気付き、また力を抜く。

 その意識にあるのは後方に居るリリルともげ太……特に彼のHPにあった。


 ――《ヒーリングサークル》!


 二度目となる光天の回復魔法の発動が聞こえた。

 その効果によってもげ太のHPは回復するが、直後に同等以上の減少をする。

 少年の最大HPが低いせいで、Dotのワンスタックが大きな比率となっているのだ。

 回復魔法とPOTで何とか相殺をしているものの、その均衡が崩れれば即座にダメージ量が回復量を上回るだろう。

 そうなれば、少年のHPは呆気なく尽きてしまう。

 万が一にもそうならないよう、なんとしてもこの二人を守らなければいけない。

 焔天は、二人の盾となるべく挺身し、壁役を務めていた。


「くっ、もどかしい……!」


 しかし、別の懸念がもうひとつ――自身のHPにある。

 彼を庇う際に≪チェインプロテクト≫を使用したせいで、本来、少年が受けるダメージの大半までをも焔天が受け持った。

 その際、追加で受けるダメージは焔天ではなく少年の防御力に依存する。

 よって、単純に二倍ダメージ――というわけにはいかず、その結果、PTで最も高いHPを誇るエルニドまでもが瀕死に陥るほどのダメージを負ってしまったのだ。

 光天の回復効果範囲内に居ることに加え、クール毎にPOTを使用することで回復を図ってはいるものの、総ダメージが大きすぎてなかなか捗らない。

 徐々にしか増えないHPゲージがただただもどかしかった。

 今頃は、敵と影天らの戦闘が始まっていることだろう。


「…………落ち着くんだ」


 気付けば、また柄を強く握っている自分に気が付き、自制を促した。


 ――彼らならば大丈夫。


 何せ、単体が一軍に匹敵するような実力者。

 それが何人も揃っているのだ。

 すぐに勝負をつけて少年の元へ戻って来るはずだ。


 しかし、この言いしれない不安は一体何なのか――。




 ◇




 ネームレスは、既に目標との戦闘を開始していた。

 周囲に能力を解放し、接敵して斬り結んでいる。

 仲間はまだ後方、追い着いていない。


「テメェがシテンとやらか―!? さっきはよくもやってくれたなぁ!」

『ル…………』


 シテンの顔と思しき部位が、ネームレスの方を向いた。

 彼に向かって伸ばされた敵の(かいな)に衝撃が着弾する。


「!?」


 瞬間、それが何かネームレスにも判別が付かなかったのだが、煌いたエフェクトによりそれが何かを悟った。


「ハッ、やるじゃねーか!」


 エフェクトの正体は、プレイヤーのスキル光――装天による射撃に間違いない。

 姿は見えないが、近くに潜んでいるようだ。

 援護に感謝しつつ、ネームレスは影を積み上げ大きく跳躍する。

 そして、下方に佇む敵に向け右剣を振り上げた。


「喰らえ、一閃――天影牙!!」


 背後から生じた影が敵の上空に広がった。

 影は集まり、やがて鋭利に形作る。

 出来たのは、身の丈ほどはあろうかという大きな牙だ。


『オ…………』


 牙は整然と並び、やがて巨大な上顎が形成され、降り注ぐ!


「まだだ、二閃――地影牙!!」


 次いで、左剣を後方に下げた。

 しかし、何かが起きた様子はない。

 男はそのまま右手を振り下ろし、叫んだ。


「噛み砕けぇ! 咬噛双影牙!!」


 敵の上空やや後方から巨大な上顎が襲い掛かる。

 意識が上へ向いた、刹那――ネームレスは左手を勢い良く斬り上げた。

 足場を食い破って現れたのは、巨大な牙。

 地に落ちたネームレスの影が、地中に下顎を作っていたのだ。

 下顎は、敵の身体を真下から跳ね上げ、質量を伴って降ってきた上顎と挟み込む。


「どうだ、効いたか――!?」


 岩盤ごと跳ね上げられたシテンは、そのまま地面に叩きつけられた。

 ――かのように見えたが、落下の際の音が聞こえない。

 ただ、布がふわりと落ちたようなそんな印象を受ける。

 見ずとも分かる、効いていない。

 だから、ネームレスは敵が動き出す前にすぐに次の手に打って出た。


「手芸部直伝――天絃!」


 ネームレスは、至って真面目だ。

 牙に囚われた黒衣に向かい、ネームレスは片手を掲げると、具象化していた影が瞬時に糸状となってばらける。

 まるで蜘蛛の巣のように張り巡らされた影糸が、シテンを受け止めた。


「帝王縛!」


 影は主の命令に従い、敵の全身に絡み付くとそのまま縛り上げた。

 帝王とは、彼に一子相伝――ならぬ一部員相伝を行った母校の伝説的手芸部長のあだ名だ。

 右手を敵に向けたまま、さらに左手で印を結ぶように影を操った。

 糸はさらに鎌首を持ち上げて主の足場を作り出す。


「これで仕舞いだ――」


 そして、動きを封じた敵を討つため、彼は詰めの一手を結ぶ。

 双剣を胸の前で交差し、詠唱した。

 淡いを蒼光が全身を包み、次第にその光量を増していく。


「突き抜けろ、(シャドウ)――」

「ようやった、影の! ナイフフォローじゃ!」

「アむぎゅ――!?」


 突如の声に気を取られた瞬間、ネームレスは真上から頭を踏んづけられた。

 頭上の死角から舞い降りてきたのは、


「くくく、ここからは我らの見せ場ぞ!」


 和装の少女――キリュウが優雅に舞っていた。

 扇の軌跡が紋を結び、光陣が描かれている。


「はい、キリュウ様!」


 反対側、応じたのはスズランだ。

 彼女も同様に、舞で紋を描き出す

 ネームレスが戦っている間に詠唱を進めていたのだろう。


「どけぇ!」


 ネームレスが手を払うと、少女はひらりと再び宙を舞った。

 まるで重力を感じさせない動きだ。


「つか、空気読めよ――!? どう見たって今は俺の見せ場だろが――!?」


 そんな反論の慟哭も二人の前に虚しく通り過ぎていく。

 既に彼が行使していたスキル光は霧散していた。


「あぁ、クソっ! これで仕留めそこなったら罰ゲームだからな!!」


 納得のいかなさに憤りを覚えつつも後退、大人しく成り行きを見守る他ない。

 少女は自信ありげに笑みを浮かべると、立ち位置をネームレスと入れ替えた。


「よかろう、いざ参らん! ――太古より現世を照らせし神よ!」


 少女が高らかに唄う。

 左右の紋が対象に重なり合い、ひとつの紋様を作り出していた。

 奉納をする二人が高らかに告げる。


「「其が力を以ち我らが呼びかけに応じよ!」」


 伏せていた瞳が薄く開かれた。


「「――大日孁貴(おおひるめのむち)」」


 先のネームレスと同様、二人の身体が金色のエフェクトに包まれた。

 ――《リミテッドスキル》だ!

 紋を中心に眩く煌めくと、恒星のごときエネルギーが瞬時に敵を焼き払う!


「ぬおっ――!?」


 その眩さに、堪らずネームレスは視界を覆った。

 溢れかえる光が大波のように敵に押し寄せ、光柱となって上空へと立ち昇る。


「くはは、祓え、祓え、祓え――!!」


 光は次から次に押し寄せ、さらに高さを増していく。


「は……?」


 ネームレスは、空を見上げた。

 持ち上げた首が痛い。

 光で出来た柱を下からなぞっていくと、雲を突き抜けた辺りでその先を追えなくなった。

 この世界に高度上限があるのかは知らないが、もしないのであれば大気圏を越えているのではないか。


「…………マジかよ?」


 何という目立ち――いや、スケールの攻撃か。

 さながら、光天のビームをさらに太くしたような感じだろうか。

 あまりに派手な攻撃に、ネームレスは怒りも言葉も失った。




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