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エルエル回

2016/09/15

本文修正しました

 



 ラミナと名乗る銀髪の女性。

 透き通るような白い肌に、細い耳。

 その容姿は――


「エルフ……か?」

「はい。出身は≪セイングリフ≫となります」

「驚いたな……」


 エルフ――。


≪セイングリフ≫という世界に暮らし、≪エレスティア≫という精霊神を信仰する種族だ。

 人に近い容姿を持つが、彼らユームとは微妙に異なる点がある。

 その最大の特徴は耳。

 個性により長さや太さに違いはあるが、全体的にユームより細く、先端が尖っている。

 そして、色素の薄い肌は雪のように白くきめ細かい。

 同様に髪の色素も少なく、光を受けるとメタリックのような輝きを見せる。

 ラミナの場合は、緑銀に近い色合いとなっていた。


「うわぁ! 初めまして! 僕、もげ太です!!」

「!」


 それに最大の歓喜を見せるのは、やはりもげ太だった。

 ラミナの手を取り、ぶんぶんと上下に振っている。

 興奮がオーバーゲージしているのだろう。

 その他の面々はというと、


「初めまして、スズランよ」

「リリルですー」

「キリュウじゃ」

「ネームレス」


 どこか態度が素っ気ないのは、とあるエルフ種族の片眼鏡男のことを思い出してしまっているのだろう。

 特に接点のなかったエルニドは、


「初めましてだな。俺の名はエルニド、タイプは重剣士だ。よろしく頼む」


 さわやかに挨拶を述べ、片手を差し出して握手を交わしていた。


「“装天”だな?」

「はい。そのように呼ばれております」

「そうか……。てっきり“形天”の穴埋めとばかり思っていたのだが、失礼した。後継(こうけい)なんだな」

「それは偶然の賜物です。十二天の高名は、自称をできるような類のものではありませんので」

「言う通りだ」


 彼女の言葉は事実だった。

 もし、仮に焔天が引退するとして“では、もげ太をもげ天にする――!”と公称したところで多少の影響は与えるだろうが受け入れられるかどうかは別の話。

 さすがに例え話としては極端ではあるが。


「もげ太」

「うん!」


 エルニドの手が少年の背中を優しく押した。


「ラミナさん、是非、エバーフレンズに入りませんか!」


 ストレートな勧誘を告げた。

 あの男の知人ということで懸念があったが、短いやり取りやいつも通りの無邪気な少年の反応を見るに、彼女に不審な点は見受けられない。


「はい。わたくしで宜しければ」


 女性が微笑みを浮かべ快諾した。

 新たなメンバーに加わるとなれば、ネームレスやキリュウ、スズランも気後れをしている場合ではない。

 彼女を取り囲むように近づいた。


「おー、よろしくな」

「よしなに頼むのじゃ」

「よろしくね」

「こちらこそよろしくお願いします。――あっ。ですが……」

「ですが、なんだ?」


 ネームレスが、ラミナの反応を訝しんだ。


「大変申し上げにくいのですが……」

「やっぱダメとか?」

「いえ、滅相もありません! その、実は……」


 ラミナはごくりと喉を鳴らし、言葉を続けた。


「わたし、銃を構えると少し人格が変わってしまうのですが……それでも大丈夫でしょうか?」

「あー。なんだ、ンなことか。別に気にすんなっての」


 あっけらかんと手を振る。

 こうして誕生したエバーフレンズの五人目は、別世界出身のエルフとなった。

 ただし、彼女の特性を一行はまだ知らない。



 [ラミナが≪エバーフレンズ≫に参加しました]



 [メンバー]

 ラミナ Lv270

 クラス:フィリ




 ◇




 新たなギルドメンバーを迎え入れたエバーフレンズ。

 そして、もげ太パーティにも加わることになる。


「光天」

「はい? なんですー?」

「……少し話があるのだが」


 呼ばれたリリルは、エルニドの表情で複雑な心境を察したようだ。

 彼にとって何やら由々しき事態があるのだろう。




 ◇




 エルニドは葛藤に苛まれていた。

 友人とUWOの世界で遊べるのは喜ばしい限りだ。

 友人にとって心強い仲間も増えていき、いつの間にか立派に戦えるほどに目まぐるしい成長を遂げた。

 気が付けばギルドマスターなんて役職にまで就いている。

 巣立っていく子を見守る親鳥は、こういう心境なのだろうか。

 そこに悩みなんてないし、当然のことながら問題もない。


 ――問題があるとしたら自分だ。


 友人が作ったギルドには続々と仲間たちが参加し、新たな絆を育もうとしている。

 その絆は、今度より大きく、強固なものへ成長していくことだろう。

 しかし、既に別のギルドに所属している自分はそこに足を踏み入れることはできない。

 ギルドトークやギルドイベントがあったところで参加する権利もない。


 ――一体、どうするべきか。


 自分と近い立場にあった戦天と白花。

 彼女らはこれまでの歩みを捨て、友人と歩く道を選んだ。

 ギルドの長と幹部としては無責任な行動と批判を受けるかもしれない。

 しかし、そうまでして自分の道を歩めるのは羨ましくも思えた。

 現に花月に引継ぎがなされた楓柳は、いまだその規模を縮小することなく存続しているのだ。


 ――では、自分に同じ道が歩めるのか?


 歩めるのであれば、これまでの間に行動に移しているはずだ。

 こういう時、実は自分は芯が弱いのではないかと考えてしまう。

 何かを失うことを恐れているのだろうか。

 いや、今さらそれが何か言うまでもない。


 ――もし、光天のようにギルドマスターという確固たる地位があれば悩むことはないのか。


 やはり一度、彼女と腹を割って話合ってみる必要があるかもしれない。

 ひょっとしたら、彼女も自分と同じ悩みを抱えている可能性だってあるのだ――。




 ◇




 エルニドに声を掛けられた時、リリルは唸っていた。

 彼女にも彼女とて悩みはあるのだ。


「うーん……」


 例えば、目の前に新作の美味しそうなドーナツがあって、さらにそれが二種類。

 そのどちらかしか食べられないとしたらどうしよう。

 ひとつは自分の分で、もうひとつはぽーちゃんの分。

 一体どうすれば両方食べれるの?


 ――誰か教えて!


 え? 旦那が帰宅する前に両方食べちゃう?


 ――うん、それはいいですね!


 そうだ! 旦那にはまた後で買って来ればいいんだ!

 あ、買いに行くのはわたしじゃないけどー。


 ――えっ、ひどい?


 ううん! これは例えばの話。実話じゃないからオッケー!

 でも、両方食べたらカロリーオーバーしてしまうのが泣きどころかなぁ?

 うーん……うーん……何もしないで痩せる方法ないかなぁ。

 UWOでもっとカロリー消費してくれればいいのにっ!!


 ――あ。


 あとあと、あのラミナさんて人。

 すっごくスタイル良くて羨ましい……。

 個人情報をデータ化してるわけだから、きっと彼女はリアルでもスタイルいいわけだよね……。


 ――わっ、わたしだってまだ負けてないんだからっ!


 そうだ、焔天さんにも聞いてみよう。

 うん、それがいい!




 ◇




「あ。わたしもちょうど焔天さんに聞きたいことがあったんですよー」

「それは奇遇だな。どういう話だ?」

「はい!」


 話を聞いてエルニドは絶句した。


「わたしとラミナさん。どっちの方が可愛いと思います?」

「………………」


 エルニドは悟った。

 これは、不正解を選べば死亡フラグが立つと。

 そして、正解を選ぶことによって自分の中で何かが崩れてしまうのだと。


 ――これは、こちらの悩みを打ち明けている場合ではない。


「すまない。急用が入ってしまった」

「えっ? あの――」


 そうして、エルニドは脱兎の如く駆け出した。

 次なる相談相手を探して。




 ◇




 人間、誰しもが悩みを抱えている。

 人によってその尺度は異なるが、悩みのない人物などそうそう居はしない。

 それは、ここに居る彼ら彼女らとて同じことだ。


 悩める子羊――そう言うと語弊はあるものの、男が声を掛けたのは、その内のひとりだった。




 ◇




 スズランは今後の模索をしていた。


「ふぅ……」


 どうすれば、意中の相手を振り向かせることができるのかと。

 顔やスタイルにはそれなりに自信がある。

 ネックを挙げれば、仮想世界では上手く生かせないことか。

 背丈やスタイルなどはある程度再現されるが、ある少女のように弄れないことはないし、フェイスアバターに関しては言わずもがな。


 ――そうなると、少々不利ね。


 外見が無理なら中身で勝負をするしかない。

 そちらに関しては我がことながら正直に言って自信がなかった。

 生い立ちを含め、あまり褒められた環境に居なかったせいだろう。

 それを悔やんだところでどうにもならないし、そもそも自分にはどうにもできなかったのだ。


 ――あぁ、そうだ。


 しかし、それは過去の話。

 そんな自分を救い出してくれたのが彼。

 何ひとつ迷わず自分の信念を貫ける――――そんな彼に、自らの渇き切った心はすぐ惹き寄せられてしまった。

 分かっていても、わたしにはできなかったこと。

 きっと彼ならば容易にやってしまうのだ。

 そんな彼が望むことならば、何でも行う所存だ。


 ――でも、最近気になることがある。


 もしかしたら……彼は、小さい子が好きなのかもしれない。

 それは、女の子なのか。

 それとも男の子でも構わないのか。

 本人は否定をしていても、それが定かとは思えない。


 ――それだけは真似ができない。


 生まれ持ったスタイルのせい。

 頼みのアバターですら偽装することもできない。

 今、彼の天秤に乗っているのは、可愛い男の子と可愛い女の子。

 本命はどちら?


 でも……今は静かに隣を歩く幸せを静かに噛み締めよう。

 わたしは、彼の隣で夢を見る花。


 ――あ、今度こそ彼の倫理プログラムを強制解除しておかないと。




 ◇




「白花、少しいいか?」

「あら? ちょうどいいところに来たわね」


 この巨漢も、色々と疑惑の絶えない人物だ。

 これまで、艶のある会話は一切聞かないし、噂ひとつ立っていない。

 子連れ狼と言えば聞こえはいいが、文字通り狼なのかもしれない。

 そして、最近は巷の薄い本(・・・)が話題になりつつある。


「あなた、(ネームレス)とどういう関係なの?」

「は? どういうって……」

「実はデキてるとか?」

「ぶっ――!!」


 エルニドは盛大に噴き出した。

 そして、よろめきながらその場を後にした。




 ◇




 キリュウは人知れず落ち込んでいた。


「参ったの……」


 こんな時、自分に喝を入れてくれた男は傍にはいない。

 スズランなら慰めや励ましをくれるだろう。

 しかし、求めているものとは少し異なる。

 気落ちしている理由は二つ。

 その内のひとつはある男に結び付く。


 ――クジョウ。


 形天の名は古くから知っていた。

 どういった理由かは存じてないが、いつからか付き纏われていたせいだ。

 大量のメールを投下され、時には大量の贈り物が届けられ。

 また、ある時は有益な情報をも伝えてくることがあった。

 自身が戦天たる一旦は、彼の協力に預かる部分もある。

 ゲンマは「通報しろ」の一点張りだったが、どういうわけかクジョウに対してはその機能がロックされていた。


 ――よもや、GMだったとは……。


 それは、通報できないはずだ。

 そして、こちらのアカウント情報が筒抜けなのも頷ける。


 ――が、それはともかく。


 それだけ有力な男であれば必ずやエバフレの力になってくれるものと思っていたのだが、どうにも目論見が外れてしまった。

 ただし、“装天”という強力な仲間を得ることができたのだし、結果オーライともいえる。

 人格的には、あの男よりよほど良いに違いない。


 ――問題は、装天とやらの容姿について。


 スズランとて、背は高い方だが彼女はそれ以上。

 スタイルも引けを取らない。

 そうは言ったものの、自身とて年の割に成育は著しい方だ。

 しかし、エバフレの女性枠――この二人に挟まれては、まるで自分が童のよう。


 どうすれば、大人になれるのか。

 今よりさらに大きくなれるのか。


 そんな時にやって来たのは、パーティの父親代表のような男だった。




 ◇




「あぁ。戦天か」

「おぉ、禿のではないか!」

「帰る」

「待て待て待てぃっ――!!」


 エルニドは、即座に(きびす)を返した。




 ◇




 ネームレスは大いに悩んでいた。


「ちっ……」


 舌打ちの理由は、近頃の戦績にあった。

 初めて黒星を付けられたのは――月天。

 相手に敗北を言い訳をさせないよう、満月時に対峙したのが仇となった。

 リベンジリストの第一号だ。


 ――そして、第二号。


 メルニカの街で急遽行われた対人戦。

 相手は、十二天の中でも名高い――戦天。

 普通、街中でアンリミテッドなんて撃つものか?

 耐久バリ高のセカンドシティの一部が崩壊するほどの損害を与えたのに、ネームカラーが青色のままなのも疑問だ。

 街中なんて赤ネの分際で変にモラルを意識したのが敗因だ。


 ――最後に、第三号。


 これも街中でいきなり勃発した決闘。

 月天、戦天、ラストの光天と――黒星は全て“三傑”だ。

 成り行きのように挑まれ、そのまま敗北させられたのが釈然としない。

 そして、追及こそしなかったが光天が見せたあの能力――戦天同様、こちらのリミテッドを貫通してきたのだ。

 これが何を意味するか、受けた身だからこそ分かる。


 ――あの女……。


 形天に披露しないで、こちらにぶつけてくるとは一体どういう了見か。

 素直に評価と受け取るには、相手の人格に問題があり過ぎる。

 おそらくは、こちらに土を着けるだけのただの嫌がらせだろう。


 ――こうなったら。


 汚名は返上するしかない。

 そんな時に、ちょうど現れた男がいた。




 ◇




「ネームレスか」

「よし、勝負だハゲ」

「誰が禿げか――!?」


 こうして、瞬時に沸騰した焔天と影天との戦いは勃発した。

 しかし、罵詈雑言を飛ばし合いながらの決闘だったのが悪かったのか、


「喧嘩はダメだよ?」


 すぐにやって来た少年に水を差されることになる。


「はい……」

「はい……」


 こうして、二天は再び正座して謝る運びとなった。

 余談ではあるが、現状、数少ない悩みのない人物はここにひとりだけ存在していた。




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