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開戦!?

2016/09/15

本文修正しました

 



「ル……う…………」


 森の奥にソレは居た。

 擦り切れて穴のあいたボロ布を被ったそれは、何をするでもなくゆっくりと周囲を睥睨している。


「あ……ア…………」


 言語機能を持たないのか、呻くような掠れた声を上げる。

 自我を保持しているのかすら定かではないソレ。

 真っ黒のボロ布から枯れ木のように伸びる四肢。

 その皮膚も外套に倣うように浅黒い。

 痛んだ前髪の隙間からは、灰色の相貌が焦点も合わずに漂っていた。



 探サナクテハナラナイ――。


 ――ナニヲ?


 止メナクテハナラナイ――。


 ――ナニヲ?



 心の奥底から湧き上がる言葉。

 自問するように、小さく小さく心で呟く。


 分かっているのは、自分には獲物が存在するということだ。

 それが何かは分からないが、それ以外はどうでもいい。

 分からないから探さず、どうでもいいからここに居る。


「エ……イ……」


 木々の隙間から覗く空。わずかに光が射している。

 ここに来て何回見たのかは覚えてないが、明るいよりも暗い方が心地良い。


「……キオ…………」


 風で木が揺れ、葉が擦れてザザザと音が鳴る。

 いつものことだ。

 これも何時間、何十時間、何百時間――どれだけ聞いたのかは覚えていない。

 その中に、小さく小さく混じった異なる音。

 ざくざく、ざくざく、少しずつ規則正しい音が近付いて来る。

 聞いたことはある。

 つい先日、ここに何かが訪れた時に耳にした音だ。


 そして、今回はひとつではない。


「ク……う……」


 ソレは音のする方へとゆっくりと振り向いた。


「お……オ…………」


 無意識に口角がつり上がっていく。

 予感だ。


 探し求めていたモノが、自ずと探さずとも向こうから近付いて来ているのだと――。


「……し……テン……」


 ソレは、自身でも聞き取れるか程度の音量で呟いた。

 ずるずると黒衣を引き摺り、音の方へと歩き始めた。





 ◇





「なんじゃ? この胸を締め付けられるような感覚は……」


 和服の少女は、進行方向を遠目にやりながら神妙な面持ちで呟いた。


「あん? 恋でもしたか?」

「……は?」


 少女――キリュウの目線が前、右、と直角に振れる。

 そして言葉の意味を悟り、顔を赤くした。


「ち、違うわ、このたわけ!!」

「ぶっ――!!」


 〈ばごん!〉と鈍い快音が辺りに響く。

 真っ赤になったキリュウの手には、大型の扇子が握られている。


「ってぇな! もう少しテメェの攻撃力を考えやがれ!!」


 気だるそうな顔をした男は、つんのめりそうな身体をなんとか踏ん張って支え、目を吊り上げて怒鳴りつけた。


「……ふん。お主が妙な戯言を口にするからじゃ」


 先のメテオインパント然り、PT内におけるダメージはないとはいえ、オブジェクト接触による当たり判定まで消えることはない。

 つまり、相互干渉は綺麗に残り、攻撃による衝撃だけがそのまま通るということだ。

 例えばこの攻撃でひっくり返りでもしたら、微量ながらも転倒ダメージが適用されてしまう。

 少女のステータスは不明だが、その見た目に反し、単純な物理攻撃力ならば身内でもトップクラスだろう。

 それは直接斬り合ったネームレスだからこそ分かることだ。


「さて」


 キリュウが目を細くして告げる。


「おぬしも忍びの真似をしておるくらいじゃ。この気配(・・)、察知できぬはずがあるまい」

「ちょっと待て。忍びって……もしかして、俺のこと言ってんのか?」

「他に誰がおるのじゃ?」

「誰って、そりゃあ……」


 少女の示唆に、男は一同の顔のチラ見する。


 ――筋肉AGA。

 ――ロリ婆。

 ――性悪女狐。

 ――食人毒花。

 ――ガンエルフ。


「……現実を見た結果、消去法で俺だった」


 忍者と袂が同じ双剣士の派生クラスだけに納得する他ない。


「あれれ、影天さん? なんかわたしに対して不穏な気配を感じたのは気のせいですかー?」

「気のせいだろ」


 黒紫色の笑顔(オーラ)を漂わせるリリルが杖を構える前に、ネームレスは即答した。

 後の先を打たれ、白法衣の少女は攻撃の機を失い、口だけを何度も動かす。


「不穏な気配なら――俺も感じている」


 その間に割りむエルニド。

 抜刀こそはしていないものの、いつでも戦闘に移れるよう油断なく構えている。


「あぁ。お前のことも内心で罵倒したからな」

「無論、それも察している――――が、そうではないし、俺はふさふさ系男子だ。間違っても父親のリ●ップやイ●オスなど拝借したこともないぞ」

「うわあ……」


 ネームレスの発言に突っ込む間もなく、皆がドン引きをした。

 平然としているのは、先頭の二人くらいか。


「まぁ……この際ハゲは置いとくとして」

「だから禿げてないと言っている! 広いのは生まれつき、たまたま人目に着く場所だから目立っているだけだ!! 指四本も五本も大して変わらないだろう――なぁ、おい!?」

「いや俺が悪かったから少し落ち着けぇ――!!!!」


 皆のドン引きがいつも以上に男のデリケートな琴線に触れてしまったのか。

 徐々にエスカレートしていく自虐のオーラを纏いながら迫り寄るエルニドに押しやられるネームレス。


「こ、こうなったら――秘技“もげもげの術”っ!」


 〈どんっ!!〉


「――!?」


 煙玉がエルニドの視界を奪う。

 直後、ネームレスによって抱きかかえられたもげ太が、エルニドの眼前できょとんとした表情を浮かべた。


「え、エルニド?」

「ふーっ、ふーっ…………あぁ、もげ太か」


 わずか2秒でクールダウン。

 ネームレスは、万一、この男とリアルで会うことがあれば必ず帽子をかぶって行こうと心に決めた。


「はぁ……別の意味で身の危険を感じたぜ」

「おぬしは何をやっておるのじゃ……」


 呆れ顔の少女が場を仕切り直す。

 その目が向く方に、皆の気が集中した。


「感じるじゃろう――?」


 一行は、無言で頷いた。

 もげ太でさえも、言いしれない何かを感じているようだ。


「結構近いですよねー、これ……。どうしますー?」

「未踏破のMAPなんだし、レアモンスターとかネームドモンスターの可能性はないのかしら?」


 スズランの言う通り、付近に強力なモンスターがPOPすると、情報圧による警告がなされることもある。

 体感的に説明すれば、背筋がぞわりとさせられる感じだろうか。


「その線もなくはねーだろうが、たぶんちげーな。こりゃあ不穏、ていうよか不快な圧だぜ……」


 ネームレスの視線が鋭さを放つ。

 それだけの脅威だと認識したのだ。


「根暗の言う通りだ。ちなみに俺は禿げてないからな?」

「だからそりゃもういい――――って、誰が根暗だ、ゴルァ――!?」

「……影のよ。仙人掌(さぼてん)を友人に数えるのは、どこぞの愛と勇気だけが友達な酵母の精霊よりも寂しいのじゃぞ?」

「んなもん部屋にあるか! 勝手に設定作ってるんじゃねぇ!!」

「あはっ。ネムさんの趣味はお裁縫だから違うよねー?」

「え……? ……あ、あの……もげっちさん……?」


 とある少年のひと言で、仲間の空気――というより向けられた視線が生暖かくなった。


「………………」


 皆の目が点になった後、徐々に薄く横へ伸びていった。


「へー」

「へぇ……」

「ほう」

「ふむ」

「ぷ……ぷくく……くーぷすぷす」


 ニヤニヤ、という表現が最も適切か。ひとりを除いて。

 ネームレスの耳――髪に隠れていない方――が赤くなっていった。


「ぎゃー、そういう目で見んのはやめろぉ! つか、裁縫好きで悪かったなぁ!! ついでに、料理も好きだよこんちくちょうが!!」


 ヤケっぱちになって要らぬ暴露まで始めてしまうネームレス。

 彼のスキル“天弦”の命名をひょんなことから知ることになる。


「や。我も家事を嗜んでおるゆえ、気が合うかもしれぬの」

「……あ? そうなのか?」

「うむ。そうじゃ! もし良ければ、仙人掌なんぞより我と友人にならぬか?」

「おー、ちなみにどんな――――って、今はそんな場合じゃねぇだろ!!」


 緩んだ流れを断ち切るように、ネームレスは二本の剣を抜いた。

 照れ隠しが全くないとは言い切れないが、敵もこちらに気が付いたのだろう――圧がこちらへ移動をしてきている。


「むっ、失礼!」


 キリュウも応じ、二枚の扇を構える。

 この扇を可変して戦うのが彼女のスタイルだ。

 メンバーの二天が真剣な戦闘態勢に移ったことで、他の仲間もスイッチが入ったようだ。


「いよいよお出ましか」

「腕が鳴るわね」

「レアモンだといいですねー」

「みんな、頑張ろう!」


 各自が武器を手に構える。

 敵はもはや目と鼻の先の距離だ。

 もし気配を視認ができるとしたら、どす黒い蛇のような瘴気がうねりを上げて絡み付いているに違いない。

 ここに来るまで軽口が次第に増えていったのは、近付けば近付くほどに背筋を刺す悪寒――――まるで凶獣の巣穴に足を踏み入れたかのような錯覚を無意識に振り払いたかったのかもしれない。


「なるほどの。ネームドモンスターとて、ここまで禍々しくはないのじゃ」

「ストーリー上に魔王っぽい敵もいましたけど…………これほどではなかったですねー」


 肌を刺す気配。

 この世界で第六感を養っていた全員がひりつく空気を感じていた。


「へっ。強ぇ方が楽しみじゃねぇか――足引っ張んじゃねぇぞ!」

「応!」

「はいですー」

「えぇ!」

「うむ!」

「善処します」

「うんっ!」

「いっくぜぇ――――――って、ちょっと待ったぁ――!?」


 と、場違いに明るい応答があったところで、皆がそちらに向いた。


「「「あ……」」」


 皆の視線の先に居るのは、


「?」


 もげ太だ。

 少年も少年とて真面目に武器と盾を構えていた。

 何がマズイかなど言うまでもない。


「えーと…………ちょっとヤバ目ですよね?」

「そう……ね」

「うーむ……」


 皆が困惑に包まれる。

 それが少年にも伝わったのだろう。


「あの……僕、やっぱり邪魔だったかな?」


 無邪気なだけで、場の雰囲気が読めないわけではない。

 むしろ、幼い方がそういった空気に敏感なことさえあるのだ。


「……いや」


 エルニドが零す。


「まさか。(エルニド)はそんな柔な鍛え方はしていないさ」


 そして、緊張を解き小さく首を振った。


「お前たちは違うのか?」

「あ――」


 男の言葉によって、冷や水を掛けられたように静まり返る。


「……ちっ。それをテメェに言われちゃ俺もおしまいだわな」


 ネームレスががしがしと後頭部を掻く。


「ううー……わたしとしたことがーですー……」

「ごめんなさいね、もげ太くん」

「すまなんだのう」


 他のメンバーも気持ちは同じようだ。


「止めたりして悪かったな、もげっち。もう大丈夫だ」

「一緒に戦っても……いいの?」

「もちろんだ! 一緒に戦おうぜ!」


 ネームレスが少年の剣に自らの双剣を重ねる。

 リン、と優しくも心地よい音色が鳴った――――刹那、


「え――」


 少年の剣が弾き飛ばされた。

 それだけではない。

 触れ合っていたはずのネームレスの剣も跳ね上げられている。


「な――」


 何時、何処から現れたのか。

 突如として、二人の間には異質な存在が立っていた。




 ◇




「…………オ……」


 古びた黒布を頭からすっぽりと被った、まるで亡霊のような存在。

 その隙間から、ギロリと丸い目が少年を射抜いた。


「あ……ああ……」


 少年の身が竦む。

 盾を持つ手が、鎧を着込んだ身体が、カタカタと震え出した。

 目を見て分かってしまったのだ。


「……エ……いタ……」


 相手の感情を。

 心を。


 ――ミツケタ。


 ソレが、自分にとって如何に危険な存在であるかを――。


「う……うわあぁぁぁーーーーっ!!!!」


 少年は背を向け、一目散に走り出した。

 感じたのは純粋な恐怖だった。

 大声を上げたのは、自らを奮い立たせる精一杯の抵抗だ。

 ここから少しでも離れたい、今よりほんのわずかでもこの相手から距離を取りたい。

 そんな感情が引き起こした、咄嗟にして唯一少年が取りえる行動だった。


「こいつが……! まさか――!?」

「ちぃっ!!」


 忽然と現れた存在に全員の反応が遅れた。

 少年の絶叫で、気を取り戻す。


「ぐ………グる…………ルルル……」


 ――笑っている。


 引き裂いた黒い布をただかき集めて縛ったような存在だが、何故かそれが分かった。

 風もないのに黒布が大きく広がり靡く。

 どこにそれだけの量を隠していたのか――そう言わんばかりの外套を具現化した。

 これが戦闘態勢なのか――!


「はあっ!」

「せっ!!」


 ネームレスとキリュウが斬り掛かる!

 ――が、その刃が相手の身体に届くよりも速く、


 〈グルアァ――――ッ!!〉


 ソレが上げた漆黒の咆哮が、全員の身体を殴打した!


「くそっ、もげ太ぁ――!!」


 エルニドが少年の身体を掴み、無理矢理に引き込んだ。

 全員が衝撃で吹き飛ばされる。


「きゃあっ!」

「ぐっ!」

「うあっ!」


 目に見えて減少するHP。

 とんでもない威力だ。

 宙に舞いつつ、皆が何とか空中復帰をする中、エルニドだけは端から受身を捨て、少年を守るべくその小さな身体を内側に抱え込んでいた。

 何とかして背中から接地するよう、力技で身体を捻る。


「ぐはっ!!」


 叩き付けられる。

 背中に受けた衝撃で、肺に残っていた空気を全て吐き出した。


「ぐっ…………も、もげ太…………無事か……?」


 自分は生きている。

 エルニドは、すぐさま少年の安否を確認した。


「………………」


 少年のHPバーを見る――――全損か――!?

 そう疑うほどの僅差であったが、かろうじて数ミリ残っていた。

 エルニドが盾となったことで、そのほとんどを軽減できたのだろう。

 代わりに、エルニドの方はそのダメージがプラスされ、誰よりも大きくHPを失っていた。


「も、もげ太さんっ! エルニドさんっ!!」


 唯一回復スキルを持つ白法衣の少女がすぐに駆け寄ってくる。


「すぐに回復を――!」

「頼む! 気絶状態ではPOTを飲むこともできない!」


 エルニドが慌てる理由は、皆のステータスについたデバフアイコンを見れば一目瞭然だった。

 《Dot》――継続ダメージだ。


「りょ、了解ですー!」


 少女は、いつもの伸び声だが、声には緊張が伴っている。

 事態の重さを理解したのだろう。

 同じく危険な状態にあるはずのエルニドの回復を後回しにした。


「それでいい、回復したらすぐにもげ太を連れてここを離れてくれ!」


 エルニドは、迷わず高価なPOTを選んだ。

 純粋な“ヒーラー”ではないリリルの回復能力では、彼が受けたダメージを補填するのにかなりの時間を要するだろう。

 その意味を理解した全員――彼女自身を含めた皆も、同様に最も回復力の高いPOTを取り出した。


「任せたぞ、リリル(・・・)!」

「はっ、はいー!」


 有無を言わせずに告げると、エルニドは瓶の蓋を開け、中身を一気に煽った。

 瓶の消失を待たずに放り捨てる。

 独特の風味が口の中に広がり、減少したHPを回復させた。


「あんの……野郎が!」


 そうして走り出した男の肩を、ネームレスは力任せに掴んで引き止めた。


「クソが、テメーそんなHPでどうするつもりだ――!?」


 POTで上昇したHPバーを見れば、最大HPと現在HPのおおよその見当は付く。

 そもそもPOTを使用した状態ですら半分にも満たない(・・・・・・・)HPでは、強敵との戦闘に耐え切れないくらい誰が見ても分かることだ。


アイツ(シテン)は俺に任せとけ! テメェはそこでクールを待って回復に努めてろ!!」

「だが――!」

「だが、じゃねぇ! 俺たちを舐める(・・・)な!!」

「――っ!!」


 ネームレスの目は真剣だ。

 そして、彼以外の仲間の目も同じだった。


「…………あぁ、分かった。頼むぞ!」


 無論、他の仲間とて無傷というわけではない。

 POTでは回復しきれない量のダメージを受けていた。

 だが、エルニドと比較をすればその4割にも満たないだろう。


「あぁ――――オラァ、行くぜ!」

「えぇ!」

「うむ、参るぞ!」

「承知しました」


 戦天と白花、そして装天が敵に向き直り、影天の号令に応じた。




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