次なる目的地
2016/09/15
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『オヤジが正体明かすナンて、初めテじゃナイカ?』
「そうだな」
『アイツらに何か感じ入るトころでモ? ソレとも、単純に“解放者”とシテ目を着けたダケカ?』
「ふむ」
クジョウは、エリザの問いに些か考え込む素振りを見せた。
「エリーの言う通り、天使については後者の見解で構わない」
『ム? アノちび助は違うノカ?』
男は目を伏せ、感情を消した顔で告げた。
「……エリーは、少年の戦闘解析を見てないのか?」
『見てナイナ。あのレベルで“アンリミテッダー”とは驚きダゼ!』
「違う」
テンションを上げるエリーを即答で否定する。
「ログだけを見ても分からないことだが……一部にデータの改竄に近い形跡が見られた」
『なんダっテ……?』
「Sダミーを破壊したのは、理の外ではない。むしろ、我々が最も嫌悪すべき対象だ」
『ソりゃあ……マサカ……?』
「わたしがわざわざ正体を告げたのは、彼に釘を刺す意味もあった。だが、あの反応……」
クジョウは、少年の顔を思い浮かべ考えを改める。
「……少なくとも、当人に自覚はない。それは断言できる」
『そうカ! ソウだよナー』
何故か、少年の肩を持つエリザ。
AIながらどこか気に入るポイントでもあったのか。
「だからと言って看過はできない。事実が露見すれば――手心を加えるつもりはない」
『ム、ムうぅぅぅ……!』
「ラミナからの報告を待つ。行動はその後――黒化体の処理の方が優先事項だ。少年にその力があるのであれば、存分に振るって貰ってからでも遅くはない」
「願わくば……正規の力であることを祈るが」
形天と呼ばれた男が、何かに祈るとそんな発言をするのは非常に珍しいことだった。
エリーすらも驚いていた。
『オヤジ……』
「それよりも、確かエルニドと言ったか」
クジョウが、少年に同行していた人物の名を告げる。
それまで幾分和らいでいた男の表情が、一瞬で険しい物へと変わった。
「何か知っている――いや、隠している素振りだな」
そうして、ラミナから最初の報告が男の元へと届く。
◇
――――――――――――――――――――
from:ラミナ
あの少年、どこかわたくしと似通った雰囲気
を感じます。
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◇
「ええっ、ラミナさんも有名人なんですか――!?」
「十二天のひとり。装天じゃの」
「二代目という身の上ではありますし、そう言われると少々気後れもします」
「凄いですっ!」
そんなもげ太PTが歩むのは、セレンより北。
方角的には来た道――再びキヨウへ近づくルートへ歩を進めていた。
ただし、ニーメル河を渡航せずにそのまま北上し、向かう先はリウマ大陸中央――【ディフル樹海】。
ただ深く樹木が生い茂るのみのエリアではあるが、MAP機能とコンパス機能が使用できず、難攻不落の天然要塞とも呼ばれているフィールドダンジョンだ。
「いや…………自分で言うのも何だけどよ。有り得なくね?」
「何がだ?」
呟く男と、それに答える男がいる。
ネームレスとエルニドだ。
「ここに来て、まさかの形天と装天だろ?」
「あぁ」
ひとりは同行しなかったが、同道した人物の方へ目線を向ける。
「わたくしなど、まだまだ未熟な若輩です。先達方に遅れを取らないよう、誠心誠意努める所存です」
「わわわっ! ぼ、僕も負けないですよー!」
ラミナともげ太だ。
その隣がキリュウ、すぐ後ろを行くのがリリルとスズラン。
最後尾がネームレスとエルニドという並びだった。
「……十二天の同窓会かっての」
「同窓会? ほぼ全員が初対面だが……」
「そういう意味で言ってんじゃねーよ。……いや、むしろその解釈でもいいのか?」
「というと?」
「テメーほど顔の広そうな人間が“初対面”なんて言うくらい面識のなかった連中だろ? それが、こうして五人も雁首並べてPTを組んでんだぜ?」
ネームレスは気付かれない程度に残る三人を一瞥する。
「ふむ」
言われてみると、そう滅多やたらに起きることではない。
彼ら彼女らは、一個人ですらGvGにおけるパワーバランスの引き合いに出されるほどのプレイヤーなのだ。
「確かに壮観だな」
エルニドは、周囲を軽く見回してから告げた。
「反応が遅ぇよ……つか当人が何言ってやがる」
言われて気付いたといった反応を見せる男に、ネームレスは嘆息する。
「もし、どっかに噂が出回ってみろ? 楓柳以上の騒ぎになんぞ、これ?」
「その当人の内のひとりも、俺の目の前に居るわけだしな。しかし、お前さん。意外と細かいところを気にするんだな」
「うっせ」
指摘を受けてバツが悪くなったのか、ネームレスはそっぽを向いた。
他の面子も焔天同様気にした様子がなく、どうやら気に掛けているのは自分だけらしい。
そうして歯噛みをしているところ、歩み寄る女性が二人。
「なんか他人事みたいですねー。お二人とも?」
「わたしはこの中じゃ埋もれてるから別に構わないけどね……」
リリルとスズランだ。
スズランの口調がやや自嘲気味なのは、気にしている部分もあるのだと推測できる。
「なんだ聞いてたのかよ」
「人聞き悪いですねー。この距離ですよ? たまたま聞こえてたんですー。ぶー」
トーンを下げてはいたものの、会話が漏れてしまっていたのか。
いつもの舌打ちが聞こえなかったのは、彼にとっては間の良い横槍だったのだろう。
「ですよね? キリュウ様」
「うむ」
はっ、と声の方に振り向くと、前方――もげ太の隣に居たはずのキリュウがいつの間にかスズランの真横に立っていた。
「なにやら楓柳と聞こえた気がしたものでな。つい」
「隠密かよ、テメーは」
「隠密というよりも元は一城の主ですよー? どちらかと言えば……お姫様?」
「なるほど。キリュウ姫か」
「やめい!」
耳が赤くなっているところを見るに、言われて嫌だというより単に恥ずかしいだけのようだ。
「まったく……これが頂に名を連ねる者たちの会話とは……嘆かわしいのう」
「つっても、いち学生プレイヤーだけどな。中身は」
「そういう生々しい話を口にするでない!」
現実に引き戻されると気まずい記憶でも結びついたのか、一同は揃って苦笑いを浮かべた。
「うーん…………わたしも驚きましたけど、影天さんって結構……普通ですよね?」
「は? 普通?」
リリルの発言にネームレスが目を丸くすると、周りの者も頷いて肯定を示していた。
「UWOじゃあ名の知れた――というよりトップランカーの赤ネなだけに意外ではあった」
「でも、そういう人って話してみると実は普通の人――ってケースも多くないかしら?」
「日頃の鬱憤をゲーム内で晴らしておるのかもしれんの。現実は引っ込み思案なだけに溜まる一方なのじゃろう」
「もしや、引きこもりですー?」
「日差しは健康に大変良いと進言します」
「勝手に人のキャラ作ってんじゃねーよ――!?」
ネームレスが憤慨するのも無理はなかった。
それが図星であったかどうかはさておき。
「あら。わたしはそういうところも好きよ?」
「良かったな、ネームレス(●)(●)」
「うっせーつの!! キモい目でこっち見んな、ハゲ!」
「ハゲフラッシュチャリオット!」
「ぶほっ――!! って、コイツ認めやがったぁ――!?」
そんな彼らを尻目で見つつ、少女が小さく呟く。
「……なるほどのう。改めて言われてみると何とも奇妙な面々じゃ」
そんな奇妙なメンバーを取りまとめているのは誰か。
聞くまでもない。
「くく。大した小僧じゃの」
「あ? なんだよ、いきなり……」
突飛したキリュウの発言に、ネームレスはわずかに首を捻る。
小僧――という単語から連想できる人物はひとりしかいないが、この少女に言われるのは心外じゃなかろうか。
「さての。あの小僧抜きで、こうして我らが共に歩む時は訪れたと思うか?」
「そりゃあ……」
ネームレスは考えた。
あの少年が居なかった場合、自分はどうしていたのかを。
周囲に視線を巡らせる。
「? どうした?」
「いや」
最初に目が合ったのはエルニドだ。
「そーだな……ふと思ったんだけどな。もげっちが居なかったら、お前とはあのまま斬り合いになっただろーなって」
「そういえば、そんなこともあったな。もげ太を迎えに行った矢先、影天に襲われるとは考えもしなかったが」
「そりゃこっちの台詞だ。もげっち探しに行って、まさかテメーみてぇな大物に出くわすとは思いもしなかったっつの」
当時を思い出し、苦笑を交わす二人。
「その場合、わたしとも戦闘になってましたかねー?」
その輪に加わったのは次なるメンバーだ。
「んー……どーだろな? 戦天に次いで高レベルの光天だ。の割に、ぱっとした噂がねぇ理由は気になってたけどよ?」
「もし、戦っておったらそこで影のはふるぼっこじゃったのう」
「ふむ。結果的には遅いか早いかの違いだったな」
「やかましい!」
別段、気を悪くする様子も見せずに返すネームレス。
叩かれつつもどこか余裕のある表情は、彼が丸くなったことを意味するのか。それとも……。
「ま、それもさておきじゃ」
ぱん、と少女は両手を重ね合わせる。
「おぬしらが言ったように、全く反りの合わない面々すらもこうして共に歩んでおる。――それこそが、あやつが持つ最大の能力やもしれぬの」
「……かもな」
キリュウとネームレスは、先頭を歩く二人組――その小さな方に目を向けた。
皆が同じ方を向き、しばらくを無言で歩く。
少年は、口数の乏しい隣人に対し、身振り手振りを加えながら懸命に話題を提供していた。
「ですねー」
「えぇ」
「あいつらしいと言えば、あいつらしいな」
三人の同意を得、皆はもどこか緩む心を自覚していた。
「?」
そんな後ろの会話が耳に届いたのか、視線を集めていた少年が振り返る。
「えっと、何の話ですか?」
自分に焦点が向いたことだけは理解しつつも話の内容が分かっていないもげ太は、ただきょとんと首を傾げていた。
そんな少年に振り回され、困惑気味のラミナも同時に後方を仰いだ。
そのまま目を伏せて告げる。
「おそらく……もげ太さんのリーダーシップを褒め称えているのではないかと」
「僕の……リーダーシップ? ええっ――!? そ、そんなの全然ないですよっ――!?」
少年が慌てて両手を横に振った。
「そうでしょうか? 謙遜せずとも、現状ではわたくしも彼らの言に同意せざるを得ません」
「お? テメーも結構見る目あんな? あの形天の連れってだけに不安があったけどよ」
「恐縮です」
「って、さらりと流しやがったぞ……」
そんなラミナとネームレスという新コンビのやり取りを見て、リリルが遠い目をした。
「なんか、影天さんのボケとツッコミも板に付いてきましたよねー……しみじみ」
「ちょっと待て。ツッコミはまだしも、いつ俺がボケたんだよ。あ?」
「あははー。さすが影天さん面白いですー」
「いや、今のはボケてねぇだろ! どこに笑う要素があった――!?」
片手で口を隠しクスクス笑うリリルに、ネームレスが激昂した。
そんな彼らのやり取りを見ながら、ラミナは小さく言葉を発す。
「不思議な関係ですね」
「は? 何が?」
言葉の意味が分からずに、ネームレスが尋ね返した。
しかし、疑問を抱いているのは彼女も同じのようだ。
「あなた方、双方の接触記録はごく最近、と伺っております。しかし、その間柄はわたくしとマスター以上――まるで長年付き添って居たかのような空気を醸し出しています」
「あぁ。だから、それをさっき俺らが言ってたんだよ」
それは、彼らを繋ぐ少年の存在があって初めて成し得たこと。
どんなに悲しくても、少年が笑えば皆もつられて笑ってしまう。
どんなにいがみ合っても、少年が怒れば立ちどころに収まってしまう。
逆に少年が困っていれば、皆が団結して助けの手を差し伸べる。
そして、誰が困っていても、少年は手を差し伸べるのだ。
「くく、そうであったの」
「はい、キリュウ様」
少女を縛る鎖を断ち切ったのも少年だ。
本人にその自覚はないだろう。
しかし、少女は、その感謝の表れとして、また少年に惹かれ行動を共にしているのだ。
「もげ太さんは、わたしたちの空気清浄機なのですよー」
「え、僕が空気清浄機? お部屋の家電ですか……?」
「へ……? ち、ちがうそーじゃねー! 落ち込むな、もげっちー!!」
微妙に肩を落とすもげ太を慰める。
その行為に、少年の周囲にいる人間全てが同調していた。
「ほーら、もげ太。ライオンだぞー。ガオー!」
「おい……。いくらもげっちもさすがにそこまでガキじゃ――」
「あはは!」
「って、ウケてるぅ――!?」
「ぷー。クスクス」
「って、テメーは俺を指差して笑ってんじゃねーよ!!」
こうして、少年を中心に一行は笑い合いながら旅路を歩んでいった。
視界に映っていた遠方の山麓が、鬱蒼と生い茂る【ディフル樹海】によって徐々に塗り潰されるころ、一行は目的の場所へ辿り着いていた。
その先に、新たな脅威が待ち受けていることを知りながらも、一行の歩幅が変わることはない。




